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日差しはもう、夏を思わせる強さだった。ついこの間までは雪があったと思ったのに、今年は夏が早い。
「リシィ、リーシィ。いるんだろ。出てこいよ!」
なまぬるい水底でまどろんでいた私の耳に、いきなり澄んだ声が飛び込んでくる。おかげで一気に目が覚めた。
あの声は、アル。私の肖像画、描きかけのまま二週間も顔出さないで、今まで何をしていたのかしら。
岩にもたれた体を持ち上げて、勢いをつけて浮上する。
「そんなにどならなくても聞こえるわよ!」
こちらも負けずにどなり返しながら、水面に顔を出す。
「あいかわらずなご挨拶だな」
「そっちこそ、乱暴に呼びつけるくせ、いい加減に直しなさいよ」
「だったら呼ばれる前に出て来い」
「なっ!? 一体何様のつもりっ……あら」
アルの隣に、もう一人、吸血鬼がいた。アルと同じ年くらいかな。
変なとこ、見られちゃった。
「初めまして、レイディ。ユーキと申します」
「僕のいとこだ」
彼の方を振り向きながら、アルが紹介する。
この人も、吸血鬼……アルの目の前で、どうこうはないと思うけれど、少しだけ、私の体に緊張が走った。
ユーキと名乗ったその吸血鬼は、唇にだけ微かに笑みを浮かべてじっと私を見ている。意味ありげな視線を感じながら水面に立ち上がると、アルが優雅に手をのばして岸に上がるのを助けてくれた。
「リースリーナです」
「ふうん、君が。お噂はかねがね」
含むような言い方が、少しだけ気に障った。その目を睨み返して。
「リシィで、いいわ」
「リースリーナ……永遠の銀色、という意味だね。その髪の色と、同じ」
なんだろう。笑みを浮かべているのに、この人……ちょっと怖い。
「私たちの古い言葉をご存知とは光栄ですわ。一体どんな噂をお聞き及びなのかしら。お互いに楽しい噂ならいいのですけれど」
きつい言葉を返す私の手が、そっと握られた。つないだままだったアルの手。
ちらりと仰ぎ見ると、大丈夫、とその瞳が言っていた。
わかってるわよ。けんかするつもりなんかないから。
目だけで答えると、アルは満足そうに微笑んだ。
すると、それまでと雰囲気のがらりと変わったユーキの声がした。
「今まで見た精霊の中では一番にきれいだとか、繊細な声で歌うのを聴いていると時間を忘れるとか」
ユーキが告げた予想外の言葉に、一瞬、目が点になる。ついで、その意味を理解すると頬が熱くなった。
「な……」
「初めて会った時は月光に溶けそうなほど儚げに見えたのに、実際は結構気が強くてそこがまた……」
「そんなこと、言ってない!」
赤くなったのはアルも同じだった。うろたえて大声をあげるその顔を、つい見返してしまった。
こんな動揺するアルは初めて見る。
「えー? だいたい意味は合っているだろう?」
「ば、おまっ……それっ……」
アルが動揺するのを見て、逆に私は落ち着いてしまった。
「アルが、そんなこと……?」
「そりゃあもう、い」
「言ってない!」
強引にアルがユーキの言葉を奪った。ユーキは、くすくす笑っている。
「そうか、この子が、ね」
ひっかかる言い方をするけど、さっきより視線が柔らかい。
「ごめんね、からかって。でも、今言ったことは嘘じゃないよ」
言いながら、きれいにウィンクを決めてみせた。
怖いと思った最初の雰囲気は、今の彼にはもうなかった。それを見て、気付く。
もしかして私、警戒、されていた?




