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「マスター、どうしたんですか?」

 早紀が、不安げにきいた。

「ちょっと睡眠不足なだけだよ。気にしないで」

 ユーキは、新しいブレンドを作りながら、私たちの心配を打ち消すように笑った。


 睡眠不足?

 そんなユーキの態度に引っかかるものを感じる。

 以前、アルは一週間寝なくても平気って言ってたことがある。さすがにそれは冗談としても、この前のデートの日だって、ほとんど寝てないだろうにアルはめちゃくちゃ元気だった。

 そんなアルが、睡眠不足だからってあんな風になる?

「はい、ブレンドできたよ」

 言われて、私はそれに手をのばす。

 結局、お店が終わるまで、お店が終わっても、アルは出てこなかった。


 ☆


「じゃ、野宮君、奏子をよろしくねー」

 後ろにハートマークがついてるんじゃないかってくらい陽気に言って手を振ると、早紀は足取りも軽く帰って行った。

 残された私は、お店の前で途方に暮れる。隣には、野宮君。


 アルがいなくなった後、ユーキはそのままお店を閉めてしまった。ついでに明日も休みにするという。

 アルの具合、そんなによくないのかな。もともとやる気なさそうなお店だから、それほど必死に開店させる気はないのかもしれないけど。

 土日、まるまるあいちゃったなー、なんて、ぼんやり考えているのは現実逃避。

 えーっと……


「俺たちも行くか」

 歩き始めた野宮君に、仕方なし着いていく。しばらくは、二人で黙って歩く。

 うん、うち、近いし。すぐ着くよね。

「あのさ」

「はいっ」

 返事をしたら、声が裏返ってしまった。振り向いた野宮君が、笑っている。

「そんなに緊張するなよ。なにも、取って食おうってわけじゃないんだから」

「ん……ごめん」

 そうよね。意識しすぎだわ、私。野宮君が何を考えているのかはっきりと聞かないうちから、こんなに緊張しなくてもいいわよね。

 リラーックス、リラーックス。


「ちょっと寄り道していいか?」

「いいけど……どこへ」

「こっち」

 うちとは別の方向へ向かう野宮君についていくと、小さな公園についた。もちろん、暗いそこには誰もいない。

「こんなところに、公園なんてあったんだ」

「あれ、知らなかった? 乃木んち、このへんだろ?」

「そうだけど、駅のこっちはあんまり知らないわ」

 そこにあったブランコに野宮君が座ったので、私も隣に座る。


「乃木」

 空を見上げて、野宮君が言った。

「んー?」

「ありがとな」

「ん?」

 何に対しての、ありがとう?

 私が首をかしげると、野宮君が笑いながら振り向いた。

「俺が林にふられた時、一緒に悩んでくれただろ?」

「ああ……ううん、たいしたことしてないよ。力になれなくて、ごめんね」

 私がしたのは、ただ、話を聞くことだけだった。まあ、その話を聞いていて、野宮君が早紀に対して見たまんまのイメージしか持ってなかったことがわかったんだけど。

 

「好きなつもりでいたのに、俺、林のこと全然わかってなくて……お前、そんな俺をよくお前たちの話に引っ張り込んでくれただろ。最初は気まずかったから、余計なことを、って思ってたけど、おかげで林のことよく知ることができた。感謝してる」

「そう? だって野宮君、早紀のことなにも知らなかったから。好きになるなら、本当の早紀をちゃんと知って、それから、好きだって言ってほしかったの」

「だよなあ。あいつがあんなにしっかりした奴だなんて思ってもいなかったよ。だから、見た目だけで好きだなんて言った俺が、どれだけ林に失礼だったか、ってよくわかった。でもそれは、乃木に対しても同じだった」

「私?」

 どうしてそこに、私がでてくるんだろう。

 きい、とブランコを揺らす野宮君の横顔を見つめる。

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