箱庭の『非』日常⑨
「このくらいで良いか?」
俺がそう言ったのだが、香ノ木さんは『まだ短い』と言いながら許してくれた。
「夜月さん。いずれての空いている時にでもこの男に教えていただけますか?」
「分かりました。香ノ木さん」
夜月は香ノ木さんの指示に拒否をせず、俺の勉強に付き合う事になっていた。
「先輩。そろそろ街の案内に戻りましょう」
「そうだな」
夜月は再び街の案内を始めるため歩き出した。
街には普通の暮らしがあり、魔導士だけでなく商売をする住民の姿があった。
「レストランか?」
「はい。ここは街でも有名な所でして、特にハンバーグが美味しいですよ」
俺はちょうどお腹が空いたこともあって夜月を誘い、レストランで昼食にする事にした。
「そうですね。ではご一緒にさせて頂きます」
夜月と二人で食事をすることはなかったこともあり、二人で緊張をしながら店内に入った。
「いらっしゃいませ」
レストランに入ると、ウェイトレスが接客をしに扉の近くに来ていた。
「お客さまは…」
「こんにちは綾さん。夜月。それとあんたはま…魔王…。」
女の子は濃い紺色のワンピースにフリル付きのエプロン。さらに頭にはフリル付きのカチューシャ。靴下は足元を隠すためなのかストッキングを履き、前を隠しように銀色のウェイタートレイを持っていた。
「蘆屋先輩。こんにちは。今日はアルバイトだったのですね…。」
夜月は少し後悔した表情をして綾さんを見ていた。
「うん。大変素晴らしいです」
「な!何を言っているの!最低。こんな姿をあんたに見られるなんて」
綾さんは恥ずかしさから出てくる涙を堪えながら俺の方を睨んできた。
「なぜ。来たのですか」
「お腹が空いていてちょうど来たら綾さんが可愛い姿でいただけだよ」
「しね!変態。さっさと出ていけ!」
綾さんは俺を元から嫌っているからなのか。半べそをかいて言ってきた。
「ちょっと。失礼だよ姉貴。」
俺と夜月、綾さんが拗れていると、店の奥からコックコートを着た鳳翠が現れた。
「鳳翠くん?あなたもここで働いていたのですね」
夜月も知らなかったようで反応が大きく見えた。
「買いたいものがあって今ちょうどバイトをしているだけだよ」
鳳翠は夜月に理由を言うとキッチンへと消えていった。
「そうみたいです。なのでこれは偶然ですのでお気になさらず」
俺と夜月は流れるように席を案内されて注文へと進んだ。
「それじゃあ。ハンバーグを二つとドリンクバーですね。飲み物は自由です」
注文を受けた綾さんはすぐに席を外してキッチンの方へと消えていった。
「珍しいですね。お二人が一緒とは」
夜月はそう言うと、しんみりとした様子でキッチンの方を見ていた。姉と弟で仲が良いとは言えないようでお互いが警戒して暮らしているようだと夜月は話した。
注文が来るまでに俺と夜月はドリンクバーを撮りに行った。
「お外で食べるのは久しぶりです」
「そういえば、俺もだな」
飲み物を飲み、待っているとハンバーグを持った綾さんがやってきた。
「お持ち致しました。ご注文のハンバーグです」
料理を丁寧に置いた綾さんは素早く離れて食器を洗い出した。
「食べるか」
「はい」
夜月はフォークとナイフを器用に駆使して美味しく食べている間、俺は慣れない道具をぎこちない姿で食べ始めた。
「うまいな」
夜月の勧めたものにはハズレがない気がする。美味しいものには目がないのか探すのが好きなのかは分からないが、楽しくご飯を食べて楽しく話して過ぎていった。
「先輩。この後ですが、行ってみたい所があるので一緒に行きましょう」
夜月は食べている食休みにも話してきてくれて色々な場所を教えてくれるつもりであることが伝わってきた。
「ごちそうさまです」
ご飯を食べ終えた俺たちは会計で待っていた綾を見て向かった。
「それじゃあ。ここは俺が」
あまり行くことがない外食を紹介してくれたお礼も兼ねて二人分のご飯を俺が支払うと夜月が困った顔で見ていた。
「先輩。私が払いますよ」
「大丈夫だよ」
俺と夜月はレストランを後にし、休憩がてら周囲のお店の商品を見てみる事にした。
「このお店は魔法アイテムショップか。」
こんなお店にありがちなネックレスや指輪。イヤリングも売られていた。
「面白そうなものも売っているんだな」
「このようなものには補助魔法がかけられているので戦う時などには使えることがあります」
夜月も女の子らしくアクセサリーには目が無いようでキラキラと瞳を輝かせてみていた。
「攻撃補助。防御補助。回復補助。魔力補助。」
支援で役に立つアイテムとして存在している分補助が多く売られていた。
「これはなんだ?」
俺が手にしたイヤリングの紹介には他のものとは異なり、面白そうな力があったため夜月へのプレゼントに買ってみる事にした。
「夜月」
「これは…穴を開けないタイプのイヤリングですか?」
夜月は何か怪しいものを感じたのか細かく見回して確認を始めた。
「プレゼント。今日のお礼だよ」
「これをですか?」
夜月は何の用途で使うのか分からないそれを耳につけてみて感想を求めてきた。
「如何でしょうか?」
「似合っているよ」
想像以上に夜月がはめたイヤリングは似合っており、目立って見えた。
「このイヤリングはどんな効果があるのですか?」
夜月は俺がなぜプレゼントとして挙げてきたのか気になったようで商品の紹介が書かれている紙を見つめた。
「吸収ですか?」
使い道は不明。用途も不明。意味もないとも言えるアイテムに夜月は考えていた。
「まあ。夜月に似合っているし。補助になるかもと思ってな。買ってみたんだよ」
俺はそう言うと嬉しそうな表情を作って夜月が「ありがとうございます」と言ってイヤリングに触れた。




