進化
つづきです
「あれ━?、ちょっと待ってくださいっ」
魔法陣を使用した時に応対してくれた赤髪の人が、何やら焦っていた。
今日の兎狩りの成果を確認に、ディーと二人ギルド本部へとやって来た。
しかし、様子がおかしい、計測に入ったら係官が首を捻っている。
散々、計測魔道具をいじっていたが……。
「うーん、魔道具が故障しちゃった様で……、後でもう一度来てください!」
「仕方ない、じゃ後でもう一度お願いします」
計測不能ならここに居ても意味が無い、ディを連れて外へと歩き始めた。
俺達が、後ろ向いて歩き始めると、別の係官と話をし始めたようだが。
「どうかしたの?」
「魔道具が壊れちゃったみたい……」
「どれどれ…………、ん?壊れてないじゃない。数字出てるよ?」
「だからよっ、ノベルさんL3なのに、何よこの数字……」
「ぶっ! 、これL20を軽く越えてる数字じゃん。あはは壊れてるねぇ」
「でしょう! 、参ったなぁ、他の人が来る前に直さなきゃ!」
魔道具の修理に工房へと修理に走るが、工房の主任に故障していないと、突き返される事になる。戻った係官の元へ別の冒険者が計測に訪れ、魔道具が正常に作動しているのを目にした彼女は、意味不明の現象に困惑して悩み続ける事に成った。
「これからどうしよかぁ?」
経験値計測が出来なかった。
すっかり気を削がれてしまい、間をあけての再計測もなんだが、面倒に成ってきた。
「確認はどうなったんですか?」
「うん、魔道具が故障だから、後で来てくれだって」
「あらぁ……」
ディーは一言反応した後に、何やら考え込み俺に提案してきた。
「もう一度、狩りにいきませんかぁ?」
「えっ、今帰ったばかりで又行くの?」
「はい、何だか役に立てるのが嬉しくてぇ」
「あはは」
彼女は、俺に断られたら消滅が待っていたせいで、必死に懇願してきた。多分俺の前にも、懇願していた筈だが、誰も相手にされず追い返されたと思う。千回目の最後のチャンスで、俺からやっと承認取れた。
自分を受け入れたくれた者に、役に立てるのが余程に嬉しいんだろうなぁ。
一緒に歩くディーは本当に機嫌が良い。
とても綺麗で、可愛くもあり……、ちょっと駄目なディーネ。
そんな彼女の希望を叶えてやりたいけど、既に日が落ち始めている。
夜に成ると、昼よりも凶悪の魔物が現れ始める。
弱い俺では、ディーを守りきれない可能性が高い!。
そんな状況へ、彼女を連れてはいけない……。
「んと、夜は危険過ぎるから……、明日にしよう?」
ディーはちょっと残念そうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻る。
「はい、では明日がんばりましょう!」
返された笑顔は……、活力の源に成りつつある、女神の微笑み。
ディーは、駄女神なんかじゃない、っと、信じる俺はやっぱり、甘い?。
その後は、ディーを連れて明日の為に夕食に出向いたが、彼女の御陰で金策が成功した事もあり、少し高級な料亭へと足を向けた。後の為に、貯金するのが本来良いのだろうけど、何だか今日は、贅沢してもバチは当らないだろう、っと自分を納得させた。
翌日、再び狩りに出かけるが、それは俺達の運命を変える物と成った。
そんな事を知りもしない二人は、贅沢な食事に大満足で料理を口にしていた。
◇ ◇ ◇
翌日。
街の外に広がる何時もの森へとやって来た。
又、赤目兎を狩るつもりだった俺に、ディーが提案を持ち掛けてくる。
「ノベルさん、少し強い奴にしませんか?、きっと大丈夫と思うんです」
ディーの、その自信に満ちた提案の根拠が、一体何処から来てるのか分からないが、確かに赤目兎ばかりも、少々飽きても来た。少し強い奴なら彼女の言うとおり、問題無いだろう。
「少し冒険してみようか?」
「はいっ! 頑張りましょう!」
街から離れ、奥へ行くほど種類は同じでも、強さのレベルは増して行く。
違う種族も現れ始め、最初に失敗した様に複数から襲われる危険も上る。
でも怖がってばかりでは、強く成れないのは間違いない。
そう思って、ゴブリンを思い切って相手にする事にした。
最初に着いた狩場には、既に人が狩りを始めている。強引に割り込めば、トラブルの元に成るだけで、得る物は無い、別の場所へと移動するが、何故か今日は狩場に人が溢れ要ていた。
「何か、混雑してますねぇ」
低レベル帯の狩場に、こんなに人が居るのは珍しい。
そう思って、更に別の狩場へ移動しようとした時………。
うわぁ! た、たすけぇ……ぎゃああああ
助けを呼ぶ声の後、悲鳴が周囲で巻き起こった。
「なんだっ!」
見れば、複数の巨大なオークが、周囲で狩りをしていた冒険者を次々と襲っていた。
狩りをしていた誰かが、オークの縄張りへ入り絡まれ、逃走したのを追って目に付く冒険者を、手当たり次第に襲い始めた様だ。
絡まれたのが、適正以上の者ならその場で討伐しただろうが、逃走した処を考えると低レベ冒険者だ。
周囲で狩ってる中に、高レベ装備の者が居た。
初心者に同行した、私設ギルドの監視役と思われ、暴れているオーク達は彼が処理する。
っと、そう思った矢先に、オークから斬り倒された!。
追って来たのは下っ端ではなく、偶々居合わせた仕官クラスだと分かった。
斬られた者は、装備は良かっただけで、強さは全く別物の見た目装備だったらしい。
奴を倒すには、最低でもL10は要るだろう……。
「ディー! 、にげよう!」
「でも、あんなに出血してます!。助けてあげないと!」
「待ってディー」
さすがは女神様だ、こんな状況で人の心配までして、助けに飛び出してしまった。
こうなると、彼女に付き合うしかない。襲われた者達は、女神を支給されていない若年層だ。確かに、彼らを見捨てて逃げるのは、今夜から寝覚めが悪そうだ。
狩場に倒れ、虫の息になった冒険者へ、順に回復魔法を施している、ディー。
だが、暴れるオークの一体がディーに目を付け、向って来た。
覚悟を決めて、戦うしかないが、俺で果たして相手に成るのか?
オークは俺には目もくれず、ディーに剣を振り下ろす、俺は剣を振り上げ受け様とした。
普通なら、俺は剣もろ共圧され、ディーは斬られていた。
処が……、奴の右腕は大きく弾かれ体ごと仰け反っている。
奴は再び腕を振り下ろすが、その動きは『遅いっ』っと感じて、胴体へ剣を振り払う、オークの巨躯は両断されて別々に大地へ転がった。
「えっ?」
本当なら、即座に斬り殺されても不思議じゃない相手を、逆に即死させた?。更に、仲間をやられたオークは、怒り狂い俺に向って突進してくるが、その動きも鈍い鈍亀にみえた。
二体が同時に剣を振りかぶった処へ、先頭の奴には胴を切払い、後ろの奴には頭から振り下ろした。その場所には、胴と頭から両断された二体のオークが転がっていた。
「なにこの強さ……」
怪我人を助け終わったディーが傍へとやって来た。
「ディー……、何か瞬殺できたぞ?」
「はいっ、ノベルさんかっこ良かったですっ!」
ディーにそう言われて腕に抱き付かれ、ちょっと照れて嬉しかったけど、強さの理由が分からなかった。高々、レベル3の剣士がオークの三体の仕官クラスを瞬殺したとか、普通有り得ない。この三体だと、レベル10が回復役を含め、四人は要る筈なのにだ。
「凄いですよ、ノベルさん昨日より、断然強かったぁ!」
「うん、そうなんだけど……」
「強く成ると……、何か問題有るんですか?」
そんな馬鹿な事はない、冒険者は強くなる為に常に努力している。
強くなって、嬉しくない筈が無い、しかし突然過ぎて戸惑いを覚えるばかり。
驚愕すべき事は、これで終らなかった。
急報を受け駆けつけた警備兵と看護隊に、彼らを任せ、街へと戻った俺とディーは、ギルド本部へと向かい魔道具の測定を受けに行った。
毎度同じ、赤髪の人に頼んだ。
「げっ、どうしてノベルさんだけ、こうなっちゃうのぉ?」
「又ですか……」
「だってL3の貴方の数値が、L30こえてるのよぉ?、オマケに累積経験値に至っては、カンスト状態の測定不能って、表示されてるんだもん!」
係官は勿論、俺も今の今迄忘れていたある事を、今思い出した。
そこで、ディーも調べてもらう事にした。
「これに乗ればいんですか?」
「そうそう、乗ってからお祈りしたら測定されますから」
ディーは魔法陣に入り、祈りを始めた。
直ぐに陣が光を発し、それが魔法陣全体に拡がると、頭上にランクが表示された。
「マジデぇぇぇ! 、ランク『E』嘘でしょ!」
「えっ! 、私も強く成れたんですか?」
「はい……、そうみたい……です」
神の造った魔法陣が、故障するのは在り得ない。
ディーのランク急上昇は、疑い様のない本物だ……。
ディーに貰ったスキル『進化』、その効果がこれじゃないのか?。
経験値を度外視した急激な能力変化、それが『進化』。
たったの三日で、レベル30相当まで上ったと成ると、数日したら……。
想像したら、怖くなって来た!。
そして、オークに襲われた者達から、俺達の事が広まって行く事に成った。
レベル3の剣士が、オーク仕官三対を相手に、瞬殺したという。
実しやかに、街中に拡がるのにさして時間を要さなかった。
よろしくおねがいします