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「奏子、体調は大丈夫なんだな」
スープ皿がほぼ空になった頃、コーヒーを飲んでいたアルが聞いた。改めて自分の状態に意識を向けてみる。
「うん。もうどこも痛くないし、スープのおかげで手も足も温まったわ」
きりきりしていた体中のあの痛みは、嘘のように消えていた。
「よし。なら、でかけるぞ」
「でかけるって……どこへ?」
「どこでもいいよ。奏子の好きなとこ」
「な、なんで?」
目を白黒していると、ソファに戻って本を読んでいたユーキが声をかけてきた。
「いいんじゃない? アルが一緒にいれば安全だし。今日は僕も用事があるから、奏子がアルを預かってくれるなら楽でいいや」
「俺は、犬か…………」
とんでもない押し付け方のユーキに、アルがぶすっと呟く。アルって、ユーキ相手だととたんに子供っぽくなるわよね。
「しょうがないわね。じゃあ預かってあげましょう」
「適当に遊ばせてやって。えさは自分で食べられるから」
「噛み付いたりしない?」
「しつけはきちんとできているつもりだけど」
「お前ら…………」
ユーキとのふざけた会話に、アルはさらにふてくされる。それを見てユーキと二人で、声をあげて笑った。
「では、邪魔者は消えるとしよう」
言って、読んでいた本を閉じてユーキが立ち上がる。
「あっちの館?」
「うん。夜には戻る」
「車、使う?」
「迎えに来てもらうからいい。ぶつけんなよ」
「多分ね」
むすっとしたまま返答するアル。
そんなアルの頭をくしゃっと一度つかむと、私に軽く手をあげてユーキはダイニングを出て行った。それを見送って、アルも席をたつ。
「さてと。俺も支度しよう」
「あ、私、片付けておく」
食器をとったアルに、あわてて私も立ち上がる。
「そ? じゃ、頼む」
リビングを出て行く姿を見送って、がっしゃがっしゃと洗い物を始める。
なんだか妙なことになってしまった。
アルと二人で出かけるって……まるで、デートみたい。
自分で思いついたその単語に、ぼわりと頬が熱くなった。
デ……デート?! 何だって急にそんなことになってんだろう。
そういえば……夕べはなんだかいい雰囲気だったような気がしないでもないような……えーっと、でもあれはほら、その場の勢いというか……
でも。
アルを、守りたいと思った、その気持ちは今も変わらずに胸にある。
私に、何ができるだろう。
「奏子?」
ぼーっと考えていたら、いきなりアルの顔が目の前に現れた。反射的に、ぼ、と頬が熱くなる。
「ちょ、ちょっと待ってて! すぐ終わらせるから」
「いや、終わってるけど……」
見れば、洗い物の終わったシンクにただ蛇口から水があふれていた。
「わ!」
あたふたする私を、アルはくすりと笑う。
「行くぞ」
アルが壁にかかった鍵を手に取った。
着替えるといってアルが着てきたのは、今度はジーンズに薄いジャケット。片方のすそにだけ斜めにチェック模様が入っている白地のTシャツが、よく似合っていた。
さっきのパンツも格好良かったのに。むしろその方がアルらし……
そう考えて、ふと気がついた。
もしかして、私の服装がジーンズのミニスカートにカットソーだったから、合わせてくれたのかな。
そんなことを考えながら、バックを持ってついていく。玄関をでると、そこは建物の二階……『リースリーナ』の裏側だった。
へー、ここが家の玄関なんだ。




