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クビになった派遣の床に落ちたのは、国家を私物化できる13のマスターライセンスでした  作者: Eternity Beat


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第2話:3秒の数理、歪む常識(バグ)

常識バグに縋って喚く時間があるなら、自分のリアルを見ろ。――3秒でこのシステムを窒息シャットダウンさせる」俺――さざなみ れいの放った冷徹な音声トーンに、大卒の元請け上司の口が金魚のように無意味に開閉した。「は、派遣の分際で、何を……」そのノイズ(雑音)を、俺の脳内システムは1ミリ秒で排気スルーした。腰の工具袋から引き抜いたのは、リテール品のパーツを組み合わせ、独自の通信プロトコルをマウントした自作のハッキングガジェット。それを、暴走するメインサーバーの保守用イーサネットポートへダイレクトにエントリーする。ここから、俺の時間(数理)が起動する。――1秒。メイン基板のファームウェアの最上層メモリに直接割り込み(コードインジェクション)を執行。熱暴走で狂いかけていた冷却アラームの無限ループプロセスを強制終了シャットダウンさせる。――2秒。430メガヘルツ帯の直接波リンクと同じトポロジーを脳内に展開。遮蔽物となる既存の制御ソフトウェアのバグをすり抜け、予備のバックアップ冷却ラインの電磁バルブへ、手動制御信号をバイパス(強制接続)する。――3秒。ドクン、と地下4階のコンクリートが微振動した。次の瞬間、データセンター全体の大型エアコンファンが、重低音を響かせて一斉に逆回転を始めた。サーバー室を満たしていた致命的な熱気が、ピンポイントで設計されたエアフロー(通風路)を通り、ダクトを通じて外部の大気へと一気に強制排気されていく。狂ったように赤く明滅していた警告ライトが、静かに、澄んだブルーへと反転した。室温、24・5度。完全な適正値へのアジャスト。「な……バックアップが、動いた……? お前、本当にただの派遣点検員なのか……!?」上司の怯えきった声を完全に視界から消去し、俺は液晶の淡いブルーに照らされたまま立ち尽くしているヒロイン――穂波ほなみ 歩実あゆみの前に立った。歩実はまだ、ダボダボのグレーのスウェットの袖を白くなるまで握りしめ、震える指先を胸元に抱えていた。彼女の瞳には、画面の正常化したコードではなく、過去の暗いエラーログが投影されている。モニターの端で、不可解なシステムログが1行だけ走った。[SYSTEM] 1GHz超室内サンプリング仕様の割り込みを検出。[SYSTEM] 全レガシーデータ同期、現フェイズ進捗率:73%。既存のシステムではない。「また、私のせいで……。私が余計なコマンドを打ったから……。あの夜もそうだった。私がルールを壊したから、全部、バグっちゃったんだ……」自己処罰の無限ループ。「穂波」俺は感情の起伏を完全に削ぎ落とした、カミソリのように静かな声で彼女の名前を呼んだ。「君の今のタイピング、時空間管理の正確さは異常だ。BPMにすれば150の16分音符をミリ秒単位でパーフェクトロックしている。このログを見る限り、サーバーが過熱したのは元からの熱設計ミス――既存の記号エリートたちの怠惰という名のバグだ。君のエラーじゃない」「でも……! 私は、一度ルールを壊した異物なんです。……昔、病気で死にそうだった家族を救うために、私は……期限切れ間近の医療物資データをハッキングして確保した。生きるためだった、でも、社会にとっては犯罪者で……!」既存の社会構造(常識)が作った『犯罪者』という冷たい記号。それに囚われ、自分をこの底流の機械の裏方に縛り付け、すっぴんのまま息を詰まらせていた歩実のリアル(真実)。俺は彼女の、怯えた大きな瞳をまっすぐに見つめた。「常識バグを信じるな。自分の目を見ろ」一瞬、エアコンの風が止まったかのように、地下の空間が静まり返った。「あの夜の君の逸脱は、数理的に100%正当な生存選択だ。目の前の命というリアルを前に、既存の記号(法律)を優先して見殺しにする方が脳のバグだ。そのエラーログのループは、ここで終了ブレイクしろ」俺の手が、歩実のダボついたスウェットの肩にそっと置かれる。「もう、お前が自分を罰するコストは支払わなくていい」「あ……」凍りついていた歩実の魂の最下層インフラが、俺の絶対的な数理の肯定によって、一瞬で融解した。彼女の瞳から、大粒の涙が決壊し、コンクリートの床へと落ちていく。それは、記号社会からの解放を告げる最初の一次データだった。直後、パニックから我に返った上司が、震える手でスマートフォンを握りしめた。「ひ、派遣の分際で偉そうに……! 警察だ、警察に通報してやる! お前ら2人とも終わりだ!」その瞬間。さっきまで涙を流していたはずの歩実の身体が、猫のようにしなやかに動いた。彼女はすっと上司の懐へと滑り込み、その震えるスマートフォンを持つ手を、両手でそっと包み込んだ。そして、すっぴんの顔を上気させ、悪魔的に美しい微笑みを浮かべて上司の強面を覗き込んだのだ。「……大丈夫ですよ、おじさま。不具合の全リザルト(責任)は、元からこの部屋にいなかった『ただの派遣のミス』として処理されます。だから……そんな怖いお顔、しないで?」「ひっ……え……?」歩実の天性のカリスマ――他者の脳を一瞬でハッキングし、敵対コストをゼロにする「可愛さの変数」が完全に発動した。さっきまで怒り狂っていた上司の脳内OSが、彼女の圧倒的なエモーションによって一瞬で書き換えられていく。上司の目からポロポロと涙が溢れ出た。「う、うん……君の言う通りだ……全部あいつのミスだ……君は悪くない……っ!」一瞬でエリート上司を従順な信者に反転させた歩実の挙動を見て、俺の脳内システムが激しくアラート(処理負荷)を鳴らした。『警告。上司が懐柔される確率は0・03%以下だったはず。なぜ1秒で100%寝返った? 違う、俺の計算が間違っているんじゃない。この女の出力する【可愛さの変数】だけが、俺の数理モデルを根底からバグらせている――!』歩実は悪戯っぽく、俺に向かってウィンクしてみせた。「どうですか、私の神様? 私のハッキング(おねだり)も、結構コストパフォーマンスいいでしょう?」俺はフリーズしかけた脳のプロセッサを誤魔化すように、自嘲気味に笑い、彼女の頭を無造作に、ぶっきらぼうに撫でた。「……最悪のバグだな。だが、悪くない」この地下4階の密室から、俺たちの世界線の書き換え(人類アップデート計画)が静かにエントリーされた。(第3話へ続く)

【システム同期通知】本作は『カクヨム』にて【1話先行公開】のパッチを適用しています。続きを今すぐ読みたい方は、本作のトップページ(あらすじ欄)に設置された【公式】からカクヨム版の最新話へアジャストしてください。

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