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ぱかりと口を開けた私を、ユーキが笑う。
「奏子の家には、早紀がうまく言っておくってさ。さっきは、奏子を動かせる状態じゃなかったから」
はたと気づけば、しかも男の部屋。
「あ、私ったらベッドとっちゃって」
あわてて起きようとして、まためまいを起こす。ふらついた体をアルに抱きとめられた。そこに感じた体温に、今更ながら頬が熱くなる。
「もう少し寝とけ。俺は一週間やそこら寝なくたって平気だから」
「ええっ?」
そういえば。
私が目を覚ましたとき、アルと目が合ったっけ。ずっとついていてくれたのかしら。
うわー、私の寝顔なんて、かわいくなかったろうなあ……
「おやすみ」
空になったカップを受け取ると、ユーキは部屋をでていった。
「俺も行くよ。ゆっくり休んで」
アルは私に横になるように促してブランケットを掛けると、あっさりと背を向けた。そのアルを、ついベッドの中から呼び止める。
「アル」
「ん?」
でも、何を言ったらいいのかわからなくて、そのまま黙ってしまう。
出ていきかけたアルが、もう一度戻ってきて私をのぞき込んだ。
「なに? さみしいから添い寝しろ?」
「ばか」
ほこほこした体で横になっていると、強烈な睡魔が襲ってきた。やっぱりまだ、さっきのダメージが残っているのかな。それとも、また一服盛られたのかしら。どっちでも、いいや。
「なんでもない……」
その言葉だけ言うと、簡単にまぶたは落ちてしまった。
でも、気持ちだけはまだ高揚している。
たとえアルの望んでいるのが、『乃木奏子』でないとしても。それでも、私は……
ありがとう。
とても近くで聞こえた声は、アルの声にとてもよく似ていた。けれど、アルがありがとうなんて言うはずがないから、きっと幻聴ね。そんなこと言われるいわれもないし。
確かめようにも、眠くて目が開かない。
そして、額に触れる唇の感触。
抗わなかったのは、眠気のせいだけじゃないみたいだった。
☆
次に目が覚めたときには、もうお昼近かった。遮光のカーテンから、明るい光が漏れている。ぐっすりと眠ったおかげか、目を覚ましたときには昨日の辛さはまったく残っていなかった。
ベッドから降りようとして気がついた。私が着ていたのは、見覚えのない大きなパジャマだった。気が付いた途端、また頬が熱くなる。
これ……男物、だよね。アルの? 誰が着せてくれたんだろう? 今朝意識が戻ったときには、何を着ていたっけ。そういえば覚えてない。
きっと早紀だわ。うん。そうに決まってる。
ベッドサイドに置いてあった自分の服に着替えると、私は部屋をでた。
えーと、ここ、どこ?
ドアをあけて顔を出すと、そこは短い廊下だった。突き当たりには、どうやら玄関らしいドア。そこに行くまでの片側の壁一面が明るいすりガラスになっている。その向こうに、かすかに人の気配がした。
そっと、そのガラスドアをあけると、そこは広いダイニングキッチンだった。続きになっているリビングには豪華なソファがしつらえてあって、アルとユーキが座っていた。顔を出した私に気づくとアルが立ち上がる。
「どうだ? 具合は」
「ありがと。おかげで、もうすっかり元気よ」
笑顔になった私に、アルがダイニングの大きなテーブルに座るように示した。なんとなく二人の様子に違和感を感じる。
あ。
服装が、いつもと違ってラフなんだ。
アルは生成りのシャツに濃い色のコットンパンツ、ユーキは真っ白なVネックのTシャツにジーパンという格好だった。
そういえば、二人の私服って初めて見るわ。……あの洋館で会った時の黒いのは、私服、に入るのだろうか。




