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言われるままに座った私を見ながら、アルがキッチンに立つ。
「何か胃に入れた方がいい。食べられそうか?」
言われて、空腹なことに気が付いた。
「うん、ありがとう。お手数おかけします。……それと、パジャマ、も、ありがと……」
心なし赤くなっている私を見て察したのか、アルはにやりと笑った。
「着替えさせたのは早紀だから。心配すんなよ、出るところもひっこむところも発展途上のお子様には、手なんて出してないから」
「な……!」
その様子をにやにやしながら見ていたユーキが、ソファから声をかけてくる。
「朝のうちに、早紀ちゃんがきたよ。しばらくここにいたけど、奏子、よく寝ていたからさっき帰ったとこ。目が覚めたら連絡くれって」
アルがキッチンで何かを作ってくれている間に、ダイニングに続きになっているリビングの方で早紀に電話する。ユーキは、入れ違いにダイニングに移ってくれた。
『もう大丈夫なの?』
「うん。ごめんね、心配かけて」
『びっくりしたわよ。いきなり倒れるんだもの。貧血だって? 私のがうつっちゃったかな。奏子んちには、うちで奏子が寝ちゃったから泊めた、って言っておいたわ。倒れたことは言ってないけど、あまり具合が悪いようなら、ちゃんと病院行ってね』
相手が早紀ならおかあさんもいつものことだし、そう心配はしなかっただろう。うちにも一度電話しなきゃな。
「ん。ありがと。早紀こそ、大丈夫なの?」
『悠希さんの顔見たら、具合悪いのなんて吹き飛んじゃったわ』
「はいはい、ごちそうさま。さっきまでいたんだって?」
『そうなの! ジーンズの悠希さんなんて、初めて見たわ。何着てもかっこいいわね、彼』
そう言われてちらりとテーブルの方を見る。
ユーキが何か作っているアルに話しかけると、アルが眉をひそめてむっとした表情になった。くすくすと笑うユーキを見ながら、アルもつられて笑い始める。そうやってくだけた二人を見ていると、確かに、見た目だけなら目の保養と言っていえなくもない。
「ちょっと新鮮よね。早紀、もう少しいればよかったのに」
二人に背を向けて、声をひそめる。
『だって、奏子いつ起きるかわかんないし…………悠希さんは気をつかってくれたけど、やっぱり間がもたなくって』
「めずらしい。早紀がそんなこと気にするなんて思わなかった」
変な意味じゃなくて、早紀は人当たりもいいし、男女問わず仲良くできる方だと思ってたのに。
『あの二人、学校やバイト先で会う男の子とはレベルが違いすぎるのよ』
ため息交じりの声が真剣で、思わず笑ってしまった。
「も少ししたら私も帰る。早紀も今日はゆっくり休んでね。また明日、いつものとこで」
『うん、お互い、早く元気になろうね。また明日』
早紀の電話を切った後、家にも電話して、ちょっとお母さんの小言を聞いた。
テーブルに戻ると、アルがパスタの入ったトマト風味のスープを用意してくれていた。夏野菜のたっぷり入った温かいそれは、ほっこりと空腹に優しかった。
「おいしい…………」
「そりゃ、俺が作ったんだからな」
向かいのテーブルに座ったアルの台詞も、このときばかりは素直に聞いておく。
「一皿千円」
「有料なの?!」
思わず吹き出しそうになる。
「ばあか。冗談に決まっているだろう」
いーや、半分は本気だろう。
疑惑の目を向ける私の視線を涼しい顔で受け流して。とりあえず手もつけちゃったし、冗談と言う言葉を信じてありがたくいただくことにする。
外は今日も暑そうだけど、この部屋はアルの部屋同様、エアコンがきいていて心地よかった。




