魔族の女
続きです、よろしくおねがいします
「マスターっ! 話が違う、霊石を渡したら見逃すとっ!」
森の中の一軒屋。
今そこに、十数名の冒険者ギルド員達が顔を連ねていた。
その中、一人の男がそのギルド長へ抗議していた。
男の名は、トーレス。
「ああ、確かに約束したぞっ」
「ならどうして、こんな……」
「おいおい、トーレスひとつと言った覚えはないぞっ」
「馬鹿なっ、リレルは一つしか持って居ない、しかもそれは母親の形見だ」
ギルド長は、トーレスとの約束を違え様とし、それにトーレスは怒りをぶつけた。
その手は、わなわなと振るえ拳は固く握り締めている。
「ふふふふ、もう一個あんじゃねぇか! 、本人のがなっ!」
「マスター……、あんた最初からリレルまで……」
トーレスは、ここに来てやっとギルド長の真意を知り、後ろの女性へ近寄る。
「トーレス……」
彼の名の呼び身を震わせ、縋り付いた女性はリレルと言い、彼女の肌は青く人では無い。魔族の女である彼女は、人の男性トーレスと知り合い、愛し合い夫婦と成った。
「ふっ、魔族の女は死ぬと身体を霊石に変える、だが肝心の魔族の女共は滅多な事じゃ人前に現れねぇ、それが何とよりよって、俺のギルド員の妻に成っていただと! 、こんな美味しい話は無いだろうがっ!」
「逃げろっ、リレルっ! 、俺がここを……
トーレスの頭部を矢が貫き、彼はその場で絶命してドサッと大地へと崩れ落ちた。走り去る魔族の女性、妻のリレルは夫の死を見届けると、振り向いて遺体へ駆け寄り、その身体を抱きかかえ号泣する。
「嫌ぁ━━! 、トーレスっ! そんなどうしてぇ」
夫の身体を抱いたまま蹲り、只管に泣き喚くリレルへギルド長は、笑いながら剣を抜いて構えた。
太い腕を振り下ろし、彼女の首へと襲い掛かった刀身は。
細く青い腕が動き、その三本の指によって取り押えられていた。
「うほっ、この女っ剣を止めやがったっ!」
ギルド長が幾ら剣を引き抜こうとしても、しっかりと捕まれた刃は、ピクリともしない。彼女はその刃をパッと放し、その拍子にギルド長は大きく後ろへと仰け反り下がった。
指を離し彼女はもゆっくりと立ち上がると、恨みの念を込めて罵り始めた。
「私は、静かにトーレスと暮らしたかっただけなのに、よくもその邪魔をしてくれたなっ! 、貴様達は生きてここから帰さないっ!」
っと、叫んだ瞬間に彼女の背中に黒い翼が拡がった。
「女が本性を曝したぞっ! 、ぶっころせぇ!」
ギルド長の掛け声で、ギルド員達は一斉に彼女へと攻撃を開始するが、切り込まれた剣も槍も飛び交う矢さえも、尽く叩き落して空へと飛んだ。
その後彼女は地上へ、魔弾の炎を雨の様に降らせてギルド員達へ反撃を開始、逃げ惑う彼らは魔弾に焼かれ悲鳴を上げる。
一度は、圧倒的優位に在ったリレルだが、魔導士から聖属性の攻撃に遭い翼を破られ、地上へと落下してしまう。地上へ叩きつけられた所へ、捕縛の呪文を掛けられ四肢の自由を奪われ、敢無く取り押えられてしまった。
「己、人間めぇ……、何時か必ず報いを受ける日が来ようぞっ! それ……
ギルド長が、彼女の心臓を剣で貫いた事で、その言葉の続きは誰の耳にも届く事は、永遠に無くなった。命を失った彼女の身体は、青白い炎に包まれ焼かれていき最後に、霊石と成って大地へと残った。
地上に転がった霊石と、最初に取上げた物の二つを手に入れたギルド長は、高笑いを残しメンバーを引き連れ、その場を去っていった。
その全てを見ていた小さな目が有った。
山小屋から飛び出して来た小さな影は、月明かりの下で、少女の姿を浮かび上がらせた。少女はトーレスの遺体に縋り付き、父親の名を叫び泣き喚く。リレルの焼焦げた痕へ行き、そこでも母の名を呼び泣き崩れ、地面を叩き付けていた。
少女の名は、リン。
人間の父であるトーレスと、母の魔族であるリレルとの間に生まれた。
これは……、十年前に起きた。
ある幸せに過ごしていた家族を、襲った悲劇の夜の出来事…………。
この夜から、彼女の復讐の念は固まって行った━━━━。
「うあああああああああっ!」
大声を上げてベッドから飛び起きた女性。
成長したリンの薄青の肌が、朝日に照らされている。
「もぅ……十年かぁ」
そう言うと、下着以外は身に付けていない身体の、首から下げたペンダントとを片手でギュウっと握り締めた。
「お祖母ちゃんの霊石は、取り返したっ! 、後はお母さんだけっ、必ず取り返す」
幼い彼女は、両親を殺した相手を知らなかった。
只、冒険者の一人で在ると言う事意外は、何も分かっていない。冒険者は全て仇とみなし、闇雲に襲っている内に、偶然にも霊石を持った商人を発見し問い詰めた結果、それは十年前にある冒険者から買い取った物と聞き、調べると祖母の霊石と分かり奪い返した。
「貴様、これと同じ霊石が在った筈だ、これを売ったのは誰だ?」
「ひぃい! 、私は……買った相手の名前を聞いてはいない、た、助けてっ!」
残りは母親だけ、だがその商人は買い取った冒険者が誰なのか、名前を知らなかった。死を間際にして、嘘を付ける様な商人は居る筈も無く。彼女は、その言葉を信じ霊石を奪い返すに留め、商人の命までは奪わなかった。
それで彼女は、冒険者を襲い続けている。
何時か、母親の霊石を持った奴に出会えるまで、襲撃を止めるつもりは無かった。
「お母さん……、必ず見付け出してみせるわ!」
そしてリンは、まだ痛みが若干残る右腕を見た。
そこには、矢を射抜かれた痕が残っているが、殆ど治りかけていた。
「にしても……、あの人間の男、アイツを何とかしないと邪魔ねっ!」
彼女はもそう独り言を呟き、装備を整えると小屋を後にした。
その小屋は、十年前の悲劇の痕を覚えている、三人が住んでいた家だった。
翌日、気に成る事が在って、再びギルド本部を訪ねた。
「メーアさん、あの魔族に襲われた人で、死亡した人は居るのかな?
「ちょっと待ってね、調べてみるわ」
彼女は、事件のリストに書かれている物を調べてくれた。
「うーん、死者は一人も居ないわよぉ、一番酷い人でも片腕を切落とされた程度」
片腕位だと、傍に治癒を行える者が居れば死ぬような事は無い。
これまで偶々殺されなかったのではない。
人を襲っても、あの魔族の女は殺す気は無いのでは?。
何の根拠も無いけど、そう感じる気持ちが芽生えている。
そして、彼女が人を襲う理由を無性に知りたい。
違う……、調べないといけない様な気がする!。
一度そう感じると、理由を知りたい衝動を抑える事が出来なくなった。
魔族の事なら何でもいいから、過去に起きた事を調べて貰うように頼み本部をでた。
外に出ると、ディーネが俺を待ち構えていた。
「そんなに……、あの魔族の女性が気に成るんですかぁ?」
彼女は、少し責めるような……、そして哀しげな眼をして訪ねてきた。
ギルド本部へ来た理由を、彼女は予想していた。
「どうしてっ!」
その一言は俺を責めていた。
とても寂しい眼をして彼女は尋ねてきた。
「ディーが心配してる様な、事じゃないよ」
「え?」
昨日、魔族の女と戦った時に感じた違和感を、彼女に伝えた。
「あの魔族の女と戦った時に、強い怒りは感じても殺気みたいな物が無かった。人を襲撃しているのには、何か理由があるんじゃないか?、って思ったから過去の事を調べて貰ってる」
「人間と何かあったと?」
「うん、彼女に人を襲わせる様な、何かが起きてたんじゃないか?」
その後彼女は無言で、俺に腕を絡ませてきた。
俺もそれ以上は何も言わず、只二人で腕を組んだまま家へと戻って行った。
有難う御座いました




