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ロールテリング。それは、グリフォルドの本家……ということは。
直系だ。
「黙っていて、ごめん」
苦笑するアルに、体が、震えた。
命令することに慣れている口調を聞いて、吸血鬼の中でも身分の高い位置にいるんだろうな、くらいは想像がついていた。けれどまさか、アルがそんな中枢の人物だったなんて。
世界中に版図を広げる吸血鬼の一族の中でも、直系にあたる吸血鬼はほんの一握りしかいない。最も濃い血を保ち続けている直系の、その……たった一人の、後継者。
私の意志なんて関係ない。アルがその気になったら、私なんてあっさりとその使役にくだるしかない。それだけの力を、アルは持っている。
たとえ、今の私がそれを許されない立場にあるとしても。
そんな私の様子に気づいて、アルがめずらしく穏やかに微笑んだ。はからずもおびえてしまった私を、なだめるように。
「今のリシィがどういう存在なのかは知っている。けれど、さっきも言った通りお前と契約する気はないよ」
「え……?」
「お前の中には、消えてしまった姉妹たちの力と記憶が眠っているんだろ。だから役目を背負ったお前を、誰も使役してはいけないという暗黙の了解のことも、知っていたよ」
「知って……?」
けれど、その強い力を狙ってくる不埒な輩がいることも事実だ。特に、支配階級にある直系なら、私の中にある力を禁忌と知りつつ手に入れたいと思っても不思議はない。
「なら、何のために、ここに……?」
「理由がないとだめなのか?」
「あるなら知りたいわ」
てっきり、契約が目的だと思っていた。姉妹がいないことを知られてしまったのは、私の失敗だ。何も言いださないから、気付いてないのかとも思っていた。
そう考えたら、あとには疑問が残る。
アルは一体どういうつもりでここへ?
「それは……」
言いかけたアルは、言葉を切って私をみつめた。
……え?
青い瞳に、きょとんとした顔の私がうつりこむ。
そのままアルを見返していると、アルは、つん、と横を向いた。
「教えない」
「何よ、それ」
「どうだっていいだろ。そんなことより」
言いながら立ち上がると、木の影においてあった荷物を取り出す。
「そこ座れよ。続き描くから」
「下手の横好き」
「何か言ったか?」
「何も」
私は、水面の上に歩を進めると、すとんと座り込んだ。同じように草の上に座り込んで荷物をほどき始めたアルを、視線の片隅にとらえて。
さっきとは違う理由で、私の鼓動は早くなっていた。
契約が目的でないのなら……まさか。まさかとは思うけれど。アルは。
ただ、私を……
「ねえ」
「ん?」
思わず口をついて出そうになった言葉を、あやうく飲み込んだ。
そんなこと、あるわけ、ない。許されない。
「……いい加減、一枚くらい見せてくれたっていいんじゃない?」
結局私の口から出たのはそんな言葉だ。
見ている限り、アルが手にしていたスケッチブックはもう何冊にもなっているはず。けれど、描きあげたものを見せてくれたことは一度だってない。
「だから言ってるだろ? 納得のいくものができたら見せてやるって」
「いつになったら納得いくのよ」
「さあな。こういうのはそんなに急いで描くものじゃ……」
「早く描かないと、夕方から雨よ」
口を閉じたアルは、少しだけ空を仰いだ。
「動くなよ」
手元に視線を戻すと、アルが短く言った。
「リシィ」
「ん?」
「歌って」
筆を走らせる姿を数拍眺めてから、私は唇を開いた。




