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崩壊と再生  作者: 水綺はく


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6/11

6.クッキーなんてもう焼かない

 京介に不機嫌をばら撒いて帰ったことを後悔した私は彼のためにクッキーを焼くことにした。

夜な夜な焼いたクッキーはクマさんの型で抜いたココア味とハートの型で抜いたプレーン味の二種だ。

「こんな夜遅くに…もう11時よ…」

母に悪態をつかれながらキッチンを洗い物だらけにして作ったクッキーは透明のラッピング袋に入れて水色のモールで留めた。

クマさんのクッキーは白いアイシングで顔も描いてある。これを見たら京介はどんな反応をするだろうか…

“マジで⁉︎すごくない⁉︎ってかすげぇ美味いんだけど‼︎“

付き合って1ヶ月経った頃に初めて手作りクッキーをあげた時のことを思い出す。

大袈裟なくらい喜んでくれた京介の顔を今でも忘れられない。

京介が喜ぶ顔を想像すると大量の洗い物を始末するのも苦じゃなかった。


 翌日、クッキーを持って自分の教室に向かうと朝から保乃が皆んなに何やら配っていた。

「わぁ〜ありがとう。」

「え、自分で作ったの?ありがとう!」

クラスメイトの声を聞きながら何事かと思っていると保乃が私のところへ駆け寄ってきた。

「あ、保乃ちゃん!これ、よかったら…」

そう言って大きな白い紙袋から出して渡されたのはピンクのチェック柄のラッピング袋に包まれた手作りクッキーだった。

折り畳まれたラッピング袋の中には3枚のプレーンのハート型クッキーが入っている。

「昨日、お母さんと焼いたんだ!來未ちゃんもよかったら!」

「え、あぁ、うん…」

断れずに受け取ると保乃はさっさと別の子のところに行って同じクッキーを配り歩いていた。

このタイミングでクッキー…嫌なタイミングの合い方だ。そう思いながら配られたクッキーをその場で食べると私が作ったプレーンクッキーと同じ味がした。

クッキーはレシピが決まってるから味がほとんど似たり寄ったりになる。分かってはいるけれど嫌な気分だった。

でも私は京介の分しか用意していない。だから気にする必要はない。そう考えて授業も休み時間も自分の焼いたクッキーの話は誰にもせずに穏やかに乗り切った。

「はい、じゃあ、もうここでおしまい。」

迎えたホームルーム、担任の話を今か今かと待ち望んで終えるとすぐに教室を出た。

今日は掃除当番じゃないから掃除をする必要がない。部活も入っていない私はなんのしがらみもなく京介に会いに行ける。

クッキーの入ったラッピング袋を鞄に忍ばせて京介に会いに行く。京介のいる教室は一階上なので階段を上った。

階段を上って廊下を歩くとちょうど京介が教室を出るタイミングだった。

ナイスタイミング!そう思って京介と彼の友人らを見ると何故か彼らも保乃のクッキーを持って歩いていた。

え、なんで…?クラスが違うのに、京介は保乃と喋ったことないはずなのに…なんで?

疑問に思っていると京介と目が合って立ち止まる。

「あれ?どうしたの⁇」

何も分かっていない京介が私を見て驚いた顔を見せる。

「……それ、そのクッキー」

私が訊くと彼は悪気ないように、「あぁ!これ?岸谷さんがお母さんと大量に焼いたからあげるって言ってもらっちゃった!」と大きな声で話す。

周りの男子たちはフォローするように、俺らももらったよ!と話した。

でも違う。そうじゃない。今はそういうことじゃない。

我慢の糸が限界を迎えるようにプツリと切れるのがわかった。

「彼女からじゃないもの、そんな簡単に受け取らないでよ!しかもクッキーなんて…よりにもよって私の…」

私の、私の大切なアイデンティティを好きな人と一緒に奪われた。

そう感じた私はそのまま後ろを向いて逃げるように下に降りた。

「おい!來未!」

彼の言葉を無視して下に降りて、そのまま靴に履き替えて学校を出る。乾いたアスファルトの上を黙々と歩いているとタガが外れたように泣き出した。

汚れ水が溜まっていたダムが決壊するように涙がとめどなく溢れる。汚い感情と純粋なものが共に溢れ出る。今の私を誰も止めることは出来ない。

私、一体どうしちゃったんだろう…こんな人間じゃないはずなのに…

でも一度決壊したダムは中々、止まず泣きながら近くの公園に逃げ込んだ。

公園でベンチに座って泣きながら自分で焼いたクッキーを自分で食べる。その味は保乃が焼いたクッキーよりも格段に美味しかった。

保乃が焼いたものよりも私の方が…きっと……そんなことを思っている自分が悔しくて情けなかった。

でも、私の方が、京介を愛してる。

そんなこと考える自分が情けなくて不甲斐ない。私はいつからこんなに自分に自信のない子になってしまったのだろう…

公園には知らない小学生くらいの子供が二人、ブランコに座ってゲームをしていた。

二人はゲーム画面を見るのに夢中で私のことなど気にも留めていない。その無関心さが今の私の唯一の救いだった。

絶望が近くにあっても気づいてない。それが今の私には救いとなる。


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