トカゲの頭
赤く染まる世界。次第に意識が薄れ、目線も下がっていく。
夜月の声がやけにうるさく聞こえてきた。
「夜月さん!魔王を置いて戦ってください!」
香ノ木さんは夜月を指示して鳳翠に対抗する。
「その男はこの程度で死にませんよ!」
「はい!」
俺が死んでいるのかと自覚した。痛みもあるがそれより聞こえてくる声がはっきりとしていた。
『マスター?大丈夫か?』
死んでいる俺にいつもと変わらないテンションでクルスリアは話し出した。
『そろそろ起きて良いと思うが』
クルスリアは勝手に治る体が治らないのが気になったようで、俺の体を魔力で包んだ。
「クルスリアさん、あとどれくらいですか!」
夜月は治っている経過を確認のためクルスリアに聞いた。
『あと少しだな』
体は辺りに飛び散った血をかき集め、体を戻していった。
『おい。私の魔力を吸収しているのか?』
体は治り、クルスリアが覆った魔力を吸い取った。
俺の体は次第に力が入るようになり、意識を取り戻した。
「先輩!」
「悪い。油断した」
俺は力を入れ直して魔法を接続した。
「香ノ木さんにも迷惑をかけたからな。早めに片付けるか」
「いいえ。あなたは最初からカウントしていませんでしたのでご心配なく」
「ああ。そう」
香ノ木さんはそっけない様子だが、声が明るく聞こえた。
「今度こそ行くぞ!」
「はい!」
俺の声に夜月も返事をしてきた。
「準備はよろしいですか」
「おう」
香ノ木さんも俺に確認を取ってきた。
「では、私もとっておきをお見せしましょう」
香ノ木さんはそう言うと、いくつもの剣を生成させ、刀身を浮かせた。
「これが本来の私の力です」
香ノ木さんは武器を鳳翠へ目掛けて投げ飛ばし、注意を向ける。
「今のうちに」
「助かる」
俺は鳳翠の意識が違うところへ向いたことが確認できたのもあり、走って近づいた。
「先輩、目標は鳳翠さんの背中です」
「ああ」
俺の後ろには夜月も着いてきており、鳳翠の無差別攻撃の流れ弾を破壊して俺を援護していた。
「夜月、香ノ木さん助かった!」
俺は鳳翠の背中にようやくたどり着き、魔法を放った。
「これでおしまいだ!支配開始!」
俺の魔法に抗う鳳翠は悲鳴を上げ、もがき出した。
『マスター。その調子だ!』
鳳翠は次第に魔法への抵抗も治り、魔力暴走が落ち着き始めた。
「鳳翠さん」
夜月は心配そうに見つめていた。
「大丈夫だ」
俺はその顔を見て答えた。
『マスター、喜べ。その男の魔力も正常になったみたいだぞ』
鳳翠は静かに眠り、異様な雰囲気もなくなった。
「先輩、喜ぶのも良いですが、逃げた人を追いかけます」
龍弥が逃げたことを思い出し、俺は先を急いだ。
「香ノ木さんは鳳翠さんをお願いします」
「ええ。わかりました」
俺と夜月はさらに奥へと進んでいき、龍弥を探すことにした。
「一体、あいつはどこに行きやがった…」
奥へ進んだが、人の気配がなく、フロアは上がっても見当たらなかった。
「先輩。あそこに扉があります」
扉を開けるとそこは建物の屋上になっており、風が強く、ヘリコプターがあった。
「魔王、実に興味深い研究に尽きない存在だ。また会えることを楽しみにしているよ」
龍弥はヘリコプターに乗り、逃げようとしており、隣にも男がいた。
「今回は私たちの負けとしよう」
ヘリコプターは龍弥が乗ると曇天の空へと飛んで行った。
「ちっ。あいつを逃がしてしまうとは…」
戦い続けた結果が鳳翠と凰華の救出だけになったことが納得できなかった。
「先輩…」
夜月は落ち込んだ俺を見て心配そうに見ていた。
「戻るか…」
俺の声に夜月は返事をせず、立ち尽くしていた。
「先輩…」
「夜月!」
夜月は突然、ふらふらと体を動かし、倒れた。
「大丈夫か!」
夜月は戦いで疲れたようで眠っていた。
「急に寝るなよ」
俺は焦ったが、無事だったようで、夜月を背負って下へと戻った。
五角会本部、その場には男が五人座っており、報告に来た一人を合わせた六人で話していた。
「ふむ。今回の成果を出さず、あの拠点を破棄することにしたと…」
「申し訳ございません。首よ」
男は頭を下げ、謝罪をしていた。
「チャン。香港の裏を牛耳っていた貴様には期待していたのだがな」
「申し訳ございません。何卒お慈悲を!」
男は鳳翠を捉えた張本人であり、凰華の実の父である。
「首よ。我々にもう一度チャンスを…」
「ダメに決まっておろう」
チャンは背後から聞こえてきた声に耳を疑った。
「お…お前は…」
「今回はさすがに痕跡を残しすぎたのでな。五角会の諸君よ。ここで消えてもらう」
男はまがまがしい魔力と尋常ならざるオーラをまとい、一瞬にして周囲の連中を灰にした。
「貴様は<憤怒>の魔王…九鬼 水仙…」
「ふむ。貴様は生かしておくか。居てもいなくても変わらぬからな」
魔王の気まぐれに生かされたことに不愉快になったチャンは動くこともできずその光景を見ることしかできなかった。
「七番目め…。復活したばかりというのに面倒な役目を押し付けやがって」
九鬼は周囲にいた人間を灰にするとぼやきながらその場から消えた。




