025 不壊の塔攻略
〇テラノヴァ・【F02】の塔 上野拳人
俺と魔子は第二陣に組み込まれ、ツーマンセルで動くように指示された。
第一陣が敵を押し留めている間に、右へ迂回しながら塔を目指す係だ。
現在、敵と第一陣がぶつかり合ったところ。
敵の注意が第一陣に向いている。
その間に少しでも塔に近づきたいが、俺たちが動きはじめれば、敵もそれを阻止しに動いてくる。
第一陣はそれすらもガードすべく、敵と俺たちの間に身体を割り込ませてくる。
「お兄ちゃん、進路を妨害してくるオフィードが皆無だよ」
「第一陣が頑張ってくれているからな。俺たちはここで戦う必要はない。とにかく敵を避けて進むぞ」
「らじゃ~!」
陽気な声がバイザー越しに聞こえる。インカムのスイッチを入れ忘れたようだ。
この作戦は、アメフトのスイープという戦術に似ているらしい。
実際、バタフシャーン公国にある大学のアメフト部に協力してもらって、何度も練習を重ねたという。
「魔子、突出し過ぎだ! あと、そろそろ気づけ。インカムのスイッチ入れろ!」
「お兄ちゃんが遅いんだよ……あれ? わたし、電源切ってたっけ?」
「知るか。少なくとも、インカムからは聞こえてこないぞ」
ツーマンセルを組んだ魔子とはインカムで話ができる。
『お兄ちゃん。これでどう? ミュートしてたよ』
ようやく、魔子の声がインカムを通して聞こえてきた。
だが、アホの子の魔子は、また突出しはじめた。
「速さを合わせろ、馬鹿! 俺は体重以上の爆弾を背負っているんだぞ。お前と同じ速度で走れるか」
『そういえば、そうでした』
ツーマンセルの片割れ、つまり第二陣の半数が晶石破壊爆弾を背負っている。
これは赤晶石を破壊するのに必要だから、どれほど重くても捨てていくわけにはいかない。
『お兄ちゃん、塔だよ。ほんとに着いちゃったよ』
「ああ。半数は脱落したけどな」
第一陣のブロックをすり抜けた敵に、第二陣の半数が捕まった。
足を止めて迎撃をはじめたらもう間に合わない。
塔に入れたのは、およそ十組。
本当の戦いはここからだ。
〇
二階への階段に差し掛かった直後、長槍が上から降ってきた。
「うわっと!?」
不用意に身体を晒していたら串刺しになるところだった。
敵は一階の広間を捨てて、狭い階段の上で待ち伏せをしていたようだ。
『お兄ちゃん、ここも戦わないで先に行くんだよね』
「ああ。塔の中で戦っていたら、時間がいくらあっても足らない」
不壊の塔は四階建てだ。
二階に上がれたとしても、まだ三階と四階に続く階段がある。途中で足を止めて戦う時間はない。
だが、敵だって馬鹿ではない。
素直に横を通してくれるわけがない。とくにこの狭い階段では、すり抜けるのが難しい。
階段の中ほどで俺が逡巡していると、隣を覚醒者が駆け上がっていく。
味方とオフィードとの戦闘がはじまった。
『お兄ちゃん、いまだよ』
「そうだな」
俺たちへの警戒が緩んだ隙をついて、俺と魔子はオフィードの横をすり抜けていく。
敵が気づいたときにはもう遅い。俺たちを追いかけようと後ろから追いかけても、他の仲間がそれを妨害してくれる。
『うまくいったね』
「次が難関だぞ」
三階への階段前に、オフィードが数体、槍を構えて待っていた。
こちらにやってこないのは、階段を死守するつもりだからだろう。
時間をかければ突破できる。だが、敵の拠点から援軍が到着してしまえば、俺たちに勝機はない。
逆に敵はそれまで防御に徹すればいいのだ。
『えいやっ!』
魔子が手持ちの煙幕弾をすべて投げた。
「おいっ! 何も見えなくなるだろ」
『でもこの方が、手っ取り早いし』
魔子は粘糸を打ち出し、俺を抱えたまま器用に天井に張り付いた。
なるほど、消音性に優れた粘糸なら、オフィードに気づかれずに移動できる。
事実、煙幕で視界を奪われたオフィードは、まだ俺たちの動きに気づいていない。
『いまのうちだよ、お兄ちゃん』
「俺たちだって何も見えないけどな。あと多分、味方も来られないぞ」
煙幕弾は本来、野外で使用するもの。
ただでさえ煙が風で流れないように作られているのだ。
それを室内で炸裂させてしまったため、なにもかもが見えなくなった。
狼煙のように上へのぼっていく煙ならば、軽いからいくらでも払うことができるが、これは違う。
真っ白な煙の中に敵味方が閉じ込められてしまった。
『いまのうちに晶石を壊しちゃおうよ』
「というか、それしか方法がないが、どうやって……うん?」
『どうしたの?』
「魔子、二メートル右へ移動しろ!」
『うん。……うん?』
「そこで前、真っすぐ進め。……そう、次は三メートル左。眼の前に階段があるだろ」
『えーっと……あった、あったよ、お兄ちゃん。すごい、こんな濃い煙の中でも見えるんだ』
インカムから陽気な声が届いた。
見えたわけではなかった。ただしタネはある。
先日進化した特殊能力『瞑想』の温度を視覚として感じる能力のおかげで、敵がいない場所が分かった。
同時に階段となっている空間も、壁との温度差で把握できた。
そのおかげで俺たちは、オフィードの襲撃を躱して三階に到着できた。
塔に入れた個体が少なかったのだろう。幸い、三階にはオフィードはいなかった。
そのまま四階に進んだが、そこにも敵はいなかった。
考えてみれば当然だ。
いつ何時、晶石が破壊されるか分からないのだから、四階で敵を待つはずがないのだ。
『お兄ちゃん、あれが赤晶石?』
「そうだ」
背中のバッグから円錐形の爆弾が入った筒を取り出した。
爆弾には強力な粘着性をもった樹脂が取り付けてあり、赤晶石にくっつければ、十秒で硬化する。
「設置完了した。起爆まで一分だ。すぐに逃げるぞ」
『うん。マリリン効果で赤晶石は木っ端微塵だね!』
「モンロー効果だ! いいから離れろ」
急いで三階に下りる。ちょうどオフィードが煙の中から出てきたが、それを無視して煙の中へ身を躍らせる。
『お兄ちゃん、敵だよ?』
「大丈夫だ。もう俺たちには目もくれない」
予想通り、敵は階段を駆け上がっていった。晶石を守りに行ったのだろう。
二階で戦っている音がするので、それを頼りに階段を探す。すぐに見つけて駆け降りた。
『爆発するぞ。逃げろ!』
インカムを全チャンネル解放にして、そう叫んだ。
階下で戦っていた覚醒者がハッとして、一斉に階段を下りる。
反対にオフィードは階段を上っていく。
もはや、互いのことなど目もくれない。逃げる俺たちと、四階に向かうオフィード。
塔を出たところで、多くのオフィードとすれ違った。
『爆発するぞ!』
もう一度、インカムで叫ぶ。
直後、立て続けに三回、巨大な破砕音が塔の中から轟いた。
晶石破壊爆弾の連鎖爆発だ。
『塔が崩れるそぉおおおおお!』
どこからか、そんな声が聞こえた。
振り返ると、不壊の塔が大量の土砂の圧力に負けて折れ曲がるところだった。
『逃げろ!』
晶石が破壊されると、不壊の塔は自壊をはじめる。
不壊の塔が不壊属性を有しているのは、晶石から供給されるエネルギーがあるからだ。供給が途絶えると、途端に脆弱になる。
本来はしばらくして自壊を始めるのだが、今回は大量の土砂の圧力がたえず塔にかかっていた感じだ。
不壊属性がなくなったため、自壊するよりも早く崩壊したのである。
塔に入っていった多くのオフィードは、壊れた塔とともに圧死したことだろう。
「敵の拠点から援軍が来ないうちにずらかるぞ」
塔の外に残ったオフィードは少数だが、それを殲滅する時間はないし、無駄な犠牲を出す必要もない。
俺たちは敵の援軍がやってこないうちに、帰還することにした。
そしてその一部始終を上空のドローンが撮影していた。




