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「君に会いたくて、アルに連れてきてもらったんだ」

「私に?」

「うん」

 ユーキは笑いをおさめると、アルに向き直って真剣な顔で言った。

「アル、今のリシィと契約する気はないんだね」

「ない」

 こちらも真面目な顔で、アルが即答する。私は、は、とアルを見上げた。

 アル……?

 様々な思いが胸をよぎる。

 ユーキが『今の』私、と限定したこと。アルが、契約する気がないと言ったこと。アルが、吸血鬼であること。

 

「そう、か」

 それで会話は終わりだった。しばらく二人は、表情をかえないまま見つめあっていた。と。

 ユーキが、やわらかく微笑んだ。

「じゃあ、僕の用事は終わり」

 ひょいと飛び上がる。

「先に帰ってる。遅くなるなよ」

「子供扱いするな」

 すねた様な口調で、アルが言った。それを無視して、私に片手をひらひらと振って見せて。

「リシィ、またね。アルは口下手だし、自分のこと出すの、本当に苦手だから……」

 そう言ってアルを見下ろしたユーキの目は、慈しむように穏やかだった。その様子でわかってしまう。この人が、どれだけアルのことを大切に思っているのか。

 私に視線を戻すと、ユーキはにこっと笑った。

「今度来るときには、たくさんこいつのおもしろい話聞かせてあげるよ」

「ユーキ!」

 はっはっはと笑いながら飛んでいってしまった。

 なんなのよ。

 最初は怖いと思ったけど、実は陽気な人なのかなあ。つかみどころはないけれど、悪い人ではなさそう。


「ったく、あいつは」

 アルは苦笑しながら、その場に腰を下ろした。つられて私もそこに腰をおろす。

 少しだけ鼓動が早くなっているのを悟られないように、何気ない態度で。

「どういう人なの?」

「ユーキ?」

 投げかけられた問いに、アルは笑みを浮かべた。

「僕の兄代わり、かな」

「年上なんだ」

「うん。子供の頃から、一番近くで育ってきた。多分、最初はお目付け役だったんだろうけどね」

 同じ様な年齢に見えても、吸血鬼の寿命は長い。アルの方が下だったのね。どうりで、アルが子ども扱いされているわけだ。

「ユーキはいつも僕の味方だ。つかみどころはないけれど、悪いやつじゃないよ」

 それを聞いて、つい、微笑む。

 私と同じこと、言ってる。

 そういえば、こんな風にアルの家の話を聞くのは、初めてだった。一人っ子だということは聞いていたけど。

「お目付け役……。大事なお坊ちゃんが悪い精霊にたぶらかされてないか、心配になったのね」

 それで、最初はあんなに警戒されていたのかもしれない。おどけて言うと、そうかもな、とアルも笑った。

 本当は、もっと聞きたいことがある。

 アルは、『私』のことを知っているの……?


 わずかな沈黙のあと、ふいに話題を変えてアルが言った。

「自己紹介が、まだだったね」

「自己紹介?」

 アルと出会ったのは冬の終わり。それから度々ここへと顔を出すようになったけれど、最初に、アル、と名乗った以外は、アルは自分のことは何も話したことがなかった。


 私の歌を聞きたがった。最近絵を習い始めたとかで、私の姿を描きたがった。いつでも偉そうだけれど、時々、やけに淋しそうな顔になることがある。

 アルについて私の知っていることと言えば、それくらい。でも、他には必要ないと、思っていた。


 アルが、いくぶん緊張した顔になる。

「アルトレード・ロールテリング・ド・グリフォルド。これが、僕の名前」

 その名前を聞いて、ざ、と血の気が引くのがわかった。鳥肌がたつ。

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