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「何と何との交換?」
「俺が相手をしてきた淑女たちは、甘い言葉や一夜の夢と引き換えに、俺に少々の命の糧をくれる、ということ」
はっとして、アルの顔を見る。そこには、いつもどおりの意地悪な笑みを浮かべたアルがいて。
「それって……」
「アル?」
その時、高い声が私の背後から割り込んだ。
「アルじゃない。ご無沙汰ね」
きつい声に振り返ると、一人の女性が立っていた。体に張り付くようなきらびやかなドレスが、彼女のスタイルを際立たせている。
「美香」
きつい顔だちの美人だった。自信にあふれた表情を少しだけ曇らせて、ちらりと私を見る。
「なあに? 私の誘いにはのってくれないくせに、こんな子供と一緒ってどういうこと?」
「一度だけでいいからって言ったのは、そっちだろ。それに」
私の肩を抱きながら、わざとらしく髪に口付ける。
「見かけだけで判断しない方がいいぜ。これは百年探し続けてやっと見つけた珠玉の宝石。誰ともくらべることのできない最高の女だ」
百年。
その言葉を聞いて、今までの浮かれた気分が一気に覚めた。
そっか。今日、アルが一緒にいたのは。
「な……あんたまさかこんな子供にまで手を……」
「出されてません!」
思わず私のほうが怒鳴っていた。ほとんどやつ当たり。その女性はめんくらったようだけど、当のアルはのんきに笑っている。
「だとさ。ま、青い果実が熟すのを待つのも楽しいけどね」
唇を引き結んで、彼女はそれ以上何も言わず背をむけて足早に去っていく。彼女を待っていたらしい男性が、あわててそのあとを追っていった。その背中を見送ってから、私は眇めた目をアルにむける。
「たらしこんだ彼女?」
「人聞きの悪い。付き合えってしつこいから、一度食事しただけだ」
「ホントに食事だけ?」
「そう。食事、だけ」
うわあ……えぐいこと聞いちゃった。
「私も、そういう結末なの?」
「ご希望なら、食べてあげようか? 頭から足の先まで、残さずきれいに全部」
「遠慮申し上げます」
ぷいっとそっぽをむくけれど、胸に刺さった痛みはとれなかった。
なんだ。一日中どきどきしたり、わくわくしたり。ばかみたい。あんな台詞も全部、水の精……リシィのためだったのに。
「ほら、行くぞ」
いつものアルが、私の手をひいた。
☆
通された部屋は、小さな個室だった。
間接照明で明かりを落としてある部屋には、壁に2本、テーブルに1本のろうそくが灯されていた。正面に配置された隣あう2つの壁が全てガラスになっていて、その向こうには一面星をちりばめたような夜景が見える。
はるか遠くまで色とりどりにきらめく無数の小さな光点のパノラマは、息を飲むほどに美しかった。
「すごい……」
「お気にめしていただけましたか? お嬢様」
アルが軽口をたたきながら、私の椅子を引いてくれる。
後ろにいたボーイさんが、アルが席についたのを見計らって声をかけた。
「お飲み物はいかがいたしましょう」
「俺はいつもの。彼女にはなにかノンアルコールを」
「かしこまりました」
斜めにカッティングされた珍しいかたちのテーブルは、真横でも真正面でもなく、若干体を向かい合わせる格好の座り方になる。どちらに座っても、視線の向こうにはきれいな夜景が目に入るように配置されていた。




