5.あの子のこと好きなの?
「バイトしようかな〜」
私の突然の呟きに美優が尋ねる。
「…彼氏?」
「え、あぁ、うん…」
休み時間、気づけば保乃は私達のグループに馴染んでいてすっかり5人となっていた。
すみれの席に集まると自然と保乃が交わっている。
そんな当たり前を私以外は誰一人、違和感として捉えていなかった。
「コンビニは?コンビニなら髪染めもピアスも怒られないよ。」
「いやぁ、私がやったら流石に親がヤバい。」
「親かぁ〜來未の家って身だしなみとかバイトとか意外と厳しいよね…」
「まぁね…はぁ〜。自由が欲しい。」
と言いつつ、バイトする気力は微塵もないのが私だ。口だけで実際はこの生活に何だかんだ満足している。
すみれの彼氏は先輩だから毎回、デート代は出してくれるみたいで羨ましいけど京介は部活で忙しくてバイトが出来ないから致し方ない。
「來未ちゃん、どんなにお金がなくても変なバイトはしちゃダメだよ。來未ちゃん、可愛いからいくらでも稼げるだろうけど…」
「はぁ?何言ってんの?」
保乃の突然の発言に苛つきながら返すと保乃は冷静に弁明をした。
「いや、実は前の学校で同じような理由で自分の下着を売っていた子がいて…その子は彼氏に言われてやってたんだけど…」
「京介はそんなことさせないよ!」
腹を立てて返すと保乃は困ったように肩をすくめた。それを美菜がなだめる。
「まぁ、まぁ…にしても保乃は一人っ子だし、何でもママが出してくれるし、愛されてていいなぁ!」
美菜の発言に心のこもってない保乃の、そんなことないよ〜が返ってくる。
「保乃は才能があるから私と一緒に美術部に入ろうよ!」
すみれの誘いに保乃は、ありがとう。と返しつつも、
「今は他にやることがあるから…」と断った。
「そうだ!今度、皆んなで〇〇のライブ行かない?私、ファンクラブ入ってるからチケット取れるし!」
保乃が提案したライブは今流行りのJ-popバンドのライブだった。
「え、うそ⁉︎チケット取れるの?なら行ってみたいかも〜」
「私もたまにはバンドとか聴くのもありかも」
「え、私も行きたい。なんか楽しそう。」
保乃の提案に皆んなが食いつく中、私だけがまたしても興味を持てずにいた。
「來未ちゃんは?」
保乃に聞かれて、「私は興味ないからいいや。」と返すと彼女は残念そうに、そう…と返して肩をすくめた。
放課後、テスト期間で部活が休みの京介と歩いていると保乃について訊かれた。
「なんか最近さ、岸谷さんといるの見かけるんだけど仲良いの⁉︎」
「え、別に…」
食い気味の京介に軽蔑と不機嫌を感じながら否定する。
「そうなの?でも今日、移動教室で一緒に歩いてたじゃん。」
「それは美優たちが仲良くしてるから仕方なく歩いてただけ。別に私は仲良くない。」
「え、そうなの?お前って岸谷さんのこと嫌いなの?」
京介の心無い言葉に堪忍袋の諸が切れる。
なんで私は“お前“であの子は“岸谷さん“なの?
「京介ってあの子のこと好きなの?」
私の質問に京介は、え?と言って動揺を見せる。
まさか…こいつまで…
「もういい。今日は一人で帰る。また明日。」
突然、そっぽを向く私に京介がさらに動揺しながら、え、ちょっと待って!と叫ぶ。
その叫びも虚しく私は京介を置いて一人でさっさと帰って行った。
マジで苛つくんだけど…
ムカつきながら帰路に着くと我が家の玄関前には亮太郎と保乃が立っていて、何やら二人で楽しげに喋っていた。
亮太郎の発言に口元を押さえて笑う保乃。まるでお似合いのカップルのようだ。
「あ、おかえり來未ちゃん。彼氏とのデート楽しかった?」
私に気づいた保乃が当たり前のように尋ねてくる。私はそれを無視して家に入ると、「なんだよ、あいつ…なんか返せよ。」という亮太郎の嫌味が耳に入った。
「お前、なんでさっき無視したの?保乃さんは友達だろ?可哀想なことすんなよ。」
夕飯時、亮太郎が私に歯向かってきた。ムカついた私は亮太郎に、「お前って言うな。」と凄むと亮太郎は即座に、「わかりました。」と返した。
「彼氏と喧嘩してむしゃくしゃしてた。」
正直に話すと亮太郎は、「保乃さん何も悪くないじゃん…やっぱ可哀想。」と言ってリビングに向かった。
うん、わかってる。悪くない、確かに保乃は何も悪くない。…じゃあ、なんでこんなにあの子を拒否している自分がいるの?
その日、そのあと私と亮太郎が会話することはなかった。




