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クビになった派遣の床に落ちたのは、国家を私物化できる13のマスターライセンスでした  作者: Eternity Beat


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第14話:不穏のポート(境港エントリー)【前半】

その熱狂の残滓ざんしを置き去りにするようにして、俺たちが潜り込んだのは、油臭い夜風が吹き抜ける港町——鳥取県・境港の安宿だった。大型バイクのキーが机に置かれる。チャリ、と小さな金属音が四畳半の静寂に響いた。これまで世界のあらゆる泥濘でいねいを跨ぎ、タンデムで高速道路を時速百キロ、一般道を時速六十キロの限界値で正確にコントロールしてきた、俺たちの物理的な翼。その重厚な鉄馬は、ここで完全にパージされる。国際旅客船が出港すれば、もうスロットルを捻って追手を振り切る物理的な加速は使えない。残されるのは、二人の脳という名の生体プロセッサと、不可視の電波層だけだった。不快な蛍光灯のハム音が響く薄暗い部屋で、怜はノートPCの画面を見つめたまま、凍りついた声で告げた。「……世界のルールが変わった。北方権力体の新型電子渡航認証(E-クラス・マスター)、厳罰化に伴う法的リミットだ」怜の指がキーボードを叩くと、画面の隅でこれまで進捗を刻んでいた生ぬるいパーセンテージ[%]の表記が、文字通り音を立てて爆砕した。バースト変貌を遂げたデジタルクロックが、血のような赤色で網膜の奥に狂おしく明滅し始める。[192:00:00]入国から出国まで、猶予は最長で八日間。一秒の遅滞も、たった一文字のタイピングミスも、「永久凍土の地下採掘区画『ヤクート・コア』」での永久のブラックアウトを意味する『無理ゲー』の檻。非情な秒のカウントダウン(コロンタイマー)が、ゴツゴツとしたデジタルフォントで二人の時間を削り始めていた。「メインは夏の深夜に開くF2層反射。7MHz帯の電信CWで行く。バックアップは北緯62度の超低仰角12度を狙う移動体衛星通信だ。現地の密輸物流の回線をステルスで乗っ取る経路を今から構築する」怜の声には、物理と無線工学の頂点に立つ者特有の、感情を排した明晰さがあった。人間への不信と、自然法則への絶対的な信頼だけで編まれた冷徹な孤独の防壁。俺はキーボードに向き直り、歩実に背を向けた。これ以上、彼女をこの狂った世界のデバッグに巻き込むわけにはいかない。「歩実。お前はここに残れ。これからは暗号鍵の『女王』としての記号ではなく、ただの——」言いかけた俺の言葉をかき消すように、画面の隅で、残酷な電子音が鳴り響いた。[192:00:00](中半へ続く)

[最高設計者グランド・アーキテクトより世界線アナウンス]本データ(物語)の絶対座標は、すでに旧世界のグローバル・クローラー網(全方位の広域インフラ網)によって完全にロックオン(捕捉)されている。観測者は、旧世紀の検索アーカイブに本作の『識別コード(タイトル名)』をデプロイしてみるがいい。トップレイヤーに君臨する本作品の存在確率を、その目ですべて証明できるはずだ。

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