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「奏子、おまたせ」
次の日。待ち合わせの場所に少し遅れて、お気に入りの傘を揺らしながら早紀がやってきた。
夕べからの雨は本格的になっていて、今もかなりの土砂降りだ。お昼ごろにはあがるだろうけど、できれば朝までにやんでほしかった。
「遅いぞ」
こっちも平静を心がけるけど、つい顔がひきつってしまう。二人で歩き始めながら、私は何気ない調子で聞いた。
「夕べ、何かあれから話は聞けた?」
「あまりめぼしいことは教えてもらえなかったわ。のらりくらりと、うまくかわされちゃって。でも」
話している途中で、早紀が一呼吸ついた。だるそうなその姿に、首をかしげる。
「早紀?」
「ううん、なんでもない。とりあえず、悠希さんが私より年上だってのがわかったし、特定の女性はいないって」
「そこまで聞いたんだ」
「はっきりと聞いたわけじゃないけど、そんな感じのこと言ってたわ。逆に、私達には彼氏がいるのとか好きな人がいるのとか、そんなことも聞かれちゃった」
「え? それで、悠希さんのこと言ったの?」
「まさか。言えるわけないじゃない。適当にごまかしたわよ。ああ、野宮君のことも気にしてたかな。どういう人か、って聞かれたし。それよりも、マスターの方こそ、あれは誰か思う人がいるんじゃないかしら」
どきん。
「……それって、早紀のことだったり?」
「は? そんなわけないじゃない。なんで?」
「夕べ……」
「きゃ!」
その時、車道を勢いよく車が走り抜けた。水たまりから勢いよく泥水がはねて、あわてて私たちは飛び退る。
「早紀!」
「あー、もうびしょびしょ……え?」
スカートをはらおうとして、気付いた。早紀も不審な声をあげる。
「あれ? 今の、結構、かかったと思ったけど……」
「うん……」
絶対、ひどいことになってると思ったのに。
私たちの制服には、一筋の泥水もかかっていなかった。
☆
「早紀?」
授業が終わってこれからバイトに行こうと早紀の席へと向かった私は、座ってうつむいたままの早紀に声をかけた。
「奏子……」
顔をあげた早紀の顔色は、真っ青だった。
「うわ、どうしたの。顔、真っ青だよ」
「うん……なんか、貧血っぽい……」
「生理? 朝からだるそうだったよね」
「まだそんな時期じゃないんだけど……くるったかな」
「今日は、バイト休んでまっすぐ家に帰りなよ」
座ってるのも辛そうなのに、こんな状態じゃバイトなんて無理だ。
「そうする。悪いけど、マスターに言っておいて」
「一人で大丈夫?」
「今日、お母さん仕事休みだから、駅まで迎えに来てもらえるかも」
そう言って、早紀は家に電話を始めた。
するともなしに教室を見ていると、後ろの扉から出ていこうとする野宮君と目が合ってしまった。とっさに視線をそらしてしまったけど、あまりにそれがあからさまだったので、さすがにまずいと思っておそるおそる視線を戻す。




