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  ☆


 その夜。

「お疲れ様でした」

「じゃ、行くか」

 若いお客さんにからまれたあの日から、実は毎日マスターが私たちを送ってくれていた。

「もうあれからだいぶたつし、二人でも大丈夫ですよ?」

「いいんだよ。悠希、行ってくる」

 店の扉を閉める前に、マスターが奥に声をかけた。

「んー」

 なんとも気のない返事が返ってくる。ああ、ちょうどレジの閉めをやってるんだ。ついで搾り出すようなうなり声が聞こえたところをみると、また一から数えなおしなんだろうな、今日の売り上げ。

 意外に、あの人数字に弱いわよね。


「あ、マスター、傘持って出たほうがいいですよ」

「降りそう?」

 私が言うと、早紀がそっと、意味ありげな視線を私に向けた。それにいたずらっぽく微笑みを返して。

「今夜は降るって、天気予報で言ってましたから」

 多分ね。でも、もうすぐ降り出すのは本当だから。最初はしとしとだけれど、そのまま強くなって明日の朝までずっと降り続ける。


 なぜだか、最近の私にはそこまでわかるようになっていた。以前は、今日は雨降るな、くらいしかわからなかったけれど、今ではいつごろからどのくらい降る、まで、かなり細かくわかってしまう。

 そう。ちょうどバイトを始めた頃から、やけに勘が鋭くなっている。姿勢がよくなったからかな、とか適当に理由をつけているけれど、本当のところはよくわからない。 


 私の言葉を特に疑うこともなく、マスターは裏から傘を持ってきた。

「結構、悠希さんて、マスターに使われてますよね。あの人、本業は一体何なんですか?」

 店から離れると、早紀がマスターに聞いた。興味津々で、私もマスターを見る。

 一瞬目を見開いてから、マスターはにやりと笑った。

「本業……遊び人、かな?」

 遊び人……似合ってる!

「オーナーって言ってたけど、オーナーってマスターと違うものなんですか?」

 私が笑いながら聞くと、マスターが目を細めた。


「悠希のこと、気になる?」

「そりゃあ、ねえ」

 私は早紀と顔を見合わせて、くすくすと笑った。

「こんなイケメンすっとばして、他の男のことを聞くとはいい度胸だ」

 つん、とすました顔でマスターが言うのが、また私たちの笑いを誘った。

「じゃあ、マスターのことお聞きしますけど、お歳はいくつですか?」

 早紀の質問のついで、って口ぶりで聞いたけど、実はかなり緊張している。

 私が本当に知りたいのは、マスターのこと。この人のことだって、悠希さん同様、私たちは何も知らないもの。


「いくつに見える?」

「25、6くらい……ですか?」

「ま、そんなとこ」

「ずるい。はっきりと教えてくださいよ」

 あと、誕生日とか血液型とか。聞いていいなら、聞きたいことは山ほどある。だいたい、マスターの名前すら、私は知らない。

 とはいえ、あまりしつこく聞くのも……

「悠希さんはいくつなんですか?」

 私が躊躇している間に、早紀が本命の質問を始めた。

「どうしても悠希が気になる?」

「そういうわけでもないですけど……」

 言葉を濁した早紀と、含み笑いをしながら顔を見合わせる。

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