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026 世界各国の報道

〇バタフシャーン公国・自宅 上野拳人


 十一月一日。

 クラン『青の(すみか)』が単独で【F02】の塔を攻略した。


 俺と妹の魔子(まこ)も、その攻略に参加した。

 ただ、ずっとフルフェイスのヘルメットを被っていたので、顔は見られていないと思う。


 初手で土砂崩れを起こし、塔を守るオフィードをほとんど排除できたのが大きかったと思う。

 犠牲者は、想定より少なかったと聞いた。


 帰路、ゲート付近で待ち構えているマスコミが見えたので、妹の魔子と一緒に目立たないよう集団の中に隠れた。

 クランマスターがマスコミ対応している間に、そそくさとゲートを潜った。


 クランマスターや幹部は、バタフシャーン公国が用意した会場でインタビューがあり、一般のクランメンバーはクランハウスで祝杯を挙げることになっている。


 クランハウス内にはマスコミも入ってこれないので安心だ。

 それでも念には念を入れて、俺と魔子は私服に着替えて、クランハウスの裏口からこっそりと家に戻った。


「ぱあてい、おっにく、うっれしいな」と騒ぐ魔子の口を手で塞いでだ。

 クランハウスを出るとき、中はもうお祭り騒ぎだった。


 非探索者も数多く出入りしていたので、俺たちに注目している人はだれもいなかったと思う。

 魔子が暴れたので、多少の注目を浴びたかもしれない。


「お兄ちゃん、もうニュースになっているよ」

 自宅に戻ってテレビをつけたら、報道特集が組まれていた。


「単一のクランが攻略を成功させたんだから、大ニュースだよ」

 塔が攻略されたのは実に四年ぶりだという。


 四年前の攻略は、欧州勢が物量で押し切ったため、多くの犠牲者が出た。

「ねえ、お兄ちゃん。前のときは非覚醒者がいっぱい亡くなったってやってるけど?」


「そういう作戦だったんだよ。即席の壁を作って、その内側に非覚醒者の軍人を配置したらしい。オフィードは壁を壊して、大勢の軍人と戦ったんだ」


 訓練を積んだ軍人とはいえ、一般人だ。彼らを肉の壁として時間を稼いだことで、塔攻略は成功した。

 攻略に参加したチームは相当非難されたらしい。


 たしかに非人道的なやり方だが、そのおかげで塔が攻略されたのだから、結果よしだと俺は思う。

 ただ、危機感の薄い一般人にとっては、犠牲の上に成り立つ勝利は耐えられないことなのだろう。


「あっ、もうさっきの映像が流れてる!」

 ドローンで空中撮影したときの様子が、テレビに映しだされた。


 バタフシャーン公国での報道はロシア語だが、副音声で日本語が聞けるので、俺たちでも内容は理解できる。

「……なるほど。塔突入のとき、意外とギリギリだったんだな」


 空から見るとよく分かる。

 第二陣、つまり俺たちが正面を避けて右に移動したとき、オフィードの群れもすべて右に移動している。


 そのままならば第二陣はオフィードの群れに潰されてしまうが、第一陣の人たちがオフィードをことごとくブロックしている。

 それでもすべては(さば)ききれず、第二陣の中間あたりで分断されている。


 塔の中に入った第二陣は、予定の半分に届いていない。これでは駄目だ。

「必死さが違うんだな」


「ん? んん?」

 魔子が首を傾げている。理解できないと思って俺は説明しなかった。


 前世では、みんなもっと必死だった。自分の(しかばね)を越えて行けと本気で思っていたし、実際死体の山を越えて敵に突撃していった。

 そうやって少しずつ差を縮めていったのだ。


 上空からの映像を見ると、実戦経験が少ないせいか、覚醒者たちに迷いや怯えが見える。

「そういえばさ……塔の中って、蛇さんたち少なかった?」


「ああ。土砂崩れでほとんど潰れたからな。迎撃のために急いで塔に入ったのは、二十体くらいかな」

「うん。それくらいだったと思う」


 テレビ放映された映像は、ドローンで撮影されたものを使っている。

 塔の中の様子は、一切ない。


 代わりに、俺たちが塔に突入したあとの外の動きが余すところなく撮影されている。

 第一陣は崩壊せずに、よく戦線を支えている。


「身の守りがうまいな」

「そうだね。けど蛇さんたちを倒してないけど、いいの?」


「赤晶石を壊すのが目標だからな、それ以外はおまけだ」

 第一陣はよく分かっているので、無駄に攻勢に出たりしていない。


 ただし、第二陣を追っていたオフィードの群れが第一陣の排除に動いたあたりで劣勢に追い込まれている。

 第三陣と共闘して、なんとか塔の入り口を死守している状態だ。


「……これを見るとよく分かるが、初手で土砂崩れを起こさなかったら絶対に攻略できないな」

「そうだね。でもあの土砂崩れで塔が無事って凄いよね。根元からひっくり返らないのかな」


不壊(ふえ)の塔だぞ。そんな簡単にひっくり返ったら、塔の周辺を爆破するだけで人類が勝利できるわ」

 これまでどれほど強力な爆弾を投下しても不壊の塔は欠けず、壊れず、傾かずを維持している。


 土砂崩れ程度でどうにかなるわけがないのだ。


 テレビでは、味方が徐々に押し込まれる場面が映っている。

 だが突然、攻めているはずのオフィードたちが慌て出した。


「これって、爆弾を設置したときかな?」

「もしくは塔の中でおまえが煙幕を投げたときだろ。それで俺たちを見失ったからな」


「あ~、テレパシーで繋がっているんだもんね」

「遠く離れた相手と会話できる反面、こういうときは不便だな。動揺が広がっている」


 オフィードの動揺がさらに広がり、その隙に人類側の防衛が強固に作り直されていく。

 塔の入り口周辺を囲み、一体たりとも中に入れない鉄壁の防御を敷いていると、しばらくして俺たちが塔から脱出したのが映った。


 そこからは、ほとんど双方に戦闘が行われていない。

 塔から逃げる俺たちと、塔に入っていくオフィード。


 そのすぐあとで轟音。

 しばらくすると、塔は堆積(たいせき)した土砂の圧によって、半ばから折れて崩れていった。


「ほへ~……最後、こんなになるんだ」

「この塔が崩壊するシーンはすごいな。来年の教科書に写真付きで載るんじゃないか?」


 味方にどれだけ被害が出たか分からないが、近年稀にみる完璧な勝利だったと思う。

 もしかすると、これだけ一方的に勝ちを拾ったのは、星間闘争開始以来、はじめてのことかもしれない。


 これで少しは『青の栖』も有名になるのではと思っていたが、そもそも攻略をはじめた時点で有名になっていた。

 つまり、大勝して塔を攻略したあとの反応は、俺の予想を超えていた。


          〇


 塔の攻略は、国家の力を示すもっとも有力なデモンストレーションである。

 通常、攻略終了まで情報は秘匿される。


 よほど自信があれば別だが、普通は全世界に向けて攻略前に情報を発信しない。

 今回、段階的に情報を開示していったことで、世界中で期待が高まっていたらしい。


 そんな中、たった一つのクランが攻略を成功させてしまった。

 しかも、まったくもって予想だにしなかった方法で。


 そのため、取材に駆け付けた各国のマスコミは、大々的に塔攻略のニュースを報道しはじめた。

 ありとあらゆるメディアがそのニュースを伝え、世界中で大フィーバーが巻き起こってしまった。


 各国の報道は好意的で、よくぞやってくれたというものがほとんど。四年前と大違いだ。

 攻略したときの映像はテレビ、ネットニュースなどで繰り返し流された。


 ドローンによって撮影された映像を世界中の人々が見たと言える。

 もっとも、契約を結んでいなかった日本や竜華国は、ネットニュースを紹介する以外の報道はできなかった。


 そしてこの熱狂がある程度収まると、世界の人々はあることに気づく。

「はて、なぜ日本だけ映像がないのだろうか」


「そういえば、攻略前に行われたパーティにも出席していなかったな」

「もしかして、誰一人取材に来ていないのではないか?」


「攻略映像が使えないならあの場にいなかったし、契約書面も交わしていないことになる」

「どういうことだ? 日本は歓迎していないのか?」

 そんな情報が飛び交った。


 塔を攻略したのは、日本のクランである。

 攻略する塔の情報は、全世界に向けて告知済み。


 なのになぜか、日本のマスコミはあの場にいなかった。

 バタフシャーン公国との取材協力も結んでいないことも分かった。


 ネットでは、『日本のクランは奇跡を成し遂げた。だが、日本だけはその熱狂の渦の外にいる』と不思議がった。

 事実、日本のマスコミは攻略成功の報道こそしたものの、動画が一切使用できなかったため、ひどく簡素なものとなっていた。




高平(たかひら)家の屋敷 高平健司(けんじ)


「どういうことだ! なぜ【H06】の塔ではないのだ。筑美(ちくみ)町ゲートからテラノヴァに渡ったクランは何をしていたんだ!」

 レギオン『常勝不敗』の代表である健司はそう怒鳴ったが、バタフシャーン公国が発表した塔は【H06】ではなく、【F02】である。


 健司は杉林からもたらされた情報で【F02】はフェイクであり、本命は【H06】だと思っていた。

 一部のマスコミは、念のためバタフシャーン公国に赴き、取材しようとする動きもあった。


 だが、それを止めたのが健司であり、十七人会であった。

 あえてマスコミを現地へ派遣させず、取材もさせなかった。


 三つのクランが筑美町ゲートから【H06】の塔へ向かった情報は報道規制させ、他国に一切知らせなかった。

 【H06】の塔攻略失敗の映像を自分たちで独占する。そんな意図をもってマスコミを動かしたのだ。


 同じく、各国がバタフシャーン公国へ赴いたのをあざ笑っていたのが、日本のマスコミだった。自分たちだけしか知らない記事がある。そう言って優越感にひたっていた。

 だが実際はクラン『青の栖』が宣言通り、【F02】の塔を攻略してしまった。


 十七人会と日本のマスコミは、まんまと騙されたのである。そして……。


「大変です。【H06】の塔へ向かった竜華国のレギオンが壊滅しました」

 家令が健司の書斎に飛び込んできた。


「なんだと!? それは本当か?」

「事実です。たったいま、(まさし)様から連絡がありました」


 高平雅は健司の父で、兵器工場を経営する貴族である。

 そんな父を通して連絡があったことで、健司は事態の深刻さを悟った。


「竜華国が何か言ってきたか?」

「非公式ルートで強い口調で抗議があったとのことです」


 竜華国のレギオンが全滅など、健司にとっては寝耳に水の出来事。

 よほどのことがない限り、レギオンが全滅するなどありえない。


「詳細は?」

「それが、よく分からないようです」


「マスコミも不用意に近づいて半壊した。そして竜華国のレギオンが全滅……だと?」

 レギオンが全滅する事態がまったく想像できなかった。


「マスコミも半数は未帰還です。戻ってきた者をここに呼びますか?」

「不甲斐ないマスコミのことはいい。それより竜華国だ。全滅なんて……いや、そもそもなぜ我が国に抗議してくるのだ?」


 何がなんだか、意味が分からない。

 日本に抗議するということは、原因が日本にあると考えていることになる。


「とにかく現場を見ている者がおりませんので、これ以上は……」

「ええい、くそっ! あそこで何が起こったのだ!」


 健司は、マホガニーの机を強く叩いた。



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― 新着の感想 ―
これは良いざまぁ。
やはりザマァは鉄板でおもしろい
あ、ヘビさん、ピット器官は無いのかな。
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