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 『リースリーナ』は、その雰囲気とメニューの値段設定が高めのことから、若い人が訪れることは少ない。その二人は、大学生くらいかな。あまり見ないタイプの客だった。

「乃木、と申します」

「乃木、何ちゃん?」

「奏子です」

「かわいい名前だね。このバイト長いの?」

「いえ、そうでもないです」

 答えながら、私は困惑していた。


 ええと、こういう時ってどうすればいいんだろう。よく早紀なんかは声かけられて適当にあしらっているけど、私が話しかけられたのは初めてだ。

「その制服かわいいね。メイドさんだ」

「おそれいります」

「ご主人様、とか言ってくれないの?」

「そうそう、いってらっしゃいませ、とか」

「あいにくと、そういう対応はしておりません」

「ねえ、言ってみてよ、俺に。かわいくこうやって、ご主人様ーとか」

 二人はそう言って大声で笑った。


 これは……からかわれているのかな。

「失礼いたします」

 とりあえず会釈して下がろうとすると。

 くん、と何かがひっかかった。みれば、男の一人が私のスカートをつかんでいる。


「もうちょっと話そうよ」

「せっかく高い金払ってんだからさ。つきあってくれてもいいじゃん」

「あの、困ります」

 慌ててスカートを押える。ロングだからパンツ見えるとこまではいかないけど、それでも隠れていた足が露わになるのはやっぱり恥ずかしい。

 そんな様子を、男二人はくすくすと笑って見ている。

「かーわいーい」

「困りますう、だって。もっと困らせちゃおうかなー」

 こいつら……


「お客様」

 その時、おだやかな低い声が割り込んだ。

 振り返ると、静かに営業用スマイルを浮かべたマスターがいた。

「こちらの店員がなにか失礼でも?」

 男たちも、不意に現れた超絶美形に呆気にとられた顔だ。この席からじゃ、カウンターの奥までは見えないからなあ。

「い、いや、ちょっと話していただけで……」

「奏子ちゃんと仲良くしてただけだよ」

 気軽に奏子ちゃん、なんてよばれて、む、とする。マスターの態度が下手だったせいか、男たちは威張った態度を崩さなかった。


「あんたはあっちいってなよ」

「そうだよ。どうせ暇そうなんだから、少しくらい話してたっていいだろ? たいしてうまくもない馬鹿高いコーヒー頼んでやったんだから、これくらいもサービスのうちだよ」

 それを聞いて。マスターが何か言うより先に、私の手が動いた。


 ぱしゃん!


 驚いたような顔は、男二人だけでなくマスターも一緒だ。

 私は、男に水をかけたコップを静かにテーブルに置くと、にっこりと笑った。

「あら、お召し物が湿っておられますわ。早くお着替えになられた方がよろしいかと」

 そう言って、手で出口を示す。


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