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そう言ったきり黙り込んだアルに、めかしこんで少しばかり浮かれていた自分が急に恥ずかしくなってあわてて俯いた。むき出しの肩が妙に心もとない。
「どうせ、こんな大人っぽい格好は似合いませんよ」
俯いた視線の先に、近づいてくるアルのつま先が見えた。
「とんでもない。とても、綺麗だよ」
てっきりからかわれると思っていたから、思いがけない賛辞に頬が熱くなる。お世辞だとわかっていても、悪い気はしない。
「おいで」
差し出された手を、バッグ(これも服に合わせたおしゃれなものを用意されていた)を持っていない方の手で反射的にとると、そのままその腕に絡まされた。腕を組む格好で、アルは部屋を出る。慣れないピンヒールで歩きにくいこと、ばれていたのかもしれない。
いつの間にか柴田さんの姿が見えなくなっていた。あ、私、ちゃんとお礼言ってないや。もう一度、会えるかな。
正装したアルは、いつにもまして見栄えよく、つまり、格好よかった。 時々すれ違うやはり正装した人々が、アルのことを振り返って見とれている。もともと目をひく美貌なのだ。そこへきてこんな格好していたら、まさに鬼に金棒。注目を浴びないほうが嘘だろう。
そんなアルの隣にいる自分がどうしようもなく恥ずかしくて情けなくて、私はずっと俯いていた。
「奏子、こっちを向いて」
ふいに、アルが立ち止まって私の頬に手をあてた。
「まっすぐ前を向いてごらん。胸を張って」
「でも……」
目を逸らしたまま、とまどって言葉がつなげない。
羞恥で染まった頬に、アルのひんやりとした手がここちよかった。
「もっと自信を持って。気付いていた? みんな、君を振り返っていく」
「え?」
見上げた視線の先に、目を細めて柔らかく微笑むアル。
「見られているのは、アルでしょ?」
「やっぱり、気付いてなかったんだね。君だよ」
そうしてアルは、顔を近づけて私に囁いた。いつになく、その顔は穏やかで優しく、そして、やけに妖艶だった。
「君は、とても綺麗だよ。そんな君が俺の隣にいることで、俺がどんなに誇らしい気持ちでいるのか、どうしたらわかってもらえる? この胸を開いて、すべてを君に見せないとだめなのかな」
な……なにそれ……。そんな台詞を真正面から言われたら……
「ああ、でも、つまらない嫉妬心までは知られたくはないな。他の誰にも見せたくないと思ってしまうなんて。そのつややかな髪も、きらめく瞳も、全てが美しい君を誰の目にも触れさせず、閉じ込めて俺だけのものにしておきたいよ」
その台詞を聞き終わるか終わらないかのうちに、足の力が抜けてその場に崩れ落ちた。
「な、何言って……やめ、て、よ…………」
あまりの毒気の強さに力が抜けた。反論することも馬鹿にすることもできずに私は、情けない声をあげて座り込む。
アルは、片方の眉をあげると、面白そうに笑って、私の前に片方の膝をついた。
「奏子にはまだこのレベルは早すぎたか。つい、いつものくせで」
「いつもって……一体、どれくらいの女の子をたらしこんだのよ、このすけべ」
「すけべとはひどいな。等価交換だよ」
素に戻ったらしいアルの手に支えられて立ち上がりながら、会話にはさまれた色気のない言葉にひっかかる。




