若き伯爵閣下
夏のはじめ、北方の国境に近い広大な領地を持つモリス伯爵が持病の悪化がもとで帰天し、若伯爵閣下が跡目を継いだと聞いた。
齢23の若伯爵、若くして伯爵家を継いだ兄の補佐に回り、内政を支える弟の話は、美談として語られている。
モリス卿の次子ウィリアムは兄である若伯爵ウォルターの為にあらゆる方面の知識を吸収し、尽力していた。
我が国の貴族籍の生まれならば必ず在籍する貴族学園への入学も、当初は若伯爵の補佐に専念する為に諦めていたとも聞いている。
若伯爵は
「学園生活で身に付ける知識や得られる交友関係は必ずお前の為になる。そして、それはひいては私の為にもなるのだ」
と説得し、弟の背を押したのだとあちこちで話題になっていた。
兄の為に、と持ち得る全力を捧げる覚悟を持っていたウィリアム・モリスを変えたのはやはり、学園内に充満する聖女の齎す繁栄に対する熱望であろうと言える。
最も聖女と関わる機会に恵まれていた我が男爵家であるからこそ、雷獣は聖女の心身の健康に寄り添い、花嫁たる聖女の為に行動すると理解が出来ている。
聖女が繁栄を齎すどころか、国を引っ掻き回した事が幾度かある事は、我が男爵家と教会は事実として記録が残されている。
歴史書から名を封じられたそれらの聖女はこの世界を
「乙女げぇむの世界」
と呼んでいたと言う。
そして、時の王族や貴族を「攻略対象」と呼び、彼等に拒絶されている事に気付く事もなく、まるで情婦の様な振る舞いをしていたと言う。
彼女達は守護精霊である雷獣からも見放され、悲惨な末路を遂げたとされている。
アカネはその様な異常存在の不安はない。
一般的に語られる、望外の力を手にしたとて驕る事はない聖女であり、それ故に王族や貴族が齎される筈の繁栄を願いこぞって自領に引き摺り込もうと画策される存在がアカネである。
エリオット・モリス
夏のはじめに持病の悪化で亡くなった伯爵。
エリオットの死後、長子ウォルターが伯爵の座を継ぎ、次子ウィリアムが補佐として内政に携わる事となった。




