表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《完結》推しの悪役聖女(魔力マルサ)に転生したので、ゲーム知識で破滅フラグをへし折ります  作者: ひより那
=== 002 ===

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/46

第18話 悪役聖女と虚飾の画廊

 絵画に意識を引きずり込まれる、という未知の感覚。

 視界が暗転し、次に目を開けた時、私は、見覚えのない場所に立っていた。

 そこは、どこまでも続いているかのような、長い長い美術館の廊下だった。磨き上げられた床、等間隔に並ぶ燭台。そして、その壁一面に、無数の肖像画が飾られている。

 描かれているのは、全て同じ女性。レンブラント侯爵の、亡き妻。だが、そのどれもが、どこかおかしい。


 ある絵は、微笑んでいるはずの口元が、嘲笑うかのように歪んでいる。ある絵は、その色彩が古びてくすみ、まるで生気を感じさせない。またある絵は、そもそもデッサンが狂っており、人間ではない何かのように見えた。


(……ここは、絵画に宿った呪いの精神世界)


 エリーゼの「悲嘆の洞窟」、ライナーの「渇望の荒野」とは全く違う。侯爵の、妻に対する歪んだ執着と、失われた美を永遠に留めたいという願いが作り出した、無機質で、閉鎖的なダンジョン。しん、と静まり返った廊下に、私の足音だけがやけに大きく響く。


 その時だった。壁にかけられた一枚の絵画から、黒い絵の具がインクのようにじわりと染み出し、床に滴り落ちた。それは、意思を持ったように蠢き、やがて、描きかけで歪んだ人型の輪郭を成していく。デッサン人形のようなモンスターが、ぎこちない動きで、こちらへ向かってくる。


「……なるほど。今度の敵は、これですか」


 私は杖を構え、聖なる光を灯した。


「《聖光撃(ホーリー・ストライク)》!」


 光の弾丸が、絵の具のモンスターに直撃する。断末魔もなく、それはインクの染みに戻り、床に消えた。

 だが、安堵したのも束の間。別の絵画から、また一体、そのまた別の絵画から、もう一体と、次々に同じようなモンスターが湧き出してくる。


 倒しても、倒しても、キリがない。


(駄目だわ。このダンジョンは、力押しで進むタイプじゃない……謎解きが必要ね)


 私は、モンスターをいなしながら、周囲の状況を冷静に観察する。

 無数に飾られた、歪んだ肖像画。その中にきっと、一枚だけ、呪いに染まっていない「本物」があるはずだ。侯爵の、妻に対する純粋な愛情だけで描かれた、ただ一つの真実の絵画。それを見つけ出し、浄化することこそが、この迷宮の出口への鍵。


 私は、一つ一つの絵を確かめながら、廊下の奥へと進み始めた。偽物の絵に近づくと、絵の中の女性が、嘲るように笑いかけてきたり、あるいは、悲しげに涙を流したりする。そのたびに、新たなモンスターが生まれ、私に襲いかかってきた。


 いくつもの偽りの笑顔と涙を通り過ぎ、私は、ようやく廊下の突き当たりにある、ひときわ大きな両開きの扉にたどり着いた。


 扉の向こうは、広大なアトリエだった。そして、その中央に、一枚の肖像画が飾られている。これまで見てきたどの絵よりも大きく、精緻で、そして、圧倒的なまでに美しい妻の肖像画。


 だが、この絵から放たれる邪気は、これまでとは比べ物にならないほどに、濃く、そして禍々しかった。


 私が絵の前に立つと、静寂を破り、鈴を転がすような、しかしどこか冷たい声が響いた。


『……あなたは、だあれ?』


 声は、絵の中から聞こえてくる。絵の中の女性が、その唇を動かし、私に語りかけていた。


『あの人は、私のもの。彼の心も、思い出も、ぜんぶ、ぜんぶ、私のものなのに……』


 その瞳は、もはや愛情ではなく、歪んだ独占欲に濡れている。


『邪魔を、しないで』


 この声の主こそ、侯爵の執着を糧に成長した、呪いの核。侯爵自身が生み出してしまった、「理想の妻の幻影」。

 幻影がそう告げた瞬間、絵の中から、無数の絵筆やパレットナイフが、魔力の矢となって私めがけて飛んできた。


「くっ……!」


 咄嗟に杖で弾き、後方へ跳ぶ。

 今度のボスは、物理的な肉体を持たない。絵の中から、無限に攻撃を仕掛けてくる、厄介な相手だ。


「あなたを解放してあげるわ。侯爵の、本当の思い出と共に!」


 私は、浄化の魔法を詠唱しようと、聖なる力を練り上げる。

 だが、幻影の力が、それに激しく抵抗する。アトリエの空間そのものが、ぐにゃりと歪み始めた。


『この絵は、私のもの! あの人の心も、私のものよ!』


 幻影の絶叫と共に、壁も、床も、天井も、全てがどろりとした絵の具のように溶け出し、私を飲み込もうと迫ってくる。

 悪夢のような色彩の渦の中で、私は、この呪いの本質に、どう立ち向かうべきかを必死に探していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ