9.犯人は…
「ほら!お風呂入って!」
夜、リビングで寛いでいると母に促された私はそのまま脱衣所に向かって服を脱ごうとした。けれど2階に下着を忘れたことを思い出して脱ぐのをやめた。
脱衣所を出て2階に上がる。上がる際に何故か息を潜めてゆっくりと上がった。そっと足音を立てずに階段を上ると部屋の扉が開いていることに気がつく。
閉めたはずのドアが開いている。何故だろうか…
そっと扉前に近づくと静かに扉を開けた。すると部屋の中に亮太郎が立っていた。
「何してるの?」
亮太郎の背中に向かって尋ねるとハッとした顔で振り返る亮太郎。手元には私の折り畳まれたパンツを持っていて、下着の入ったタンスが開いていた。
「……何でもない。」
明らかに動揺する亮太郎に私は感情的になる。
「何でもなくないでしょ‼︎人のタンス勝手に開けて、なんで私の下着持ってるわけ⁉︎」
「……………」
「最近、私のパンツが減ってる気がしたの。…まさかあんたが盗んでたの⁉︎」
「俺じゃない‼︎姉ちゃんの下着なんて興味ねぇよ‼︎」
そう言って亮太郎は下着をタンスに仕舞って閉めるとぶっきらぼうに部屋を出ようした。
「誰に頼まれたの?」
私が尋ねると亮太郎の動きが止まる。
「私のパンツなんてあんた興味ないでしょ。誰に頼まれたの?正直に言いな。」
私の言葉に亮太郎は背中を向けたまま耳を真っ赤にして、「誰にも頼まれてない。」とだけ言うと部屋を出た。
私は亮太郎が嘘をついていることを確信しながら、それ以上は言及しなかった。
その晩、私は朝方の4時頃にベッドからそっと起き上がると忍足で亮太郎の部屋に向かい、音を立てないようにそっと扉を開けた。
カーテンが閉まって真っ暗な部屋で足元にスマホのライトを照らしながら部屋に入るとベッドで熟睡する亮太郎の寝顔が見えた。側にあるサイドテーブルにはスマホが置かれている。
そのスマホを音を立てないようにそっと取り出すと画面を開いて暗証番号を入力した。
弟の暗証番号くらい姉の私にはピンと来る。どうせ好きなバンドの結成日に違いない。
暗証番号を入れるとビンゴして画面のロックが解除された。
そのままラインのアイコンを開くと案の定、亮太郎は保乃とラインで繋がっていた。
着物を着て綺麗に結われた黒髪の後ろ姿のアイコン…保乃と書かれたラインとのやり取りを覗く。
直近のやり取りは恐らく先程、寝る前のやり取りだろう。
“すみません、姉にバレました。しばらく無理かもです。“
“そっかぁ〜バレちゃったかぁ〜。それじゃぁ、仕方ないね*“
“保乃さんに頼まれたことは言ってないんですけど、姉にバレるかもです。保乃さん、大丈夫ですか?“
“私?私はぜんぜん大丈夫!バレても平気だよ!だって私、來未ちゃんのこと大好きだもん“
保乃が指示していることを確信した私は弟を叩き起こした。
眠たげに目を開けた弟は私だと分かると面倒くさそうに再び目を閉じたが、スマホ見たよ。と言うとベッドから飛び起きた。
私が自分のスマホを持っているのを確認すると慌ててスマホを奪い返す亮太郎。
「おまっ、何やってんだよ!」
「あんたいつの間に保乃とライン交換してたの。」
「姉ちゃんには関係ねぇだろ‼︎」
「中身全部、見たよ。保乃なんでしょ。」
「………」
「保乃に指示されてやったんでしょ」
「違う!俺が勝手にやった!」
「中身ちゃんと見たから。言い訳出来ないよ。あんたあの女に騙されてるよ!」
「うるせぇ‼︎」
「…好きなの?」
私の言葉に亮太郎が反応して耳を赤くする。
「嘘でしょ…なんであんな女……」
図星を突かれた反応を示す亮太郎に私は絶望した。
「……うるせぇ」
スマホをぐっと握る亮太郎はわずかな声で反論する。
「なに?喧嘩してるの⁇」
二人、黙り込んでいると突然、廊下の明かりが点いて母が顔を覗かせた。
「なんでもない。」
私はそう言って慌てて亮太郎の部屋をあとにする。
「なんだか分かんないけど、早く寝なさい。寝て、忘れなさい。」
母の言葉を背に向けて私は自分の部屋へ逃げるように入った。




