残ったの覚悟
「帰り支度は出来ましたか?」
リビングに着いて早々に香ノ木さんから嫌味を含めた質問が飛んできた。
「それはもう完璧よぅ」
「ちっ。そうですか」
香ノ木さんはわざと俺に聞こえるように舌打ちをして、俺の話を聞いた。
「このままここに捨てたいですが。仕方ありませんね」
「おい」
周りで聞いていた皆が俺のツッコミに笑い声で答え、香ノ木さんは一口のお茶を口に含んだ。
「全く…寝ていたあなたのことを真っ先に心配していたのはそこでお茶を飲んでいる人よ」
「笠木さん!あなたも私と同じだと…」
香ノ木さんと彩花はどうにも目配せで何かを通じ合っているようだが、俺には何を話しているのか分からず間で静かにご飯を食べていた。
「念の為なので本気にしないでくださいね!」
「おぅ」
俺は意図の読み取りに諦め、ボッと空を眺めていた。
「ここでの最後の料理なのでじっくりと味わいましょう」
「そうですね。皆さんも」
変な空気の中、夜月が凛さんのご飯への感謝すると香ノ木さんも頷いて食べ出した。
「先輩?どうかされましたか?」
「いや。なんでもない」
俺は夜月たちの何気ない会話に微笑んで見ていた。
「魔王が笑って気持ち悪い」
「彩花!本当に失礼だな!」
彩花は俺にいつもと変わらない態度で接してきた。
「そういえば鳳翠さんですが、魔王同様に危険なので私たちが監視することになりました」
「つまり香ノ木さんはここに残るのか?」
俺が良く分からず冗談でも言ってみたが、背後に気配を感じた。
「あなたは本当に馬鹿なことを言ってんじゃないわよ」
「彩花!」
彩花はそのまま俺のこめかみに拳を押し込み、思いっきりグリグリと回し、体中に激痛が走った。
「いてぇ!いてぇわ!」
「ふん!ふざけたことを言ったからでしょうが!」
冗談ではあったが、思いついたものはそれしかなかった。
「我々とともに学園に一緒に向かうことになりますので、不埒な魔王が何かしらを犯した場合もご心配なく」
「安心できねえわ」
俺への警戒は解かれるわけではないようで気をつけないといけないようだが。さらに賑やかになりそうな予感がした。
「みんなは何時くらいに帰るの?」
「そうですね。一一時の飛行機に乗ろうと思っているので、九時頃にはここを出ようかと思っています」
俺たちがご飯を食べていると凛さんが気になった様子で話しかけてきた。今の時間は八時過ぎになり、出発の時間に刻々と近づいていた。
「私もあなたたちが出発した後にここを発つわね」
「凛さん…」
夜月は凛さんの様子にどこか思い悩んだ顔を見せていた。
「この街から離れるのは寂しいけど久しぶりにみんなに会えるかしらね」
凛さんは今までいた場所に愛着もあったようだったが、自分の状況を理解して引っ越す覚悟を決めていた。
「どこに行くか知らないがまあいつか会えるよ」
「あなたと言う人は…」
香ノ木さんは何も理解していない俺の方をじっと見てため息混じりに呟いた。
「え?俺だけ知らない感じなのかよ」
「ええ」
彩花は呆れてジト目で俺を刺してきた。
「じゃあ、何で夜月はこんなに深刻な表情なのか教えろよ」
「夜月?あなたも知らなかったの?」
「私、昨夜は早く寝ましたのでお話に参加しませんでした…」
彩花は申し訳なさそうに夜月に謝っており、話の本題がまた逸れてしまった。
「安心しなさい。この人たちも別ルートで学園に来ますので寂しさも一瞬です」
「は?俺に言っているのか?別に寂しいわけではないが…」
香ノ木さんはここぞとばかりに俺を揶揄って笑い出した。
「じゃあ、凰火と鳳翠、綾の三人に会えるわけだな」
「そうなの!わかっているね。凰火なんてこれを言っても『別に変わらないよ』って言っているもの寂しいでしょう?」
凛さんは嬉しそうに声のトーンを上げて話に入ってきてまだ再開していない綾のことを話し出した。
「母さんのこのテンションの時。面倒だから…」
「うん…」
会うのが久しいぶりだと思われる鳳翠ですら同じ反応しており、昔から変わらない様子だったと感じられた。
「帰る準備はできたようですので食べ終え次第、私たちは発ちますよ」
「おう」
香ノ木さんは淡々と話を進めているが俺はまだ引っかかっていた。
「他の連中はどうするんだよ」
「他の方…」
「五角会にいたハオランたちだよ」
俺は敵となる組織を倒したものの残った連中をどうするのかまで聞いていなかった。
「ここに残るよ。一応はここが故郷だしな。同じ境遇の奴らはまだいるから俺たちなりに助けるさ」
「ハオランもこう言っているから私も残るわ」
フォン・イェンは寂しそうにしているものの話に笑顔を見せた。
「それに五角会の残党が心配な所もありますので」
「そうですか」
香ノ木さんは二人の覚悟に了承してその場を立ち上がった。
「それでは私たちもここに長居は凛さんに迷惑ですし、行動に移ります」
「はい」
香ノ木さんの声に合わせて夜月も返事して立ち上がった。
「ごめんなさいね。私も後で向かうね」
凛さんは自身のせいで俺たちを急かしてしまったと思ったようで申し訳なさそうにしていた。
「実際には俺たちが迷惑をかけたところが大きいからな。早めに動かないと出るタイミングを見失うしちょうど良かったですよ」
「あなたにしては言いことを言うわね」
俺が良い感じでしめた言葉を彩花は笑いながら返してきた。
「それじゃあ、行ってくるね」
「凰火、鳳翠。私もいつかそちらへ向かいますね!」
玄関で別れの挨拶をする凰火とフォン・イェンは寂しそうだが、明るさも見えていた。
「ええ。その時は是非」
フォン・イェンと凰火は握手をしていつかまたの再会を誓った。
「お前たちもまた来いよ。次は他の奴らも誘ってな」
「おう!」
俺はハオランに拳を突き出し、約束した。
「それじゃあ。帰るか」
「はい」
俺たちは別れの寂しさにしては軽い足取りで学園へ歩み出した。




