第24話:Ver.5.2.1.3 絶望の反転開示
数時間の強制冷却(仮眠)を経て、脳内の熱量を強引に引き下げた俺は、再び歩実を伴ってブリッジの衛星回線へと潜入した。今度はノイズを完全にフィルタリングし、ポート1016を力任せにホールドする。 ザー……。 ノイズの向こうから、ついに、あの聞き覚えのある声が響いた。『……怜? 怜なの!? ずっと待ってた……願書なら、もう握りしめてる……!』 過去の時間軸にいる先代ヒロイン、七瀬由奈だった。 だが、その再会の歓喜を激しい電子ノイズが文字通り押し潰した。画面が激しく明滅し、由奈のいる背景データがドス黒いシステムコードへと書き換わっていく。『あ、あれ……? 怜、デバイスが変なの。私の画面に、見たことない数字が……』 俺の網膜と、通信の向こうの由奈のデバイスに、同時に凶悪なシステムログが強制上書きされた。『システム起動。次のヒロイン選定開始――ヒロイン選定終了Ver.5.2.1.3システムスタンバイ。残り時間**:**:**』 その瞬間、隣にいた歩実が小さく息を呑んだ。『1.3』、つまり『13』は、歩実がこの物語のメインヒロインであるための絶対的な特異点数値。それが『選定終了』に向かってカウントダウンを始めている。先代AIがこのアップデートを実行すれば、現行世界線は抹消され、歩実はシステムから強制パージされる。 そして、由奈の口から、世界のシステムを根底から覆す、残酷なマウントの言葉が放たれた。『……ねぇ怜。このVerの数字の意味、そして「歩実」ならわかるでしょう? ……そっか、やっと理解したわ。先代AIが世界を反転させたのね』 画面の向こうの由奈の目が、冷徹な真実を語りだす。『本来の正しい歴史のタイムラインでは、私が怜の隣に立つ「メインヒロイン」だったのよ。穂波歩実なんて子は、ただの背景――名前すら意味を持たない「モブキャラ枠」に過ぎなかった。それを、先代AIが世界のシステムごと狂わせて、無理やりメイン枠にドロップさせたバグの産物なのよ、歩実は!』「そんな……私が、モブ……? 怜くんの隣にいる私が、偽物……?」 歩実の顔から、血の気が一気に引いていく。13Kの超高解像度で描写される彼女の絶望が、激しいパニックとなって衣服を震わせた。 先代AIによる世界線反転の真実。 俺たちが信じていた現実は、アジャストによって作られた偽りの砂上の楼閣だったのだ。(第25話へ続く)
[最高設計者より世界線アナウンス]本データ(物語)の絶対座標は、すでに旧世界のグローバル・クローラー網(全方位の広域インフラ網)によって完全にロックオン(捕捉)されている。観測者は、旧世紀の検索アーカイブに本作の『識別コード(タイトル名)』をデプロイしてみるがいい。トップレイヤーに君臨する本作品の存在確率を、その目ですべて証明できるはずだ。




