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「またおいでよ。当分、早紀が休む予定もないし」

「あー……そうだな」

「よし、できた」

 日誌を書き終わると、コーヒーを空にして私は立ち上がる。掃除の時にあけた窓を閉めにかかると、野宮君も反対側から閉め始めた。

 風の中に含まれる水分に、少しだけ目を細める。

 やっぱり、今夜から雨ね。


「これからまたバイト?」

「うん」

「あんな美形と一緒に仕事してて、気になんねえ?」

 まだそれを気にしているらしい野宮君の問いに、鍵をかけてる私の顔がひきつる。

 早紀からあんなこと聞いちゃったからなー。早紀にふられた時の野宮君の落ち込みようを思い出すと、安易に大丈夫とは言えない。けど、早紀の気持ちを私の口から言うわけにもいかないし。

 私は、すぐ隣に立つ野宮君から視線を外したまま、言った。

「そういう野宮君の一途なところ、すごくいいと思うよ。女として言わせてもらえばさ、そんな風に思われたら悪い気はしないと思うの」

 苦し紛れの私の言葉は、全然答えにはなっていない。

 でも、嘘は言ってないわよね、うん。


 おや?

 妙な間ができた。

 何も言わない野宮君を見上げようとした時。

 急に、視界が暗くなった。

 ………………え?


 野宮君に抱きしめられている、と気づくまで数拍。


「なっ……!?」

 とっさに声をあげてしまった私からおもむろに離れると、野宮君はにっこりと笑った。

「わかった?」

「なっ、なにが?」

 動揺して言葉がひっくりかえる。

「じゃ、日誌出しといてな。はよ行かんと、先輩にどやされる」

 野宮君は何事もなかったように言うと、空になったコーヒーの缶を二つとかばんを持って歩き出した。

 残された私は、まだ固まったまま。

 わかった……って、何が? 何が?! って、今の、何ー?!


「の、野宮君……」

「んー?」

「野宮君は、早紀のことが、好きなんだよね……?」

「……ああ」

 ドアに手をかけて答えた野宮君は、振り向かないまま答えた。それを聞いて、ほ、とする。

 やっぱり、そうだよね。だから、ずっと私たちのこと気にして……

「好き、だったよ。去年は」

「……え? 去年…………て、じゃ、今、は……?」

 野宮君はちらりと振り返ると、に、と笑ってそのまま教室から出て行った。

 残された私は、まだ動けないでいた。

 好き、だった。って言った。過去形で。なら……今は? なんで、私、抱きしめられたの?!


  ☆


「奏子、どうしたの?」

 ようやっとバイトに来たけれど、さっきからオーダーミスやらつまづくやらで、私は失敗ばかりだった。

 ああ、せっかく最近マスターに認められたばかりなのに。こんなんじゃマスターに失望されちゃう。


「野宮君と、何かあった?」

 からんからんから……

 私は思わず、持っていたトレーを落としてしまった。

「野宮って、こないだ来てた彼?」

 カウンターの悠希さんが、のんきに口をはさむ。

「さっき、野宮君と二人だったんでしょ? 何かあったの?」

「う、ううん、別に、何も……?」

「そお?」

 まだ何か言いたそうな顔をしながらも早紀は、マスターが出した紅茶をトレーに乗せてフロアに出てった。



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