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「早紀たちと同じくらいだよ。こないだまで高校生やってたから」
「年上なんだ! 高校生にしては、毎日お店にいるのが妙だと思ってたんです」
「やっぱり、ほら、遊び人だから」
きゃっきゃと笑う私たちを、マスターは静かに笑いながら聞いていた。その横顔に、少しだけ見とれてしまう。
意地悪っぽい笑顔も嫌いじゃないけれど、そんな風に大人びた笑顔もこの人はとてもきれいだ。
もっと、知りたい、と思う。
マスターは、どんなものが好きなんだろう。いつの間にか、マスターのその視線の先にあるものを、私も見たいと思うようになっていた。
私の名前を呼ぶ低い声とか見かけより力強い腕とかが、最近、やけに気になり始めてる。
これって、多分……
けれど、結局何も聞けないまま、あっという間に私の家までついてしまった。私の家の方が少しだけ近いから、そのあと、早紀の家をまわることになる。
後ろ髪を引かれながら、私は手を振った。
「今日もありがとうございました、マスター。じゃ、早紀、また明日ね」
「ん、おやすみ」
二人を見送ってから、私は門扉を開ける。ドアに手をかけようとかばんを持ち直したところで気づいた。
あ。いけない。早紀にリーダーのノート、貸したまんまだ。明日宿題あるし、ないと困る。
私はあわててきびすを返した。
二人を追いかけて角を曲がると、遠くを並んで歩いてく二人の後姿が見えた。
「早……」
声をかけようとして、足が止まった。
二つの影は、少し暗がりになったところで急に異常に接近して、というか、つまり、見ている間にその影は一つになってしまって……その角度が、もしかして、あれって、キ、キスしてるの?
あわてて、塀のかげに隠れる。
頭の中が真っ白だった。
何……今の。
早紀、と、マスターが? でも、早紀、悠希さんのことが好きだって言ってたのに……
ぎこちない動きで、もう一度顔だけ出してのぞいてみる。
二人はもう歩き始めていて、そのまま向こうの通りにでていく。
と、一瞬マスターが振り返った。
急いで体を引く。こっちのほうが暗がりだし、かなり距離もあるから見えはしないんだろうけど。
どうして。
その言葉だけが、頭の中に乱舞する。
わかんない。わかんないよ、早紀。どうして、マスターにそんなこと、許すの?
それとも、私が抱きしめられたあの時みたいに、何か早紀も動揺するようなことがあったの? そうしたら、マスターは誰でも抱きしめてしまうの?
胸が、きゅうっとしまるように痛い。
私は……
立ち尽くす私の上に、細かい雨が降り始めていた。




