宮廷魔導師の愛
我が姉、クローディアがルミネ子爵家に輿入れしたのは雪解けの時節、春の報せが間近に迫った頃だった。
不運にも風邪を拗らせ、床に伏せっていた為に花嫁姿を目に焼き付ける事は叶わなかったが、姉と同じ名を冠する白百合と共に贈られた姿絵に映る姉は常日頃、泥に塗れて魔鉱石を掘り出して笑う姿とはまた異なる美しさを誇っていた、と感じた。
「部屋に籠ってばかりいては病気になる」
と、姉に着いて歩いた結果傷めている足の様子を気に止めるでもなく私を外に連れ出しては、突拍子もない、貴族令嬢らしからぬ振る舞いをして大変な目に遭い、ふたり揃って母上にお叱りを受ける…
その様な日常がいつまでも続くものだと信じていた幼い日の私を裏切る様に、姉は輿入れから間もなく、不慮の事故で帰天する事となった。
義兄である、ルミネ子爵の落ち込み様は激しく、姉の後を追ってしまうのでは、と不安に感じる程であった。
貴族社会においては、純粋過ぎる程のルミネ子爵は後添えの打診を全て断り、魔法の研究に打ち込み、やがて、宮廷魔導師として召し上げられる事となった。
ルミネ子爵が、聖女を欲している、と耳にした時はどの様な冗談かと笑い飛ばした。
しかし、アカネから届く手紙にはあのルミネ子爵が間違いなく聖女としてアカネを欲している事が記されており、真偽を確認するべくして私は姉の死から10数年ぶりに、ルミネ子爵家を訪問する事となった。
年齢よりも大きく老け込んだ彼は、アカネを伴侶として迎えれば女神の奇跡で姉が蘇るのだと語った。
聖女の祝福と女神の奇跡が重なる事で、アカネは我が姉、クローディア・ジングウとして再誕するのだ、と義兄は何かを心酔しているか如き目で語っていた。
聖女の祝福と女神の奇跡のふたつが揃えば、姉が蘇る。
仮に、それが真実であるのならば、既に私が実行している。
10数年前、彼は最愛の妻を亡くした。
10数年前、私は最愛の姉を亡くした。
愛する者を喪う苦しみは、理解出来る。
だからこそ、その苦しみに付け入る教会の教えは受け入れ難い。
イェリッツァ・ルミネ
ルミネ子爵。宮廷魔導師。
愛情深い人物であるが故に、僅かな可能性にかけて亡き妻、クローディアを復活させる為に聖女に近付く。




