反魔道の意思③
昼休み俺と雅樹、涼は教室で何がない会話をしていた。
「はぁぁあぁ~クソったれ~」
「封魔、大丈夫?」
疲れ切っている俺を見て、涼は心配そうに話してくる。
「仕方ないだろ」
俺が疲れ切っているのは担任の先生であるさっきーちゃんとの放課後に補習があるためだ。
「先生を怒らせたらダメでしょ」
「怒らせたつもりは…」
俺はさっきーちゃんを怒らせたつもりはなかったのだが、いつも注意される。
「悪意がなくさっきーちゃんを怒らせることができるのか」
「悪いが、放課後は居残りだから俺抜きで行ってくれ」
「わかったよ。九重ちゃんには俺から言っておくよ」
「すまない」
「放課後の集合するのは、九重ちゃんと涼、俺と麻奈ちゃんの四人だな」
「そうね…」
俺のせいで九重たちに迷惑をかける訳にもいかないため久しぶりの寄り道を諦めることにした。
「望月!」
三人で話していると、廊下から俺を呼ぶ声が聞こえた。
「第一候補の嫁さんと第二候補の嫁さんが呼んでいるぞ!」
「嫁さん?第一?第二?」
男子生徒の悪乗りが女子生徒の反感を買い、俺への罵倒が増えた。
「麻奈ちゃんだけじゃなく、他の女の子にも手を出すなんて最低。」
「涼ちゃんを見捨てるなんて最低」
「何よまさか三人の女の子に手を出すなんて最低」
「女の敵!」
「俺には、嫁なんていねぇわ!」
俺が教室から廊下を覗くと、麻奈と夜月が居た。
「ちょっとあの子、誰よ」
「麻奈ちゃんと夜月ちゃんが待っているんだな」
雅樹は廊下に居る二人を見て誰かを確認する。
「夜月ちゃんって誰よ」
「男子が言っていた転校生でしょ」
「転校生にも手を出すなんて最低」
教室の女子生徒が俺を罵倒していると、待っていた九重が怖い雰囲気を諸共せずにやって来た。
「先輩…」
「な…何だ?」
「あの人たちは?」
九重は教室の女子生徒がずっとこっちばかり見ていたため、気になったようで俺に聞いてきた。
「気にしないでくれ…」
俺は未だ空気が読めない九重の質問に目をつぶって話した。
「実は今日の放課後に補習があるから雅樹と涼、九重、麻奈の四人で行ってくれないか?」
「私も残ります」
予想通りの回答が九重から言われたが、それよりも後ろから聞こえてくる女子生徒の罵倒と男子生徒の殺意の方が気になって仕方なかった。
「夜月ちゃんも居残りだったり?」
「いいえ。先輩が来ないようなので…」
九重の俺を庇う姿を見て雅樹は羨ましく思えたのか、俺の首に腕を巻き、そのままヘッドロックしてきた。
「比嘉先輩。どうしてこんなにも賑わっているのですか?」
九重は辺りに居る高校生が気になって雅樹に聞いてみる。
「学校内でも噂の転校生が出回っているからみんな見ているだけだよ」
「はぁ…」
九重はどういうことなのかさっぱり分からないようで、俺の方に顔を向き直した。
「先輩方は何を言っているのか分かりませんが、望月先輩は私が見張っておきます」
「夜月ちゃんって封魔の事が好きなの?」
雅樹はニヤニヤしながら九重に質問する。
「私は好きですよ。先輩の事?」
九重は当たり前のように笑顔で答える。当然、教室から見ていた生徒は一人一人の気持ちが届かなくなり、悔しがる。
「麻奈さんも、涼先輩も好きです」
悔しがる男子生徒は後付けした言葉で再び立ち上がり、睨みつける。
「夜月ちゃん俺は?」
雅樹は九重と親しくなっていたが、唯一言っていなかったため、自分自身の評価を聞く。
「比嘉先輩の事はあまり知りませんし…」
何も分からないから好きとは言えない九重。その言葉に雅樹は苦笑いしていた。
「あの。封魔が行かないなら私も…」
九重の話を聞いてなのか麻奈も行かないと雅樹に言った。
「じゃあ。俺と九重、麻奈が今日は行けないと。二人で…」
「雅樹と一緒なんて嫌よ」
涼は雅樹を指しとても嫌がる。既に落ち込んでいる雅樹にとどめを刺す涼。
「そんなこと言わないでくれよ」
涼と雅樹は仲良く話しているのを俺と麻奈、夜月が笑いながら眺める。
「お二人は仲がよろしいのですね」
「そう?」
九重は何を思ったのか落ち込む雅樹と怒っている涼に悲しいことを言った。
「そうか?俺は封魔と夜月ちゃんの関係が気になるかな」
雅樹は聞いてきた九重に矛先を変えて聞いてきた。
「な…何を言って」
雅樹はまた何を言っているのか、俺と九重の関係も何も敵視されているだけに決まっていた。
「あ…あははは」
全く笑えていない九重に俺は首を傾げて見つめた。
「ま…麻奈さん。私は先に戻ります」
九重は雅樹の訳の分からない話のせいで居づらくなったのか教室へと戻っていった。
「九重…急にどうしたんだ?」
「封魔。あんた最低ね」
「はぁ?」
「封魔さん。夜月さんに後で謝って下さいね」
麻奈は俺にそれだけ言うと、九重を追いかけ教室に戻る。
「俺何かしたか?」
俺が九重の行動の理由を考えていると、今朝の感じた感覚に襲われた。
「な…なんだ?」
「封魔、背後には気を付けろよ」
「おい!」
雅樹は何か意味ありげな一言を言って教室に戻った。
「俺、悪い事したか?」
「知らないわよ」
俺が涼にも聞いてみたものの、俺を切り離して教室へと戻って行った。
五分前の予鈴が鳴ったため、俺は教室に入り、席に座る。
「五限目は数Ⅰで六限目が漢文だったな…」
周囲の視線と嫌いな教科で俺は更に辛い顔をした。
「全員席に着け」
教室に入って来たのは男の教師真壁敦也。体は大きい。同じ教師でありながらさっきーちゃんの身長は倍近くあるが、年では沙希の三つ下であり、大学も同じなため、「先輩」と呼んでいる関係もある。
「おい、望月。今日は何をやったんだ?」
周囲が俺を見ているのを疑問に思い質問してきた。
「何もしていませんよ」
俺は九重と麻奈が理由だと分かっていながら分かっていないふりをして誤魔化し、状況はさらに悪化し、視線が強まった。
「望月。また従妹と喧嘩をしたのか?」
通常、学校の先生とは生徒に授業中であれば指導をするものだが、この先生と言い、さっきーちゃんと言い、砕けた会話が多い。
授業が始まるチャイムが鳴り響く。
俺は中学の頃から数学が苦手と言うこともあり、高校に上がっても更に数学が二つに分かれて訳が分からず、二ヶ月経っていた。
「封魔。また授業中に寝ていたわね」
五限目と六限目の間の休み時間に涼が寄って来た。
「数字を見ると眠たくなるんだよ」
俺が言い訳をすると、涼から面白い提案があった。
「もし、わからなかったから私が教えてあげても良いわよ?」
涼と俺の話をしていると、雅樹が聞き耳を立ててやって来た。
「俺にも教えてくれよ」
雅樹にとっての数学は得意と言えない程度で壊滅的ではない。
「明日は休みだし教えてあげられるわよ」
「よろしく頼む」
間の休み時間は少なく十分で次の授業であり、会話が終わると授業チャイムが鳴った。
放課後、六限目の漢文が終わると、数学の得意な涼の頭から湯気が出ていた。
「大丈夫か?」
「わからないわよ!」
頭の中が電子番号でできている涼にとって最も苦手な漢文でフリーズしているのだ。
「ホームルームをやるぞ!」
さっきーちゃんが教室に入り、涼も気持ちを切り替えて姿勢を正す。
さっきーちゃんが長話をすることを好まないため、週末明けの連絡を行うと、さっさとホームルームを切り上げて帰る支度をさせる。
「沙希先生さよなら」
さりげなく俺はさっきーちゃんに別れの挨拶をして教室の扉を開けた。
「お前は居残りだ」
「はい…」
荷物を再び机に鞄を置いて席に着く。数学の教科書とノートを出した。
「私は居なくなるが、しっかりと勉強をしとけよ」
さっきーちゃんは用が在るそうで俺を置き去りにして、職員室に向かった。
「さっさと終えたいが、終わらない…」
「先輩!手伝いに来ました」
中等部も学校が終わったのか、九重も教室に来て、俺の手伝いに現れた。
「大丈夫なのか?」
「高校壱年生、それも始まりだと数学は中学の振り返りを行うようなので分かるかと…」
俺は九重の話を聞いて嬉しくもあり、悲しくもあった。
「九重。ここ分かるか?」
俺が見せたのは因数分解だった。
「先輩って本当に勉強ができないのですね」
九重は全くできていない俺の数学の学力を中学レベルに戻す教え始めた。
「因数分解はいくつかの方法がありまして」
「この訳が分からない分数の方程式は?」
「覚えて下さい」
九重は方程式を覚えさせるため、リズミカルに唱え始め、まるで呪文のように言い聞かせてきた。
俺が時間を気にして時計を見ると数十分間、九重に教えてもらいながら居残りを行っていた。
九重の教えもあり、勉強に集中しているとさっきーちゃんがアイスを二つ手にして戻って来た。
「転校生じゃないか。さっさと帰らないのか?」
「先輩を待っていまして…」
「はぁ…。お前さんもアイスを食べるか?」
「いただき…ます。」
九重はさっきーちゃんが持ってきたアイスの一つを受け取り、俺の席の隣に着いた。
「俺の分は…」
「悪いな。転校生に渡した」
「先生が教室でアイスとか良いのかよ」
封魔は疲れながらも補習を終えた。終わっている頃には疲れ切って魂が口から出ていた。
「今日はこのくらいにしておくが、今後も楽しみにしておこう」
邪悪な笑みをしながらさっきーちゃんは教室から出て職員室へ向かった。
「全く、あのロリ教師め…」
俺が鞄に勉強道具を入れながらさっきーちゃんの陰口を言っていると、九重がじっと見つめてきた。
「先輩、先生をそんな風に言うと後から後悔するかもですよ」
九重の言葉に俺は心当たりしかなく、大きなため息を出すしかなかった。
「先輩はこの後にどこか寄りますか?」
「俺は特にないが…」
「そうですか…」
九重は少し落ち込んだようで頭を一瞬、下を向いた。
「九重はどこかに行きたいところでもあるのか?」
「わ…私は特に…」
「俺は別に行っても構わないぞ」
俺が遠慮している九重に近づこうとした瞬間。
「この不埒ものがぁ」
突如、現れた見られない制服を着た女子生徒に思いっきり後方へ殴り飛ばされた。
当たりの人たちは慌てて逃げ出す。辺りの騒ぎに動じず俺の方へと女子生徒は近づいてきた。
「この変態魔王!夜月になんてことをしているの!」
「九重、この人は…知り合いだよな…」
「口を開くな、夜月に話しかけないでくれないかしら」
「その方はインペルⅩのNo,10 笠木=A=彩花さんです」
「こいつが九重は言っていた幼馴染なのか?」
「はい、そうですね」
九重は久々でもないようだが、会えたことに嬉しそうな笑みこぼしていた。
「それで本当に七人目の監視をしていたの?大丈夫なの?」
「私は先輩のことを嫌っていませんので大丈夫ですが…」
「危険なのは間違えないでしょ」
笠木さんは俺を九重に近づけないように前に立ち塞がる。
「ちょっと待て。俺は九重に話しているだけであって、襲っているわけでは…」
「ダメに決まっているでしょ」
「彩花さんそのくらいに…」
九重が笠木さんを宥めるように言うと分かってくれたようで、こちらをみなくなった。
「分かったわよ。その代わり、幾つか条件を課して、守るのであれば許可しても良いわ」
「お…おぅ」
俺も監視される側として最近、自覚が芽生えてはきていたため、笠木さんの条件を聞いてみることにした。
「一つ目、夜月を見ない事。二つ目、夜月から一キロ以上離れる事。三つ目、息をしない事。これを守れば、夜月と話しても良いわよ」
「不可能じゃねぇか!」
「できないなら消えなさい」
笠木さんは俺を手で追い払う。
「流石に九重の任務だってあるし、お前の考えだけじゃあな…」
笠木さんは…いや。笠木は俺の的を射た発言に機嫌悪そうに睨んで来た。
「彩花さん。一応、先輩も人なので…その…優しくしてあげた方が…」
「夜月がそこまで言うなら仕方ないわね。魔王!あんた、もしまた今度、夜月に近寄ったら殺すから覚悟なさい」
笠木は九重の言うことだけを聞くのか、俺に捨て台詞吐いてその場から立ち去った。
「無理難題のような気がするが…」
笠木が居なくなり、まもなく周囲にはMIOの治安部隊が来た。
「大騒ぎになったじゃねえか」
「先輩。逃げましょう」
俺たちは治安部隊から見つからないように走って立ち去った。
咄嗟のこととは言え、俺が九重の手を強く握ってしまい、気づいた時には九重の手や顔が赤くなっていた。
「悪い。つい強く握ってしまったな」
「だ…大丈夫です…」
九重は赤くなった手を隠すように反対側の手で覆い、胸元に当てていた。
「えっと。スーパーに寄っても良いですか?」
「おう」
俺が微妙な空気で居心地悪くしていると、九重が雰囲気を変えようと、スーパーに行こうと提案してきた。
「そうだな…」
九重の提案に俺もいつもの感覚に戻って来て、話しやすくなって来た。
「なぁ。さっきは急いで聞いていなかったが、インペルⅩの笠木…」
「彩花さんですか?」
「あの人はどうしてこの島に来ていたか分かるか?」
今まで、俺はこの島でインペルⅩに遭遇することなんてなかった。だが、この三日間で二人も会っていることに疑問があった。
「彩花さんは私の幼馴染は言いましたよね」
「あいつも九重と同じように誰かの監視で来たのか?」
「私には連絡が来ていませんので分かりませんが、神戒島に来たと言うことは恐らく大きな事があるのだと思います」
「大きな事って…」
夜月は真剣な顔で話をまとめていたが、俺には今まで以上に面白くなりそうな予感があり、笑みが出てしまっていた。
「私がインペルⅩに入っていることは分かっていますよね」
「言っていたから。まぁ…な」
「彩花さんもインペルⅩです。なので、この島にインペルⅩのメンバーが十人中二人が集まっている事になります」
「…つまり?」
「私がNo,9であり、彩花さんがNo,10。力では私と同等かそれ以上の彩花さんです。私の監視対象は未熟な魔王」
「未熟って…。力では私、以上って言ったよな」
「そうです。言い換えますと先輩以上の人がこの島に来ると言うこととなります」
俺の場合でも呼ばれたインペルⅩは簡単に会えるものだと思えてしまうが、俺の魔王の力を考えてみれば、俺以上の存在が来るのではないかと思えてしまった。
「今日は買い物が多いのな」
「来週から忙しくなりそうなので」
「何かあるのか?」
「いえ。単純に彩花さんが関わる仕事は事件が多いので準備です」
九重が言っている話を聞く限り、事件に巻き込まれる可能性が高く、忙しそうになることを魔王である俺にも愚痴のように聞こえてきた。
「大変だな」
「先輩も他人事ではありませんよ」
九重の話は俺にとって、他人のことにしか聞こえなかったが、九重に対する態度と言い、笠木の何かと突っかかる性格と言い、九重の注意に対しても反応に困ってしまった。
「まあ。明日になれば分かるかな」
「そうですね。彩花さんの性格上、すぐに行動に入りますので」
俺たちは笠木が今後どのように行動をするのか考えながら買い物を済まし、家へと帰っていった。
「それでは先輩」
「ああ。じゃあ明日」
俺と九重で家に着くと、お互いに挨拶を軽くして家の中に入った。
「お帰りなさい。封魔さん」
「ただいま。麻奈」
俺は麻奈の準備してくれた食事を済ませ、歯磨き、お風呂に入って、すぐにその日は眠った。




