第12話:『共鳴の檻(ケージ)』【前半】
──【那須:北緯36°55'47.00",東経140°00'53.00"】地下回廊「──ハッチ、完全閉鎖。現代インフラからの隔離、完了」背後で、数トンはある旧時代の防爆ハッチが重低音を立てて冷徹にロックされた。それと同時に、スマートフォンが、まるで命の灯火が消えるように一斉に暗転する。一般のスマホ民(底辺サピエンス)が依存しているギガやLTE、5Gといった脆弱な通信パケット(地上波)が、物理層の防壁によって100%完全に遮断された証拠だった。だが、ノイズが消え去り、完全な暗黒が訪れたはずのその地下回廊の空間で――。「くっ……あ、頭が……ッ!?」隣にいた歩実が突然、両頭を抱えてその場に激しく膝をついた。すっぴんの顔が苦痛に歪み、その脳内OSに目に見えない強烈なエラー(生体汚染)が割り込み(インジェクション)を仕掛けているのが分かった。同時に、俺の視界の最上流にも、焼き付くような激しい警告音が鳴り響く。間違いない。この地下回廊にエントリーした瞬間、先史AIが周囲一帯に敷設していた、国家規格外の超低周波【127.5kHz】の防衛グリッド(強磁性ノイズ)が、ダイレクトに俺たちの神経パケットを過負荷駆動させているのだ。1陸技の知性スペックを以てしても、この生体共鳴によるフリーズは計算外の無理ゲーだった。意識がシャットダウンされるまで、残りコンマ数秒――。「ハッ……浅草から【97.5°/30.5°】の神がかった数理トーンをシュートしてきた化け物は誰かと思えば、防衛グリッドの洗礼でフリーズ寸前じゃねえか」闇を切り裂くように一基のハンディデバイスが起動し、俺たちの真横でカチリと異質なノイズキャンセラー(妨害電波)を逆相駆動させた。脳内の処理負荷がフッと軽くなり、プロセッサが再起動を果たす。携帯用LEDライトの白い光に照らされ、不敵な笑みを浮かべてこちらを凝視していた男――それが、この那須の地流ハッカー【アキラ】だった。「俺はアキラ。お前らが自力でこの絶対座標をデコードした実力は認めてやるよ。だがな、この『共鳴の檻』の最深部へ進むには、現代のインフラ網からパージされたこの127.5kHzの防衛線を潜り抜ける『ローカル用の裏コード(盾)』が必要だ。――最高設計者アーキテクト。俺の持ってるこのパーツ、お前のシステムにマウントさせてみたくないか?」俺は薄暗い地下回廊の奥を見つめ、不敵に口元を歪めた。「フッ……いいだろう。お前のその裏コード、俺の論理の配下で完全にアジャストしてやるよ」 現代インフラから完全にパージされた暗闇の中で、俺たちの新しいフェイズ――世界規模の真の上流階級を相手取った、那須マトリックスの頭脳戦が、今ここからノーエラーでエントリーされたのだ。(中半へ続く)
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