カーター公爵の苦悩
我が国の筆頭公爵であり、私の学友時代の悪友でもあり、現在宰相を務めるランドルフ・カーター卿の子息、エドワードもまた、聖女の恩恵を受けるべく行動する若者である。
婚約者であるベルナデット・ラングレー侯爵令嬢は、婚約者がいつの日か改心する事を願ってこの国の成り立ちと守護精霊、そして聖女について歴史書と、我が男爵家に伝わる古文書を通して学んでいる。
アイリーン様の祖国では、守護精霊である麒麟の花嫁たる存在は数百年に一度顕現するのに対し、何故、我が国では聖女が頻繁に出現するのか。
それは、この国で女神が信仰されているからだと言える。
元は華國と同様の精霊信仰を主としていたが、凡そ2000年前の女神の出現を契機に女神が信仰される様になり、精霊信仰は廃れていった、と言う事実がある。
聖女は本来国の守護精霊の花嫁であり、17の年に精霊界に輿入れする事で数百年にわたる繁栄を齎すものだったと伝わっている。
女神信仰が盛んになると聖女を国内に保有する事が繁栄の象徴とされる様になり、聖女が貴族ならば王族、或いは家格が同格の家に嫁がせ、平民ならば王族や貴族の愛妾として扱われる様になった。
周囲に誘導されるかたちとはいえ、自分の意志で人として生きる道を選んだ聖女に、雷獣はその意志を汲むかたちで国に祝福を与える様になった。
数世代にわたって、聖女の扱いが本来からかけ離れたものとなれば、人々の認識も変わる。
どの様な仕組みで雷獣が祝福を与えるのかを忘れ、
「聖女を手元に置けば繁栄が約束される」
と誤認する様になった。
カーター卿とラングレー嬢が幾度となくエドワードに聖女が本来どの様な存在で、雷獣がどの様な仕組みで繁栄を齎すのか、と懇々と説いても、熱に浮かされているかの様にふたりの言葉は届いてはいない様だ。
アカネが聖女として教会からの認定を受けるまでは、聖女の齎すとされる繁栄を夢物語だと笑ったあの子供はいないのか、とほんの僅かばかりの寂寥を覚えてしまった。
ランドルフ・カーター
筆頭公爵家当主、宰相。王妹エリザベータを妻に持つ。




