帰り支度
「先輩、朝ですよ。起きてください」
「…」
俺が寝ていると夜月から起きるように急かされた。
「もう朝なのか…」
寝足りない気分のまま体を起こし、夜月の方を見ると困り眉で見返していた。
「今日は学園に帰るので先輩も速いうちに準備を整えてくださいよ」
「そうだな…」
夜月の心配な表情にもボーッと頭で答えた。
「仕方ありませんね…」
夜月は俺を見て何かを感じたようでため息まじりの視線を向けていた。
「あとは彩花さんに任せますね」
「任せなさい」
夜月の振りに俺としても驚きが強くなり、気をはっきりとして体を起こした。
「彩花に何をさせる気なんだよ」
「冗談ですよ」
俺は彩花の危うさを知っているからこそ差し向けてきたことに驚いたが、そこには夜月とアイリアが立っていた。
「今の声は?」
「アイリアさんに協力してもらいました」
夜月はイタズラを覚えたばかりの子どものように目を細め、ニコリと笑ってきた。
「勘弁してくれよな」
「ごめんなさいっ」
夜月は俺が怒っている顔にも楽しそうな表情で見つめていた。
「夜月の言う通り、学園に帰る準備もしないといけないな」
「私は朝ごはんの準備をしておきますので、先輩は出発できるようにしてください。アイリアさん、先輩を見てもらえますか?」
夜月は扉に手をかけて一言呟いて出て行った。
「じゃあ。やるか」
「はい」
俺は夜月から信頼されていないことに些か不満があったが、部屋に散らばる荷物を見つめて口が閉じた。
「それにしても封魔さんはどうしてこんなにも散らかっているのですか?」
「違うからな。これはクルスリアが…」
俺はこの家に来た時の話を始めた。
ホテルから追い出され、荷物も片付けるのも面倒だった俺はクルスリアの魔法で運んでもらうことにした。
「おい!クルスリア!荷物を部屋にぶちまけるなよ」
「え?」
クルスリアの大雑把なところが最後の最後に出てしまい、部屋へ投げ入れたせいで散らばってしまったのである。
「それは…」
アイリアは同情のこもった目で俺を見ていたが、クルスリアを怒ろうとはしなかった。
「マスターの自業自得だな」
「おい!」
俺は急に話し出したクルスリアに驚きよりも元凶から言われたことにツッコミを入れた。
「せめて手伝えよ」
「仕方ないマスターだな」
俺の話にクルスリアは、どうしようもなく面倒そうにしたが人の姿を変えた。
「三人でやれば早く終わりますね」
アイリアはやる気がないクルスリアと俺とは違い、率先して掃除を始めた。
「先輩、帰りの準備は進みましたか?」
部屋を片付け三〇分。夜月は部屋を片付けているのか心配になり、部屋へと戻って来た。
「夜月。もう終わったぞ」
「それは良かったです」
部屋はアイリアの言う通りとても速く綺麗になり、初日と同じような状態になった。
「まあ。三人でやったからな」
「おい。お前はなにもしなかっただろうが!」
クルスリアは自慢げに言っているが、大半がアイリアによって綺麗になったところであり、俺も言える立場でもなかった。
「アイリアさん。この問題児さんを監督してくださってありがとうございますね」
「このくらいでしたらいつでも良いですよ」
夜月の中で俺も問題児認定されていることに少し不満を言いたかったが、言い返すこともできないくらい迷惑をかけてしまったため何も言わなかった。
「あ!ごはんができたので呼びに来たのでした」
夜月は急にここに来た用事を思い出し、話を変えてきた。
「皆さんも帰る準備をしていたようなので急がなくてもよいのですが確認しに来たんでした」
「じゃあ。リビングに行くか」
俺は夜月の話に便乗してご飯の待つリビングへ向かった。




