7.失っていく
「來未ちゃん、おはよう。」
翌日、何事もなかったように挨拶する保乃に苛立ちを覚えた私は挨拶を無視した。すると保乃が申し訳なさそうに私に話しかけた。
「來未ちゃん、ごめん…難波くんから話聞いたよ…でもクッキーあげたのは難波くんだけじゃないの。難波くんのお友達や女の子たちにもあげたんだ…」
弁明する保乃をさらに無視して席に着く。というかいつの間にそこまで交流を広げていたのだろうか…。
鞄からスマホを取り出し、苛立ちながらいじり出すと見ていたその他の生徒たちがひそひそと何やら話し出す。耳を澄ますと聞こえる声は私に対するマイナスな声だった。
“クッキーあげただけであんな怒る?“
“意外と嫉妬深いんだ“ “めんどくせぇ“ “こわっ“
こわいって何?本当に恐いのは保乃なのに…
フラストレーションが溜まっていく。
すると美優や美菜まで保乃を庇い出した。
「來未…保乃は別に難波くんを狙ってたわけじゃないから。」
「そうだよ、気にしすぎだよ。」
誰になんと言われようと私はこの状況を受け入れられない。保乃がここに馴染めば馴染むほど私の居場所がなくなっていく。
孤立する教室で私の席だけが浮かび上がっているような感覚になった。
私を中心に浮かび上がって周りの生徒たちは誰も浮かばない。一人だけ浮遊しているような感覚だ。
夜、夕食後に部屋でスマホをいじっていると母に、早くお風呂に入って!と言われたので仕方なくお風呂を優先させることにした。
お風呂に入ろうとタンスから下着を出すために開くとやけに下着が少なくなっている。
「お母さん、私の下着ちゃんと洗濯してよ〜」
母に文句を言うと母は首を傾げて、「はぁ?毎日、何回もちゃんと回してるわよ!」と言われた。
「え、だって私の下着、やけに少ないよ。」
「お母さんはちゃんとしまってるわよ。あんたが自分でどこかに移動させたんじゃなくて?」
「移動ってどこにも…」
「そんなことよりさっさとお風呂入って!」
そう言われて流されるままお風呂に入る。
お風呂上がりに部屋に戻って全体を見回したり探し回っても結局、下着は見つからなかった。
首を傾げながら薄気味悪さを感じた。
学校に行くと保乃とは気まずいまま無視をする。
美菜たちからは「気にしないでいいのに…気にしすぎだよ!」と言われる。
気にしすぎと言われても私は気にせざる負えなかった。前はこんなに気にする人間じゃなかったのに…どうして?自分のこととなると途端に気になる。
クラスでは浮き、校内を歩くと生徒たちに冷ややかな目で見られる。好奇心の混じった目に冷たい視線、耐えられなくなった私は一人、トイレに逃げ込んだ。
放課後、下駄箱に向かう途中、京介を見つけて呼び止める。
「京介!」
名前を呼ぶと気まずそうな京介が素っ気なく返す。
「ごめん、もう部活あるから…」
前はギリギリまで喋っていたのに…多くの生徒が行き交う廊下で人目を気にするように京介が離れていく。
もう仲直りするには手遅れな気がした。
寂しさと虚しさ、焦燥感が私の胸をひた走る。




