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「夢?」
じー、っと見つめてくるマスターにしばらくは視線をさまよわせていたけれど、無言の圧力に耐え切れずしぶしぶ私は話し出した。
「はい……このバイトに来る日の前の夜に、マスターと悠希さんが夢に出てきたんです。それが、あんまりいいイメージじゃなかったもので……」
とんでもない内容だよね。空飛ぶ吸血鬼とか。笑っちゃうわよ。
けれど。
あの夢の中、暗闇で私を見上げるアルの顔だけは、いつまでたっても色あせない。
私の目をくぎ付けにした、意志の強い強烈な瞳。絶対的な自信を持った笑顔に、心の底から惹きつけられた。
またこれが、マスターによく似てるんだ。アルは、もっと軽そうな性格してたけど。
「まるで予知夢だね。イメージよくないって、俺、そんなに嫌な奴だったの?」
バイトを始めて二週間だけど、マスターとこんな風に話すのは初めてだ、と、ふと気づいて、今更ながらに緊張してきた。
「嫌っていうか、変な夢だったんですよ」
「どんな?」
「夢の中で、私、マスターに抱かれて空飛んでました」
「そりゃ、俺かっこいいな」
案の定、マスターが笑い出した。それを見て私は、ちょっと目をみはる。こんな風に楽しそうに笑うマスターは、初めて見る。
笑うと、結構かわいいんだ。意外。
「あの、だから別にマスターのことを嫌いでこーんな顔してたわけじゃないんですよ。そりゃもうちょっと優しくしてくれればいいなって思うし口も悪いと思いますけど、それほど悪い人じゃないと思ってます」
「……それ、褒め言葉と受け取っていいの?」
「まあ、一応」
くすくすと笑いながら、マスターは立ち上がった。そうして、ぽん、と私の頭に手を置く。
突然のマスターのしぐさに、どう反応していいのかわからずに私は動けなくなる。そんな私の様子に構わずマスターは手を離すと、フロアへの扉をあける。
「一休みしたら、またしごくぞ。ゆっくり休んでおけよ」
「やっぱりさっきの評価、もうちょっと下げてもいいですか」
「まったくお前は、しごきがいがあるよ」
笑い続けたまま店に出るマスターの背中を見送って、私は残りのカフェラテを一気に飲み干した。
☆
連日特訓されていると、それでも言われる小言は少なくなっているわけで。綺麗に動けるようになるのは、働いていてもやっぱり気分がいい。
「ブレンド二つ、お持ちいたしました」
トレーの上でカップを整えて、お客様の前に静かに出す。うん、スプーンの向きもよし。無駄な音も立ててない。
「ごゆっくりお過ごしくださいませ」
コーヒーを二つ置いた後、わずかにお辞儀をする。心の中でガッツポーズをしながら。
これはきっと、いい点行くぞ。
満面の笑みで顔をあげた時だった。
「ねえ、君、名前なんて言うの?」
「私……ですか?」
今コーヒーを置いたばかりのお客さんが、にやにやと聞いた。
この喫茶店では珍しい、若い男の二人連れだった。




