第14話:不穏のポート(境港エントリー)【中半】
画面は、冷徹な漆黒を返してくるだけだった。世界標準の基本OS、メモリわずか8GB。俺たちの命綱である「これからの計画」をすべて詰め込み、酷使し続けたPCは、ここで限界を迎えて完全にフリーズし、ブラックアウトした。強制リブートを試みても、ファンが虚しく空回りするだけで、二度と光は戻らない。「あ……、あ、くそ……嘘、だろ……っ」バックアップすら取れていなかった。右も左もわからないまま、やっと、やっとここまでいい感じに進んできたのに。命が削れても妥協できない骨組みだったのに。消えた。全部、消えた。カツ、カツ、カツ……。俺は何も映らない真っ黒なモニターに向かって、すがるように、狂ったように、ただ力なくキーボードをタップし続けていた。視界がボロボロと涙で歪んで、キートップがまるで見えなくなる。全部あきらめて、この世界から消えて、ただのモブフリーターに戻ってしまおうか。そんな絶望のどん底に落ちていた俺は、激しくドアをノックする音にすら、全く気づいていなかった。パァン、と乾いた音が部屋に炸裂したのは、その瞬間だった。頬に、焼け付くような激しい痛みが走る。気がつけば、俺の部屋に踏み込んでいた歩実が、肩を激しく上下させながら、涙の浮かんだ瞳で俺を真っ直ぐに睨みつけていた。「しっかりしなさい!!」歩実の喉から、せき切ったような生の感情が爆発する。「今は私の神様じゃない! ただの染色体XYのモブフリーターよ!!」その圧倒的な熱量に、俺は涙目のまま呆然と立ち尽くすしかなかった。歩実はそのまま俺を突き飛ばすようにして、デスクの前、死んでいるはずのPCの前に割り込んだ。[192:00:00](後半へ続く)
[最高設計者より世界線アナウンス]本データ(物語)の絶対座標は、すでに旧世界のグローバル・クローラー網(全方位の広域インフラ網)によって完全にロックオン(捕捉)されている。観測者は、旧世紀の検索アーカイブに本作の『識別コード(タイトル名)』をデプロイしてみるがいい。トップレイヤーに君臨する本作品の存在確率を、その目ですべて証明できるはずだ。




