表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/96

- 7 -

 と、野宮君はまだそこで私を見ていた。


 昨日のことがあったから、今日は一日、野宮君とは話をしていない。避けているのは、向こうも気づいてるんだろうなあ。

 緊張しながら見ていると、野宮君は、ふ、と微笑んでそのまま教室をでていく。

 いやーな汗が全身に吹き出していた。

 なんなのよ、一体。言いたいことがあるならはっきりと……

 いや、言わなくてもいいかな。うん、いいよ。なんか、こわいし。


「奏子」

 電話の終わったらしい早紀が、顔をあげた。

「お母さん、学校まで迎えにくるって。だから、ここで待ってるわ。バイト、お願いね」

「おばさんくるまで、一緒にいようか?」

「ううん。図書館に行って暇つぶす」

「わかった。バイト、今日明日と休みって言っておくから、明日は家にいなよ」

「ありがと。一晩眠って元気になれれば行くけど……」

「無理しないで。顔色、めっちゃ悪いよ」

「そう? ……そうね。じゃあ、休もうかな」

 『リースリーナ』は、基本的に日曜を休みにしてもらってる。だから、明日の土曜はバイトあるけれど、明後日は休みだ。二日も休めば、具合もよくなるだろう。

 青い顔の早紀を図書館まで送って、私は急いで学校をでた。


  ☆


「やあ」

 店に入ると、悠希さんがちょうどテーブルを拭いていた。

「こんにちは。マスターは?」

「裏にいるよ。あれ? 一人?」

「はい。急で申し訳ないんですけど、早紀、今日と明日、休ませてください。ちょっと具合悪くて」

「あー……」

 ん? 

 いきなり納得したような声を出した悠希さんは、急に私に背を向けてまたテーブルを拭き始めた。

 まるで、しまった、と言わんばかりに。

 その姿に、ざわり、と胸が騒ぐ。

 早紀が具合悪いことなんて、悠希さんには何の関係もない。はず。

 なのに、めずらしくあせったようなその姿が気になる。

 悠希さんは、何かを知っている。

 根拠なんてない。ただの私のカン。

「悠希さん」

「ん?」

 悠希さんは、振り向かない。

「何か、隠してます?」

「何か、って?」

「早紀、すごい具合悪そうだったんです。まるでひどい貧血の」

「奏子さあ」

 私の言葉を遮って、砕けた調子で悠希さんが振り向いた。

「あいつのこと、どう思ってる?」

 営業用の笑顔じゃない。これは、意地悪な時の笑顔だ。

「あいつって……」

「あいつ」

 悠希さんは、人差し指だけ立てて、上の方を示してみせた。店の二階。おそらく、マスターがいるはずの。

「たとえばさ、あいつが、早紀ちゃんが好きでついキスしちゃった、って言ったら……」

「悠希さん!」

 思わずあげてしまった大声は、わずかに裏返ってしまった。

「早紀は、そんなこと……」

「でもほら、あいつ顔だけはいいから、無理やり迫られたら早紀ちゃんだってふらふらと」

「ありません! そんなこと!」

 だって、早紀が好きなのは悠希さんだし……でも。

 夕べの二人。あれは、どうして。

 に、と悠希さんが笑った。

「大丈夫そうだね」

 悠希さんは、持っていたダスターをぽい、とテーブルの上にほおり出す。

「おいで」

 そうして、私を誘って休憩室の扉をあけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ