反魔道の意思②
「九重、この司令局って。そもそも何階まであるんだ?」
俺たちは敵を倒しながらMIO司令局の上階へと上がり、八階まで辿り着いた。
「ここは確か屋上は十四階の先だったかと」
「長いな」
俺のため息に九重はジト目で見つめて進むように促す。
「分かったよ」
「先輩、早く行かないと島が色々とまずい状況になりますよ」
「まあ、頑張らねえといけないよな。雅樹と涼のためにもな」
俺は気持ちを改めなおして、屋上にいると思われる見えない敵の主犯を目指して歩く。
「ここまでの私の考えですが、敵は先輩を逃がさないように大掛かりな東洋式の魔法陣を築いていることに加えて数は少ないものの実力のある点から中国の湾岸部を中心とした組織五角会と呼ばれる魔王を敵視する組織ではないかと思われます」
「魔王を名指しで敵意を向けるって。勘弁してくれよ」
俺は足取りを重くして屋上へと進んでいく。階を上がるに連れて敵の数を増えていき、やっとの思いで十三階まで辿り着いた。
「ようやく十三階か。あとは十四階と屋上だな」
攻撃方法が限られる屋内とはいえ、敵の強さも階を上がるにつれて強くなっているようにも思えた。
「九重、十四階の様子はどうだ?」
「どうやら、この階の敵はいないようです」
「そうなのか?」
俺は最後の階だからとは言え、十四階には強敵が待ち迎えているものだと思っていたこともあり、拍子抜けな感があった。
「おい。封魔と九重ちゃん、来てくれたか」
十四階に上がった俺たちを待っていたのは先ほど涼と一緒に司令局に向かったはずの雅樹だった。
「お前、無事だったのか?涼はどうした?」
「あぁ。あいつは部屋でこの島の情報をまとめているみたいだよ。今の所は敵の結界のせいであまり情報が集まっていないようだがな」
「結界ですか」
九重は知り得ない情報がないのか雅樹に期待していたのか少し困った顔になっていた。
「まあ。敵を倒さない限り変わらないな」
「先輩。私たちは屋上に行って敵を倒しますよ」
「おう」
九重は急いで解決したいのか、階段に足を掛けて俺を招いた。
俺たちが屋上に着くと、一人の男が魔法陣を守るように立っていた。
「これは。これはこの島に住まう魔王ではないか。あいつらガキもろくに足止めできねえのかよ」
男は何かと誰かに怒っており、計画の進みが悪いことにイラついているようだった。
「お前が主犯か?」
「ええ。そうですとも魔王。俺は魔王を敵視するもの五角会の一翼、李浩宇だ」
「それでどういう要件でこの島の無関係な人たちにちょっかいを出した」
俺は男の身勝手な行動に些か納得できておらず、尋ねる。
「簡単なことだ。この島の人間たった一万人ほどの連中を犠牲にしたとしても魔王を殺す。それが私たちの願いだ」
俺は男の考えに全く納得ができなかった。魔王であっても何もせず、無力であったため接触してきただけで解決するものだと感じたからである。
「先輩。あの人の話は聞かないでください」
「分かっているよ。だがな」
俺は夜月に頼り切っている現状に申し訳なさが強く、どうにかして倒す手段を考えていた。
「私に任せてください」
「お前には用がない。魔導士、そこの魔王を差し出せ」
男は俺に鋭い目で睨み、九重に剣を向けた。
「この剣は特別でな。インペル〈憤怒〉ゲート〈革命〉に接続」
男は持っていた剣に魔力を通すと雰囲気が変わった。力もだが姿が明らかに変わっていた。
「これこそ魔王を撃つ魔剣青煩」
「九重は知っているか」
「あれの元の素材は汎用型の魔剣のようです。ですが、本来の魔剣とは異なり、使用者の魔力を媒体にし、強化する武器になっているのかと」
男は強さを誇らしげに言っており、攻撃をそっちのけで語り出した。
「この魔剣はお前たち魔導士ですら勝てない力を持つ。すなわちガキ風情には敵うものではねえよ」
男の語りに動じることなく、九重は攻撃を仕掛ける。
「先輩は手を出さないでください」
「全く、せっかちな女だ」
九重は男の攻撃にも隙を見せることなく、無数の攻撃をかけた。
「ふっ…まあまあやるな」
九重の攻撃も近接型であるため魔導士の戦いと異なり、剣士の戦いにも見えていた。
「あなたには聞きたいことがいくつもあるんです。大人しく捕まれば強引なことはしません」
「言う事を聞くとでも」
男は九重の話に耳を傾けず、攻撃をすることで争う。
「仕方ありません。私たちには余裕がありませんので、力尽くで抑えます」
九重は攻撃の速度を上げ、男に攻撃をさせない。防御に専念する男は剣の実力自体に問題がないものの九重とは力の差があった。
「くそ。お前は学園の魔導士だったな。その実力で魔王の監視。何を犠牲に成り立ったのだろうな。時間か。友か。あるいは家族か」
男は負けそうな状況になってまでも九重に牽制して動揺を促す。
「お前のそれは本当に正義なのか?偽善によるものではないのか魔導士!」
九重は落ち込んだ顔をして男に剣を突きつけ、動きを止めた。
「あなたがどうであれ私は学園によって助けてもらったので関係ありません」
男は動けなくなった身になっても笑いを絶えずにいた。
「話してください。あなたたち、五角会の真意を」
九重は男に話を聞くため近づいた。
「全く危機感がねえな。魔導士」
男はそう言うと口から舌を出すと、急に体が赤くなり体が膨らんだ。
「九重!」
『ドァン』
男は俺たちを巻き込んで爆発し、情報を吐くことなく死んでいった。
「先輩?ちょっと何をしているのですか!え?…せん…ぱい?先輩!どうしてそ…そうだ。結界を解いてかないと…」
九重の声は俺を呼んでいるのだが、俺の体は動けことができず、周囲を知る手段が聴覚でしかとることができなかった。足を踏み締める音、九重が結界の核であるキリンのぬいぐるみを触れるために歩いているようで足音の次第に遠くなって行った。とても大きな音が鳴り、抑えられていた力が体を覆いだした。
「先輩。しっかりしてください」
「九重。申し訳ないな。俺もお前の助けになりたかったんだがな」
「良いです。無理はしないでください。すぐに病院に行きましょう」
九重は俺を背ってMIO司令局の屋上から室内に戻った。
「比嘉先輩。望月先輩が怪我をして…助けてください」
「九重ちゃん」
「封魔!その怪我はどうしたの?」
雅樹に助けを求めた夜月は隣にいた涼がいた事に気づかず、話しかけた。
「ちょっとこれは」
「今はあとひとまず応急処置をしよう。涼は救急車を」
「はい」
「任せて」
九重と涼は雅樹に話したことで冷静になったようで救急車を呼び、応急処置を始めた。
「ここはMIOの拠点だからな。治療ができるものでもあると思うが」
九重と雅樹の処置もあり、救急車の医療員が来るまでの間に安定していた。
「心配だが。あのくらいでは死なないよ。九重ちゃん」
「はい…」
九重はMIO司令局を降りると、さっきーちゃんと合流して街の現状を確認する事になった。
「転校生。敵の主犯はどうした」
「爆発しました」
さっきーちゃんはそれを聞くと、大きなため息を吐き出し呆れた顔を見せた。
「犯人の組織ですが、犯罪組織五角会でした」
「そうか。目的は望月の体だったわけだな」
さっきーちゃんはそれを聞き、面倒な顔をしながらも心配な顔をしていた。
「ひとまず他の連中を取り押さえて話は聞くが、どこまで聞けるか」
「そう…ですね」
九重はさっきーちゃんとの話を終えると、被害を確認しに街を見回りに行った。
「さっきーちゃん。今回の組織。何か関係があると思う?」
「全く、油断も隙もないな。比嘉」
「いやぁ」
「まあ実際。あいつはさっきーちゃんにとっても重要なんだろ」
「お前はどこまで知っている」
「それはもう」
「ふっ…相変わらず面倒な教え子たちだ」
「お!珍しい笑顔だ」
「やかましい。あとここではあまりそんな話をするな」
五角会の襲来から三日、俺をお見舞いに来る九重の様子は来るに連れて、少し暗くなっていた。
「先輩、お見舞いに来ました」
「よう。九重。元気か?」
「ええ。おかげさまで」
九重は俺の顔を見つめて笑顔で返した。それでもどこか違和感があるが、戦いで役に立てなかったこともあり、話話しかけづらく静かな空間になっていた。
「先輩」
「どうした?」
「…なぜ。どうして私を庇ったのですか?」
九重が心の底で感じていたこと。それは監視、排除する存在である俺からの助けに何かと気になっているのだろうか。
「そんなことか」
「そんなって、先輩。死にかけたのですよ。それなのに私なんかを庇って」
「なんかじゃねえだろ。大体。俺は九重を仲間として思っているんだよ。それは助けるよ、仲間だしな」
「先輩」
九重は頬を赤くして照れながら俺の話を聞いていた。
「まあ。それに俺が不甲斐ないせいで九重には迷惑をかけてしまったしな」
「め…迷惑なんて言わないでください。私たちはその…仲間…なのですから」
九重は俺の言葉を真似て励まし、お互いの心配も落ち着いた暮らしへと戻っていった。
「今度。俺にも魔法とか教えてくれ」
「そうですね」
中国沿岸部五角会幹部総会にて
「どういうことだ。あの魔王は魔法は愚か。武術の能力もない若輩者であると聞いておったが、なぜ計画が失敗したのだ」
「どうやら邪魔者が現れたようだ」
「魔王の周囲の情報を含めて考えようではないか。赤き龍の末裔よ」
五角会の襲来から一週間、何も起こらず、平穏な生活が続いていた。朝起きて麻奈と一緒に朝食を食べる。いつものように食べているが、俺には少し違和感があった。
「封魔さん。どうかされたのですか」
「何でもない」
俺は違和感に麻奈は気づいていないのか、首を傾げてこちらを見ていた。
「封魔さん?」
麻奈が不思議そうに俺を見つめていると、玄関のインターフォンが鳴った。
「はぁい」
麻奈が玄関を開けると、目の下にクマを作った九重がそこに居た。
「夜月さん?大丈夫ですか?」
心配そうに九重の顔を見る麻奈。明らかに寝不足で疲れ切った九重を麻奈は家に入れた。
「九重。疲れているが、何かあったのか?」
「い…いいえ何もないです。ただ、少々徹夜をしていただけです」
「夜月さん。徹夜はしない方が…」
麻奈は九重の体調面を心配そうに見る。
「徹夜をした理由は何だ?」
「幼馴染から夜に電話をかけて来たので」
「電話で徹夜かぁ…」
「先輩は早く支度をした方が良いですよ」
「お…おぅ」
九重は全く支度をしていないことを分かっているような口ぶりで俺に言う。
「ちょっと待っていてくれ」
俺は学校に行く準備を急いで整えた。
「夜月さん。もしかして朝食を食べていないとかですか?」
「私は一応カロリーバーを」
「これを食べて下さい」
麻奈はご飯とみそ汁を器に注ぎ、食卓に持って来る。
「でも、これは、先輩のでは…」
「封魔さんはもう食べましたし、ちょうど冷蔵庫に保存しようとしていた所だったので、安心してください」
「ありがとうございます。最近、麻奈さんにご迷惑ばかりかけて」
「お隣さん同士ですし、困ったことはお互い様ですよ夜月さん」
ご飯を食べエネルギーを付けた九重は俺と麻奈と一緒に学校に向かった。
学校に行く途中に妙な違和感は既に消えていた。
「先輩。どうしたのですか?」
「何でもない」
九重は俺の言動に不思議そうに見る。
「九重、急いで学校に行こう」
「了解です」
校門には雅樹と涼がいた。
「おはよう。九重ちゃん!」
「おはよう。二人とも仲良し何だね」
「おはようございます。比嘉先輩、萱倉先輩」
「同級生なんです」
「おい、どうして同級生の俺じゃないで後輩の九重に挨拶をする?」
「だって、封魔はいつでも会えるから」
雅樹は当たり前のように正論を言ってきた。正論だが…。
「封魔。おはよう」
涼はすぐに俺にも挨拶してくれた。
「先輩。私たちはこの辺で」
「それでは先輩方、封魔さんをよろしくお願いします」
「麻奈!俺が迷惑をかけると思っているのか?」
麻奈が言った言葉の真偽を聞こうとすると、聞いていた四人は笑い出した。
「先輩。麻奈さんの冗談ですよ」
「大体、麻奈ちゃんが一回でも言った覚えあるの?」
麻奈が冗談を言う事自体が珍しいため、俺にとっては真実にしか聞こえない。一人だけ置いて行かれ、空気になっていると再び違和感を覚える。
「封魔。教室に早く行かねぇか?さっきーちゃんからの愛のムチが入る前に」
俺は雅樹の言葉で、現実に戻ってきて急いで教室に向かう。




