027 攻略の裏側で
〇惑星テラノヴァ・【H06】の塔付近 四堂誠一
「やはり妨害しにきたか」
空高く浮かぶドローンからの映像を見ながら、四堂誠一は眉をひそめた。
竜華国の覚醒者と思われる集団が、オフィードの群れから逃げるように……いや、群れを引き連れて【H06】の塔へ向かっていた。
「この動き、やっぱり十七人会が裏切っているわよね」
水無瀬夏美の言葉に、誠一も頷く。
「マスコミから貴族へ情報が渡って、そこから竜華国へ流されたんだろう」
もし、本当に【H06】の塔を攻略していたら、ちょうどよいタイミングでオフィードが到着することになる。
オフィードは、人類を見つけるや否や襲い掛かる習性がある。
日本のクランは前後を挟まれて、だれ一人脱出することなく全滅しただろう。
到着時間がピッタリになるよう、竜華国の覚醒者が動いているのだ。情報が漏れているとしか思えない。
「モンパレはさすがに許せないけど……本当にやるのね?」
「ああ、そのために日本に残ったんだ」
モンスターパレード、通称モンパレ。
モンスターをたくさん引き連れて妨害するのは、竜華国がよく使う手だ。
そのやりようは、あまりに近視眼的で、あまりに独善的。
国家の威を示すために、星間闘争さえも利用してしまう。
ゆえに誠一は決断する。
妨害は利に合わないと知らしめるために。
「……最短で進むなら、やっぱりここを通るよな」
敵の拠点と塔を結ぶ直線上にある湿地帯。
誠一は、ここに罠を仕掛けた。
オフィードが【H06】の塔に向かう場合、必ずここを通ると思っていた。
だからこそ、誠一はここで待ち構えていた。
オフィードは蛇のように身体をくねらせて進むため、湿地帯でも速度を落とすことはない。
その前を行く覚醒者たちは、足こそ遅くなるものの、強引に抜けることが可能である。だが……
――バシュ、バシュ、バシュ!
湿地帯の中に隠しておいた閃光弾が何度も瞬いた。
一般人なら完全に失明するほどの光量が何度も弾けたのだ。
湿地帯は広い。そのそこかしこで閃光が弾けた。
当然、覚醒者たちの足が一瞬だけ止まった。
直後、湿地帯を覆うように煙幕弾が爆発した。
湿地帯全体に吹き上がる真っ白な煙。
殺傷能力こそ皆無だが、広範囲にまき散らされた煙で、湿地帯に入っていた覚醒者たちの視界が奪われた。
「いくら煙幕を張っても、覚醒者相手だと、足止めは一瞬よ。すぐ逃げられちゃうんじゃない?」
「普通ならそうだな。……ほら、見てみろ。オフィードが追い付いた」
「うん。けど煙の中に入っていかな……あれ?」
夏美が首を傾げる。オフィードは煙を避けて湿地帯の周囲に展開した。
だがその動きがおかしい。
まるで煙の中が見えているようなのだ。
「オフィードの特性は?」
「テレパシーで会話できるのと、耳が……いい?」
覚醒者の一人が、煙から脱した。だがそこは、オフィードが待ち構える死地だった。
いや、オフィードが先回りし、覚醒者がそこへ飛び込んだのだ。
煙を脱したと思ったら、そこで待ち構えているオフィード。
虚を突かれた覚醒者は、簡単に討ち取られてしまった。
「あの湿地帯は、足首まで水に浸かる場所がほとんどだ。走るとバシャバシャって音が出るだろ」
「それでオフィードは先回りできるのね!」
何人かの覚醒者がオフィードに狩られたあと、煙幕の中から出てくる覚醒者がいなくなった。
「自分たちが足音を出しているって気づいたな。だがそれは悪手だ」
煙が晴れたら、包囲の薄いところから脱出しようと思ったのだろう。
だが誠一が手元のリモコンを操作すると、さらに煙幕弾が爆発し、再び白い煙があがった。
これで覚醒者たちはさらに動けなくなった。
「見て! 遠くからオフィードの後続がどんどん来るわ」
「奴らはテレパシーが使えるからな。まだまだ来るぞ」
すでにオフィードによる包囲は完成している。その上、援軍まできたのだ。
たとえこの包囲網を抜け出したとしても、竜華国のゲートまで何千キロもあるはず。
オフィードは狡猾かつ執念深い。追跡は執拗だ。
近くまで車で来ただろう。だが、オフィードの追跡を振り切って車まで戻れるだろうか。
車を諦めるなら、ゲートまで何千キロも走って逃げなければならない。
周囲を敵に囲まれたいま、戦って勝つのは不可能。それでも彼らはどこかに勝機を見出すはず。ゆえに誠一は、駄目押しの三段目を爆発させた。
白い煙が充満している中にいる覚醒者たちは、周囲の状況が把握できない。
動けば足音で位置がバレる。霧の中に槍を投擲しているオフィードもいる。
そしてオフィードの援軍は、まだまだ増える。
「手持ちの煙幕は尽きたが、もう十分のようだな」
竜華国の覚醒者は観念したのか、散会して逃げはじめた。
だがその半分は、煙幕から出たところですぐに狩られた。
湿地帯を移動しただけで、位置がバレるのだ。逃げられるはずがない。
それでも包囲を振り切った者も出たが、オフィードがそれを追う。
ドローン経由でそれらの様子を見届けた誠一は、この場を離れる準備をはじめた。
「撤退するの?」
「ああ。それとこのことは、ケントには内緒だぞ」
「……うん」
「世間の目をあいつに向けさせないため、オレはこっちで暴れるから」
「うん」
もし世間が今回のことを知ることになっても、表に出るのは誠一の名前のみ。
「あいつは表の道を歩んでくれるさ、きっと」
「そうね」
夏美は頷いた。
ドローンを回収し、その場にいた痕跡をすべて消してから、誠一と夏美は筑美町ゲートへ戻った。
そのときにはもう、【F02】の塔が攻略された情報が、日本にも届いていた。
◯
数日後、世間がお祭り騒ぎになる中、竜華国のレギオンが一つ解散したというニュースが新聞に小さく載った。
その解散の原因を作った者を『影法師』と呼んで、竜華国が探しているという噂が静かに流れた。
人づてにそれを知った誠一は、「言い得て妙だな」とうそぶいた。
◯ 高平邸・書斎 高平健司
「なんだと言うんだ!」
書斎に鍵をかけ、健司は部屋の中をグルグルと回っていた。それでも健司の怒りは収まらない。
筑美町ゲートからテラノヴァへ向かったマスコミたちのおよそ半数が未帰還となった。
その中に、テレビや新聞、雑誌記者に加えて、最近主流となりつつあるネット記者がいた。
彼らがオフィードに殺されたのは自業自得だと健司は思っている。テラノヴァはそういう場所なのだ。
しかも、わざわざ警告に来たにもかかわらず、それを無視して向かったのだ。悪いのはマスコミ連中である。
だが、彼らは面と向かっては何も言わないが、偽の情報を流した健司をかなり恨んでいる様子が見て取れた。
マスコミの心が離れていくのを肌で感じたのである。加えて……
「アレも私のせいだと言うのか!」
先ほど十七人会から、竜華国へ対処を促す文書が健司のもとへ届けられた。
議長の署名があることから、健司抜きで十七人会が開かれ、決議されたのだと分かった。
健司は何もミスをしていない。それなのに、すべての責任が健司にあるかのように世間が動いている。
「あの記者が偽の情報を持ってきたからだろうに!」
いま、世界から日本と竜華国だけが除け者にされている。塔攻略の映像が一切使えないからだ。
ハブにしたつもりが、ハブにされたのだ。
まったくもって許しがたいと健司は考えている。
もちろん、今からでもクラン『青の栖』に頭を下げて、映像の使用許可を願うことはできる。
だが、これまでの経緯から『青の栖』が首を縦に振るとは思えなかった。
「たかがいちクラン……マスコミを煽って制裁するか」
そこまで考えて、健司は首を横に振った。塔攻略を成功させたクランに制裁を課したと分かれば、世界中から非難される。
管理連から睨まれている現状、それは悪手であることは健司も分かる。
そして最大の問題……
「レギオン全滅の責任は、日本にないだろ……」
竜華国からの強い抗議のあと、十七人会は現場となったであろう湿地帯を調べた。
調査の結果、レギオンの足止めに使われたのは、どこにでもある閃光弾と煙幕弾だと分かった。
それらはレギオンどころか、クランですら自由に購入でき、毎年それなりの数が売れている。
原生魔獣から逃げるため、個人でも購入することもあり、閃光弾や煙幕弾から使用者を特定することは不可能に思えた。
だがそんな説明で、竜華国が納得するはずがない。
レギオンが全滅したのだ。
それなりの補償をしないかぎり、敵対してくることが予想できた。
そしてその詰め腹を切らされるのが健司である。
「――くそっ!!」
健司は力いっぱい、マホガニーの机を蹴っ飛ばした。




