- 2 -
「またおいでよ。当分、早紀が休む予定もないし」
「あー……そうだな」
「よし、できた」
日誌を書き終わると、コーヒーを空にして私は立ち上がる。掃除の時にあけた窓を閉めにかかると、野宮君も反対側から閉め始めた。
風の中に含まれる水分に、少しだけ目を細める。
やっぱり、今夜から雨ね。
「これからまたバイト?」
「うん」
「あんな美形と一緒に仕事してて、気になんねえ?」
まだそれを気にしているらしい野宮君の問いに、鍵をかけてる私の顔がひきつる。
早紀からあんなこと聞いちゃったからなー。早紀にふられた時の野宮君の落ち込みようを思い出すと、安易に大丈夫とは言えない。けど、早紀の気持ちを私の口から言うわけにもいかないし。
私は、すぐ隣に立つ野宮君から視線を外したまま、言った。
「そういう野宮君の一途なところ、すごくいいと思うよ。女として言わせてもらえばさ、そんな風に思われたら悪い気はしないと思うの」
苦し紛れの私の言葉は、全然答えにはなっていない。
でも、嘘は言ってないわよね、うん。
おや?
妙な間ができた。
何も言わない野宮君を見上げようとした時。
急に、視界が暗くなった。
………………え?
野宮君に抱きしめられている、と気づくまで数拍。
「なっ……!?」
とっさに声をあげてしまった私からおもむろに離れると、野宮君はにっこりと笑った。
「わかった?」
「なっ、なにが?」
動揺して言葉がひっくりかえる。
「じゃ、日誌出しといてな。はよ行かんと、先輩にどやされる」
野宮君は何事もなかったように言うと、空になったコーヒーの缶を二つとかばんを持って歩き出した。
残された私は、まだ固まったまま。
わかった……って、何が? 何が?! って、今の、何ー?!
「の、野宮君……」
「んー?」
「野宮君は、早紀のことが、好きなんだよね……?」
「……ああ」
ドアに手をかけて答えた野宮君は、振り向かないまま答えた。それを聞いて、ほ、とする。
やっぱり、そうだよね。だから、ずっと私たちのこと気にして……
「好き、だったよ。去年は」
「……え? 去年…………て、じゃ、今、は……?」
野宮君はちらりと振り返ると、に、と笑ってそのまま教室から出て行った。
残された私は、まだ動けないでいた。
好き、だった。って言った。過去形で。なら……今は? なんで、私、抱きしめられたの?!
☆
「奏子、どうしたの?」
ようやっとバイトに来たけれど、さっきからオーダーミスやらつまづくやらで、私は失敗ばかりだった。
ああ、せっかく最近マスターに認められたばかりなのに。こんなんじゃマスターに失望されちゃう。
「野宮君と、何かあった?」
からんからんから……
私は思わず、持っていたトレーを落としてしまった。
「野宮って、こないだ来てた彼?」
カウンターの悠希さんが、のんきに口をはさむ。
「さっき、野宮君と二人だったんでしょ? 何かあったの?」
「う、ううん、別に、何も……?」
「そお?」
まだ何か言いたそうな顔をしながらも早紀は、マスターが出した紅茶をトレーに乗せてフロアに出てった。




