028 日本の反応
〇日本・有東テレビ
「これは偶然による産物ですよ。ただ運が良かっただけ。あれを人類の成果なんて言ったら、いままでの苦労が報われません!」
有東テレビの討論番組『言いたい号外』では、有識者コメンテーターの石田広志が唾を飛ばしながら、そう力説していた。
「では今回の塔攻略は……」
「あれを攻略と呼んではいけないんです!」
石田が司会者の言葉を否定する。
『言いたい号外』は報道番組ではないため、コメンテーターの偏った意見がウケることも多い。
その分、司会者がバランスを考えて各人の発言を拾っていくのだが、今日の石田は止まらなかった。
「みんなそう思っていますよ。あれはまるで詐欺だ!」
世界が塔攻略成功のニュースを大々的に報道しているなか、日本はその映像を使えない。
報道する側からしたら、これは致命的だった。
各局は知恵を絞り、手製のボードを使って解説を試みるが、ボードだけで視聴者を引き付けるには限界がある。
攻略映像が欲しいのだ。
そこで三つのクランにインタビューを試みようとしたところ、なんとすでにバタフシャーン公国へ戻ってしまったという。
彼らの仕事は、公国にある塔の防衛。長く国を空けていられないのだから、戻るのは当たり前である。
映像もだめ、インタビューも空振りとなれば、マスコミはおもしろくない。
だったら「人気を下げてやる」と、ネガキャンすることにした。
自分たちの主張を代弁してくれるコメンテーターを積極的に起用したのだ。
そこで呼ばれたのがレギオン『常勝不敗』に近しい石田である。
番組の中で石田が暴走し、司会者が黙り、他の出演者がドン引きする。
当然、またたく間に石田の発言がネットで炎上した。テレビ放映中のリアルタイム炎上である。
ネットでは「逆張りにもほどがある」「いくら貰って喋ってるんだ」と辛口な批評が相次いだ。
SNSのトレンドにもなったこの番組は、多くの人に視聴される。
司会者は、石田が滔々と弁じている間にそっと腕時計を見た。
二時間の番組なのに、まだ一時間も残っていた。
「とにかくあんなものは偶然です。偶然なのに攻略したなどと言い出しては、日本は世界中の笑いものですよ!」
石田の論調に、司会者も「そう……かも、しれませんねえ」と歯切れが悪い。
ここで石田に反論すると、喧嘩腰でつばを飛ばしてくるのだから手に負えない。
操り人形となっている石田には怖いものはないだろう。
困るのは司会者や他の共演者だ。
下手に同意し続けていると、自分にまで飛び火しかねない。
そんな中で、緊急ニュースがやってきた。
バタフシャーン公国が、今回の件について新たな発表を行ったのである。
「番組の途中ですが、ただいま緊急ニュースが入りました。バタフシャーン公国の広報が、今回の作戦概要を発表するようです」
司会者はここぞとばかり、画面を切り替えるサインをプロデューサーに送った。
◯
映像が切り替わった。
バタフシャーン公国が発表した映像が流れる。
まずはじまったのは、報道特集のようなVTR。
そこには、塔を攻略するに必要な準備――下調べから直前までに行った作業が余すところなく盛り込まれていた。
塔周辺の詳細な地図は言うにおよばず、背後の崖のに注目した経緯、ドローンによる空撮と採取した土壌のサンプル、その検査結果などである。
崖はレーザーで測量され、調査結果を専門家が分析する。
科学的見地をもとにした作戦立案の様子。
技術者が作成した爆破シミュレーションをもとにした詳細な塔攻略の手順。
このVTRだけでお腹いっぱいの内容である。そして後半……。
場面が変わり、覚醒者たちへのブリーフィング。塔の攻略方法だけでなく、そこからの脱出までの詳細な計画があり、それはまさに攻略のダイジェスト映像であった。
およそ二十分におよぶ映像が終わったあと、画面は元の番組に戻った。
静かである。だれも何も口にしない。
「……い、以上が、バタフシャーン公国の発表になります。す、すごい内容でしたね。石田さん……」
司会者が横目で石田を見ると、本人は顔を青くして震えていた。
綿密に練られた計画が、素人にも分かりやすく説明されていた。
塔を攻略するために多くの専門家が集まり、作戦を練り、訓練を積んでから塔攻略に臨んでいたことがよく理解できた。
石田が先ほどまで連呼していた「偶然」という言葉が虚しくなる。
そこには偶然の入り込む余地が微塵もなかったのである。
精彩を欠いた石田が、関係のない話で時間を浪費しているうちに、番組は終わりの時間を迎えた。
この放送はネットで「神回」や「即落ちざまぁ回」と呼ばれ、語り草になった。
◯日本のインターネット上での反応
後日、バタフシャーン公国が行った発表とは別に、塔攻略にまつわる詳細な資料がネットにアップされた。
英語、日本語、ロシア語など、世界の主要な言語で書かれたそれは、だれでも気軽にダウンロードできるようになっていた。
それらはすぐダウンロードされ、世界中の人々が、人類がもたらした成果とそれに至るまでの過程を知ったのだ。
称賛の声が、クラン『青の栖』に数多く届いた。
当然、日本でもダウンロードされ、多くの人がそれを読んだ。
つまり、一部の人が意図的に誘導しようとした「塔攻略は偶然」という目論見は完全に崩されることになった。
他に自然を利用して攻略できる塔がないかと、各国が調査をはじめることとなる。
世界は今回の功績をあらためて評価し、クラン『青の栖』には惜しみない拍手が送られた。
そして世界中のマスコミが当攻略の成功を称賛する中、再び日本のマスコミはだんまりを決め込んだ。
早く沈静化してくれ。そう願うかのように、いつもの旅番組、グルメ番組を流すのであった。
〇高平邸・書斎 高平健司
「くそっ! どうなっているんだ」
健司はマホガニーの机を殴りつる。机の上にあった高価な花瓶が跳ねて床に落ちた。
現在、健司は竜華国に偽の情報を与えた張本人として、多くの人から恨みをかっている。
それもそのはず。竜華国が派遣したレギオンメンバーは、最終的に二名を除いて全員の死亡が確認された。
竜華国としては大打撃を受けた形だ。
それゆえ日本の策略だったのではないかと、いまだに抗議が日本政府に行われている。
竜華国の主張はこうである。
日本に協力、覚醒者を助けるためにレギオンを派遣したら、日本に活動を妨害され、レギオンが全滅した。
これは日本も竜華国も、名目上のことであると理解している。
それでも公式チャンネルを通した抗議であり、どのような形にせよ、日本政府は答えを返さなければいけない。
そのため、政府は何度も健司を招集して説明を求めた。
それだけなら、まだいい。
政治家たちの政党や派閥は多岐にわたっており、健司の権力が届かないところも存在する。
そのため毎回足を運ぶ健司としては、単身敵地に乗り込むような気苦労が耐えないのである。
そして志を同じくするはずの十七人会すら、健司を見る目が冷たい。
彼らは自分に泥が被らないよう、積極的に健司を人身御供にしようとしていた。
現状、竜華国への対応窓口は日本政府が負っているが、十七人会の意向があって、健司がその矢面に立たされている感じだ。
「奴らは、何もしなかったくせに……しかもあれはどういうことだ!」
我慢ならないことがもう一つあった。
それはネットに書き込まれた噂。
今回の塔攻略は本来、十七人会がすべきものだった。
管理連からの通達を曲解して、塔防衛の任務についていたクランに無理やり押し付けたのだと、匿名の掲示板に書かれていた。
なりふり構っていられなくなった健司はそれを知ってすぐさま消させたが、火消しをすればするほど、ネット上では盛んに議論、検証が進んでしまうこととなった。
これはまずいと、健司はコメンテーターに金を握らせて、テレビで自分たちの主張を代弁させることにした。だが……
「塔攻略を十七人会が強引にやらせたなんて言う馬鹿がいるようですが、塔攻略ですよ。言われたからやりますなんてことにはならないでしょ。進んでやったに決まっているじゃないですか!」
あくまで自主的にやったもので、日本政府はもとより、十七人会は何も関与していないと主張させたが、その日、バタフシャーン公国である発表が行われた。
――クラン『青の栖』が所属をバタフシャーン公国に移籍
塔攻略を成し遂げ、いまや英雄的な扱いを受けている『青の栖』が日本を見放した。
その報道に、世界中が驚愕した。
クラン『青の栖』と日本との間に何があったのか。
世界中のマスコミが政府や十七人会に意見を求めるため、日本に殺到した。
日本政府や十七人会は、それらの取材に対して、一切のノーコメントを貫いた。




