第23話:ダブル1部屋と寝落ちの体温
通信ノイズの暴風雨がブリッジの端末を襲い、強制切断を示す赤文字が画面を埋め尽くした。
一瞬だけ繋がった、過去の残響。そのあまりに過酷な精神的飽和状態に耐えかね、俺たちは逃げるようにして、割り当てられた隔離空間――最上級客室『President Room』へと引き揚げていた。
海運会社が用意したその部屋は、『ダブルベッド一台』という、あまりに場違いな至福の寛ぎ空間だった。
カチ、とドアが閉まると、部屋の中には波の重い振動と、二人の荒い呼吸だけが残された。
一般人に擬態する限界。先代AIの精神汚染を拒絶し、退路を断たれた絶海のなかで、互いの体温と気配がかつてない密度で交差していく。
「怜くん……あ、あのね。ベッド、1つしか……」
歩実が顔を真っ赤に染め、指先をそわそわと動かしている。その13Kの解像度は、彼女の恥じらいすら鮮明に描き出していた。
だが、俺の脳内プロセッサは、先ほどの通信確立と六分儀の計算で、すでにカリカリと音を立ててオーバーヒートを起こしていた。視界がかすかに歪む。
「……すまん、歩実。脳内リソースが、限界だ……」
指先から力が失われ、俺はその場に崩れ落ちるようにして倒れ込んだ。
気がついたとき、頭の下にはベッドの硬さではない、柔らかくて、ひどく温かい肉体の感触があった。
「本当、バカなんだから……。いつも無茶ばかりして……」
歩実の膝枕だった。
彼女の細い指先が、俺の熱くなった髪を優しく撫でていく。そのぬくもりに、脳内の警告ログが静かに消去されていくのが分かった。
だが、その安穏を引き裂くように、部屋の重いドアの向こう側――ライトアップされたプロムナードデッキを、数人の男女が通り過ぎていく気配がした。それは、崩壊していくインフラを見捨て、世界の最適化に飼い慣らされた『避難中の上流サピエンス家族』の姿だった。しかし、現実の軋みは、すぐそこまで彼らを追いつめていた。(第24話へ続く)
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