王太子殿下の失策
セルバンテス3世国王陛下の愛息子であり、王太子であるレジナルド・ドハティー=マスグレーヴ殿下は教会からの
「聖女出現」
の一報を耳にすると、過去の事例を元に聖女が国内の何処かには定住する様に同年代の貴族の子息達に布令を出した。
学園に入学する年にもなれば大半の貴族は婚約者を持つものであるし、異例の貴族学園の入学が決定されているとはいえ、平民であるアカネをどう扱うのか、となれば、一般的な思考としては愛妾として手元に置くのだろうと私は結論を出した。
だが、実際には殿下を含め数多の貴族令息がアカネを正妻として迎え入れる旨の婚約の打診をしたのである。
本来、貴族が平民を正妻に、と望めば貴賤結婚として貴族としての身分を手放して平民となるものだ。
しかし、異例の貴族学園の入学が認められたアカネであれば、学園生活の間に王族や貴族の妻として相応しい立ち居振る舞いを身に付けるだろう、と安直に考えた彼等は、アカネに拒絶されている事に気付く事もなく、ただ手に入れるであろう繁栄を夢見て持て囃したと言う。
「学園の生徒である以上、同等に扱うべき」
と、アイリーン様は最低限頭に入れて然るべき振る舞い方をアカネに教授したと聞いている。
アカネに婚約者を奪うつもりは毛頭なく、聖女としての役割を果たそうとしている姿が認められた事で、入学直後に発生していた嫌がらせは徐々に収束した。
婚約者である貴族令嬢達の身の回りで発生する幸運の多くを、殿下やその御友人方は
「自分達がアカネを大切に扱っているからに違いない」
と都合よく解釈し、あからさまな拒絶をただの照れ隠しとして親睦を深め、あわよくば恋仲になろうと策を練る事を止める事はなかった。
アカネは
「卒業したら聖女としての活動に専念する為に平民として生活したい」
と、手紙で良くこぼしていた。
聖女と言う望外の力に驕る事はないアカネだからこそ、雷獣の花嫁としての資格があるのだろうと、手紙が届く度に思う。




