桃源郷の旅準備④
「学園長!どうして」
「ふむ。なるほど。」
ジオは何も言っていないのに何かを感じたようで考えていた。
「これは恋…だね」
「はあああ。ああああああ!!!」
香ノ木さんは今までに聞いたことのないくらいの大きな声で叫び、希は起こされたことに驚いて泣き出した。
「ご…ごめんね。ごめん。魔王!」
香ノ木さんは俺に希を託してジオと言い争いを始めた。
「ええ?違うの?てっきり凛華くんのことだから。『べ…別にこの男とことなんて好きじゃないんだからね…』って言って古典的なツンデレムーブだね…」
「おお!うまいな。」
「でしょうとも。これでも凛華くんの理解ある人間だからね」
ジオによる香ノ木さんのモノマネに喜んでいると横にいた当の本人がニッコニコで聞いていた。
「学園長。選んでください。高度一〇〇〇メートルからの紐なしバンジーか。コンクリート詰で海底二〇〇〇メートルへの旅行か」
「ヒィイ。じょ…冗談だよね」『マジですか!!』
「確か。学園の移動魔法の行き先は変更可能だったはずですが。」
香ノ木さんの発想は夜月に似たものがあるようで俺とジオは魔王や学園長以前に女の子の闇を垣間見た。
「慈悲はないのかな?」
「慈悲ですか。そうですね…。分かりました。」
香ノ木さんは夜月と違い、優しさを持ち合わせているようで俺とジオはホッと肩の荷を下ろした。
「男性の尊厳である大事なものを奪います」
「え?」
香ノ木さんのお上品な口からとんでもワードが飛んできたのが衝撃的すぎるのに半分。選択肢の
最低ラインが男の尊厳を終了させるいう究極の選択肢に半分と過酷な状況下になってしまった。
「もちろんお好きであれば二つを選んで良いです。」
いや。二つも選んだら本当に死ぬから。それと言っておくが。男の尊厳が無くなったら死ぬからな!
冷や汗が流れる選択肢。俺が選ぶ訳ではないが、同じ男として恐怖を感じていた。
「ご安心ください。学園長。私は男性のものを見たことがございますので…。」
香ノ木さんはそう言って俺の方を見て笑顔になった。
怖い!怖い!怖い!何なのこと人前言撤回だよ。夜月が口だけで済ませてくれた分優しく見えてきたよ。それに俺を見たってことは…まさか。俺の…。いやちゃんと付いている。安心しろ。俺は何も悪いことをしていない…はずだ。
ジオは正座して頭を地面に擦り合わせた。
「紐なしバンジーでお願いします」
「分かりました。それと魔法の類は私が妨害しますのでご安心してください。」
安心できるか!つまり生身一つで…。マジで死ぬよこれは。ジオも魔法があればと思っただろうが。
ジオは香ノ木さんの話を聞いて顔面蒼白になっていた。
「ふっ。楽しい人生だったな。そうだな。遺書を書かせてくれないかな。」
諦め顔の学園長。学校の長とは何か。先生とは何か。あらゆる面で終わっていた。
「学園長に遺書を送る人いるの?」
美沙はジオの死の直前で願ったことを木っ端微塵にする発言をしてジオの最後の灯火を消した。
俺は知っている。無闇矢鱈と首を突っ込むと被害が飛んでくることを。それもこんな状況だと尚更。だが…。
「その辺にしてくれませんか?」
俺が割り込むか悩んでいると突然。学生寮の部屋から声が聞こえてきた。
「や…夜月。彩花。」
夜月は俺を見るなり、睨みながら近づいてきた。
「先輩。言いましたよね。希のこと。それと凛華さん。あなたもです。」
「はい。」
「でも夜月。これには事情があって。学園長が。」
「ぼ…僕かい。」
夜月の機嫌は変わりやすいものだとは思っていた。だが俺が見てきた中でも一番と言って良いくらい危険な状況になっていた。
「魔王と戦っているみたいだな…」
俺がポツリと思い出したのはジャック=クロードとの戦いだった。
「へぇ。魔王ですか。そうですね。このままだと私は魔王になりますね。」
「やば。口に出していた。」
俺は思わず口を手で押さえてしまった。
「クロード郷は強かったですね。先輩。私もびっくりしましたよ。」
「いや。その夜月の方が…何でもないです」
俺は明らかにクロードの方が相手にしやすいと感じて言い始めたが、途中で止めた。
「大馬鹿者。こんな時に言うことではない。」
「凛華さん。先輩と仲がお宜しいようで」
夜月は香ノ木さんにも目をギラつかせながら言いました。
「あの。僕は帰って良いかな?僕はその様子を見にきただけだし。」
「あなたは香ノ木さんが仰っていた選択肢とやらを実行してください」
ジオが一人で逃げようとしたが、当然ながら逃げる事ができず動きを止めた。
「全く。凛華さん。この歩くゴミをお好きなところへ持っていってください」
「え?」
ジオをゴミ扱いする夜月は香ノ木さんを説教と言う地獄から解放した。
「俺も許してくれませんか。」
「先輩。この子は私と先輩の子です。分かっていますか?」
「お…おう」
俺は夜月に否定しないように頷いた。
「もし。今後同じことになったら。」
「なったら?」
「先輩に変な虫が寄りつかないように先輩も尊厳を失ってもらいます」
夜月は美沙と涼の方に睨みを利かせて言いました。
「ご…ご冗談を…」
「先輩。私は言葉だけだから優しい。って思っているようなので実行しますよ」
俺は夜月に心を読まれたことに心臓がギュッとなり、意識が薄れ横に崩れた。
「夜月。やりすぎよ。いくらこの二人が近かったからって…。二人とも?大丈夫?」




