箱庭の『非』日常⑧
俺が転校して三日が経ち、生徒とも仲良くなり出したある日。
「先輩。街へ行きましょう」
夜月が俺を遊びに誘ってきた。
「珍しいな。俺を誘うなんて」
「先輩は行ったことないかと思ったので、良い機会かと…」
夜月は楽しみにしているのか手で遊びながら言ってきた。
「じゃあ。行ってみるか?街に」
「はい!」
夜月の足取りは軽く、目的の場所に一直線に向いていた。
「先輩。こちらです」
「急ぎすぎじゃねぇか?」
「今日は色々向かいたい所があるんです!」
俺と夜月は勢いよく学園を飛び出して、街へと羽を伸ばした。
「夜月、どこに向かうつもりなんだ?」
「買い物です。先輩はここに来て何も無いようなので」
夜月で暮らし始めた時の俺のように買い物に付き合ってくれるようとしていた。
「先輩。まずは魔法のアイテムを買いに行きましょう。私、良い所を知っていますよ」
夜月の行く先々ではサービスをしてくれ、買い物に近い観光になってきていた。
「先輩。次はあの塔に行きましょう」
夜月が指で示した先には、大きな時計台があり、鐘の音が町中に響かせていた。
「あの建物は図書館なのですよ」
俺は日頃から本を読むことが少ないため、あまり詳しくないが、夜月の勧めのあったため、どのようなものがあるのか気になり、向かってみる事にした。
「ここにはどんなものがあるんだ?」
俺が図書館に入って、最初に気になったのは本の種類だった。
「魔法の学園都市ですから。魔法の本が多くありますよ。なので在学中の生徒の溜まり場…基。自主研究の場所として多くの人が使っております」
夜月がそのような話をしている中でも多くの生徒が熱心に本を読んでおり、見知った顔も何人か勉強をしていた。
「また、あなたですか。魔王」
「それはこっちの台詞だよ。香ノ木さん」
学園に来てからというもの香ノ木さんとは頻繁に会うことがある。
「なぜ。あなたがこんな所に来ているのですか。あなたはどちらかと言いますと、遊ぶ方が好きではありませんか?」
「夜月からのお誘いで来たんだよ」
香ノ木さんはとても嫌なものを見た目で見てきた。
「すみません。私のせいです」
夜月は香ノ木さんと似て、真面目な所があり、行動がどうしても同じような事になってしまうようだった。
「あなたなのであれば仕方ありません」
「ありがとうございます」
香ノ木さんは夜月とは仲の良い関係であり、話を聞くとすぐに返事を返した。
「あなた。他の方に迷惑にならないように静かにしてください」
「そのつもりだよ」
俺はそう言い、図書館の本棚にある本を見回りに行く。
「魔法力学。魔法史学。魔力変換学。俺にはさっぱりだな」
久しぶりに図書館へ来たこともあり、題名だけでも読んで気になったものをと思ったが難しいものが多く、簡単そうなものを探す事にした。
「全く。あなたはもう少し勉強をしなさい。そこまでとは行かなくとも魔法基礎学の知識だけでも入れて損はありません」
香ノ木さんは俺が本棚に手を出さない所を見かねて本棚まで歩き、一冊の本を取って渡してきた。
「ありがとう。香ノ木さん…」
魔法基礎学の本には魔法の定義とそれを表したインペルについての内容が細かく書かれてあった。
「魔法とは核となるインペル。魔導師の目的であるゲートには相性と連なる魔法がある。原理としては魔導師の観念の複合体が魔法の核につながる…。分からないが…」
俺は魔法を使えるようになったが、魔法とはどのようなものなのかはっきりとはわかっていなかったのだと改めて知った。
「あなた。そこで躓くのですか」
香ノ木さんは教えるのが好きなようで俺が悩んでいると教えを求める前から説明をしてきた。
「宜しいですか。そもそも魔法は魔導士があってのものです。魔法は人による法則を示しており、魔導書。あなたのクルスリアさんや九重さんのアイリアさんのような魔導書自体が放つ魔力的観測を魔術と呼称されています。」
「魔法と魔術の違いってなんだよ」
「先ほど。あなたが読んでいましたよね。魔法とは書くとなるインペル。魔導師の目的であるゲートには相性と連なる魔法があると。つまり、インペルやゲートと呼ばれるものは魔法の発動として力になります。ですが、魔術にはそのようなものがないため、意思のない魔導書には何もできず、意思がある場合でも核である力要するに目的のない力のみの発動に限定されます」
「つまり?」
俺は香ノ木さんの話を一通り聞いたが、さっぱり理解ができず、話の途中で目が回った。
『マスター。要するに私たちは魔導書としての力は出せるが、魔導師のように目的を持たない物だってことだ。だから魔法の元素七つのインペルとは繋がりがないってわけだ。まあ、私の場合。意思があるからマスターの言われる通りにできるがな』
「そうなのか?」
俺はクルスリアの話した内容で理解ができた。そんなことができる魔導書となるとやはり最初の頃に夜月たちが驚いていた理由が納得できた。
「そもそも。そんな異常な魔導書があなたのような人に渡ること自体が恐怖の何者でもありません。」
神戒島での出来事もあったため、封魔は強く言い返すこともできず、魔導書を見てグッと握りしめた。
「そういえば。インペルと連なる魔法ってあったが」
「それこそあなたのインペル〈傲慢〉とゲート〈支配〉の繋がりです」
「確かに。クルスリアとの契約の時のそんなことを言っていたな」
魔法の原理や定義をある程度知ることで新たな戦い方が増えることが分かった。
「なぜ。私があなたに教えてあげないといけないのですか。全く」
香ノ木さんはため息を出して落ち着いたのか椅子に戻った。
「ありがとう。香ノ木さん」
俺は静かに本を読み直し始めた香ノ木さんに感謝して離れた。
「先輩。香ノ木さんが話してくれた内容。分かりましたか?」
「大まかにはな。だがこの先のためにも勉強は必要だな」
「先輩。宜しければこの本も如何ですか?」
俺は香ノ木さんからもらった本に書かれている内容を学ぶ上で夜月の勧めた本も学ぶ事にした。
「先輩は魔法についての知識が乏しいですが、魔法自体の力はあります。なので戦い方を学ぶことで補いましょう」
夜月が渡してきた本には魔法だけでなく、武器の雑誌や格闘術について書かれた雑誌も含まれていた。
「これを読まないといけないか?」
「知識不足なので必要です」
夜月は俺が尋ねる度に必要であると答えてきたため、尋ねることもやめて学ぶ事にした。図書館ではあまり長い間居座るつもりがなかったが、結局の所夜月と香ノ木さんに勧められた本を二時間も読んでいた。




