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「早紀、今日、先に行っててくれる?」
私は、ばたばたと日直日誌を抱えて教室に飛び込んだ。
「いいよ。終わるの、待ってる」
早紀は、机の上に腰かけてポッキーを食べていた。袋の中の残量から察するに、ずいぶん待たせちゃったな。
私はうんざりした顔で、教卓の上に積まれたプリントを指す。
「これ……全部、閉じるんだって……。さっき、掃除の最中に曽根原先生が持ってきた……」
先生も、持ってくるならもっと早く持ってきてくれればいいのに。バイト遅れちゃうじゃない。
そう考えるのと同時に、頭の中にふわりと浮かぶ影。鼓動が早くなるのは、もう条件反射よね。
「これ全部? 手伝おうか?」
早紀が、私の口にもポッキーを突っ込みながら聞いた。むぐむぐとそれを食べながら答える。
「ううん、バイト二人行かないのはまずいでしょ。すぐ終わらせていくから、遅れるって伝えて」
「ホッチキス、借りてきたぞー」
入り口から声をかけたのは、野宮君だ。今日の日直は、私と野宮君の二人。
「わかった、マスターには言っとく。じゃ、がんばってね、奏子、野宮君」
「おー、また明日な、林」
空になったポッキーの箱をゴミ箱に捨てると、ひらひらと手を振って早紀は急いで出て行った。先生と話している間も早紀を待たせちゃったから、かなりぎりぎりの時間だ。
「野宮君、クラブは?」
「しょうがねえだろ、これじゃ」
ばん、と野宮君がプリントの山を叩いた。
「私一人でもいいよ?」
「坂本に伝言頼んどいたから大丈夫。ちくしょー、曽根原のやつ、あとでなんかおごらせちゃる」
「賛成。とりあえず、始めようか」
私たちは、全部で五種類あったプリントを並べて、順にとってはホッチキスでとめていくという地道な作業を繰り返した。難しい作業ではないけど、時間はかかる。結局、全部終えるのに、一時間近くかかってしまった。
「……と、これで終わり」
最後の一部をホッチキスで閉じて、私はプリントの山をとんとんとそろえた。
「思ったよりかかっちゃったね。あと、日誌だけで終わりだから、これ届けて来たら、私書いておくよ」
「なら、俺、行ってくる。お前はそれ書いてろ」
「え、一緒に持ってくよ。こんなに、一人じゃ無理よ」
「これくらいどってことないって」
そういうと野宮君は軽々と、そのプリントの束を持ち上げてしまった。私は目を丸くする。
「すごい。さすが男子だね」
「見直したか」
「見直した見直した。じゃ、私日誌書いとく。お願いね」
「おう」
ぱちぱちぱちと拍手して、教室から出ていく野宮君を見送る。
さて、野宮君が帰ってくる前に、これ、書いちゃおう。
せっせと日誌をつけていると、早々に野宮君が戻ってきた。
「ほら」
私の机に、ことりと缶コーヒーを置く。
「どしたの? これ」
「曽根原におごらせた。お前んとこのコーヒーにはかなわないかもしれないけど」
言いながら、自分も持っていた缶を開ける。
「ありがと。そうなの、うちの喫茶店、コーヒーおいしかったでしょ?」
「雰囲気にのまれて、味なんてわかんなかったよ」
「それは、もったいないなあ」
私も、目の前に置かれたコーヒーをあける。開いている窓から入った風でコーヒーの香りがひろがるけれど、やっぱりマスターのいれたコーヒーの方がいい香りのような気がする。
やばい。私、味覚とか嗅覚とか、肥えてしまっているわ。




