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一時間後。
服を選んでくれ。アルはそう言っていた。
なのに、用意されていたのはそれだけではなかった。
深紅のひらひらした膝丈ワンピースを着せられたと思ったら、足元には細いヒールのパンプス。高く編みこんでパール(本物?!)を飾られた髪と、同じパールのネックレスとイヤリング。仕上げは、したこともない化粧とピンクのマニキュア。
最初に言ったトータルコーディネイトって、こういうこと?
「ほら、言った通りでございましょう? おきれいにできましたよ」
柴田さんが、最後の仕上げに髪を整えながら鏡の中で満足そうに言った。
柴田、と名乗ったその女性は、最初こそ丁寧だったものの、散々似合わないだの結構ですだのごねた私に、ついには地らしい本性をあらわした。もともと姉御肌っぽい人らしく、かえってそれで彼女とはすっかり打ち解けてしまったのだけど。
「アルって、女性相手にいつもこんなことしてるんですか?」
「そうそういつもでもありませんけど……そういえば、今まで連れていらしたお嬢様方は、皆様、大変個性の強い方々でしたわね」
ははあ。つまりはアルと同じわがままだってことか。
「贈られた装飾品も自分の美しさも、当たり前のことと鼻にかけてしまえば全て簡単に色あせてしまいますわ。それに気付かないご婦人方のなんと多いこと。アルトレード様も贈りがいのないことでしょうね。まあ、ご本人もそれを承知で楽しまれていたようですので、どっちもどっちでしょうけれど」
柴田さんは、丁寧な口調できついことをずばずばと言ってのける。でも、こういう人、嫌いじゃない。
と。ふ、と柴田さんは目元を和ませた。鏡に映るその表情は、手元ではなくどこか遠くを見ているようだった。
「あの方の背負っていらっしゃるものはとても大きい。だからこそ息抜きも必要かと思って、ご本人のなさりたいようにお世話させていただいてきました。けれど、アルトレード様があんなに楽しそうな顔をされているのを見たのは、本当に久しぶりです。珍しいこともあるものだと思いましたが、奏子様を守るように言いつかって納得いたしました。わたくしなどが心配しなくても、あの方はご自分で見つけられたのですね」
私に、というよりは、自分へと向けられたような小さな呟きに、私は鏡越しに柴田さんを見つめる。
「見つけたって……何を、です?」
「あら、おしゃべりがすぎたかしら」
私の質問を、優雅に笑ってごまかした。そして、今度はちゃんと私に目を合わせてくれる。
「あの方を、よろしくお願いいたします。わがままに見えるのでしょうけれど、その実、決して無理は言わない方です。お小さい頃から、とてもお優しい方でしたのよ」
慈しむような声音の中に、ユーキの視線に含まれる感情と同じものを感じる。
ここにも、アルを大切にしてくれている人がいる。それが、とても嬉しい。きっとアルのこと、小さい頃から……
そう考えて、ぴきりと、私の笑顔が固まった。
アルの小さい頃? 背負っているものって……それを知ってるってことは、もしかしてこの人も……
怖くて、それ以上は聞けなかった。
☆
「お待たせいたしました」
柴田さんがドアを開けると、そこには同じように服を着替えたアルがいた。その姿に、思わず息をのむ。
黒のスリーピースが、細身の体にぴったりと合っている。カジュアルな服もよく似合っていたけれど、やっぱりアルにはこういう服装の方がしっくりとくる。けだるげにソファーにもたれた姿はまるで一枚の絵のようで、吸いつけられた目が離せなくなった。
そのアルは、私たちに視線を向けると軽く目を見開いた。
「これはこれは……」




