020 動き出す
中間惑星テラノヴァには、敵味方あわせて千の塔がある。
星間闘争の開始時には、それだけの数があった。
七十年が経過したいま、すでに四割の塔は晶石を砕かれて自壊している。
残っている塔の数は、現在をもって六百ほど。
この晶石だが、銃やライフルの弾を数百発浴びせても破壊することができない。
単純に威力が足らないのだ。
携帯可能かつ威力のある武器は、それまであまり重要視されてこなかったが、晶石を破壊するというただその一点において、研究する必要性が生まれた。
世界には、頭が良すぎて良すぎてどうしようもない人たちがいる。
そんな彼らが集まり、頭を悩ませて開発をはじめたのである。
晶石を破壊するには、『一定以上の衝撃』を『晶石の中心部まで届ける』必要があった。
そこでまず、爆薬を円錐形の容器に貼り付け、通常の四、五倍の貫通力を得る方法が採られた。
発見者の名を冠してモンロー・ノイマン効果と呼ばれたそれは、晶石の中心部まで爆発の威力を届けることはできたものの、一撃で破壊しきるにはいかなかった。
そこで爆発した瞬間に円錐形の容器が破裂する機工を設け、それが連鎖してより外側の爆弾が破裂するように改造した連鎖型炸薬弾へと進化していった。
気の遠くなるような試行錯誤の結果、近年になって完成したのが『晶石破壊爆弾』である。
円錐形の爆弾を晶石に張り付けるための瞬間接着剤も同時に開発された。
現在、塔を攻略するときにはその爆弾を持っていくのが常識となっている。
このように、塔攻略に関する技術は年々進歩し、いまでは人工衛星から塔の情報すら入手可能となっていた。
といっても打ち上げた人工衛星の数は少なく、テラノヴァ全土を常時監視するには全然足らない。
先進国は、テラノヴァにある人工衛星の打ち上げ基地を増やし、より多くの人工衛星を打ち上げることを目標としている。
一応、十年近く前にテラノヴァ全体を写真に収めることに成功している。
〇上野家・リビング 上野拳人
『……次のニュースです。本日未明、日本のクランが攻略する塔の情報がバタフシャーン公国の公営放送より発表されました』
リビングでテレビをニュース見ていたら、そんな報道がはじまった。
お笑い芸人の不倫騒動のあとなだけに、なんだかとても滑稽にみえる。
『これは、先日の発表と食い違いが生じており、前の情報を訂正する意図があるものと思われます』
画面が切り替わり、バタフシャーン公国の国営放送が字幕付きで映し出された。
バタフシャーン公国が発表した塔は【F02】。俺が法院さんに提案したあの塔だ。
攻略難易度はC。だがそれは普通に攻略したときの話。
裏技を使えば、かなり簡単に攻略できる。
しかし、馬鹿正直に攻略する塔を発表するとは思わなかった。
「この発表の意図はなんだ? 誠一と夏美が裏で動いているから、そのせいか?」
俺はてっきり、偽の情報を発信して貴族やマスコミ、それに他国を惑わすのだと思っていたが、違っていた。
これでは他国が妨害し放題ではないか。
「う~ん……どういうことだろ」
何か考えがあるのだろうけど本当に、どういうつもりなんだ?
〇
人類は惑星テラノヴァを二十五の地域に分けて管理している。
地域別にAからYまでアルファベットを割り振り、その中にある塔は01、02と数字をつけて分かるようにしている。
【F02】という塔は、F地域にある2番目の塔だ。
都合が良いことに、バタフシャーン公国内にあるゲートからでも赴くことができる。攻略難易度はC。塔と敵の拠点が近く、敵の援軍がすぐにやってこられる位置にある。
背後が崖であるため、敵は塔の入り口側さえ警戒していればよく、どこから攻めようとも、塔にたどり着く前に交戦は必至。
もたもたしていると敵の拠点から増援がやってきて挟み撃ちされてしまう。
まともな神経をしているなら、絶対に攻略しようとは思わない場所だ。
「前にマスコミが発表した【G11】も攻略難易度はCだけど、総合的に見たら、それより攻略は難しく見えるよなぁ……」
テレビではコメンテーターが「ありえない!」とわめいている。
司会者もすごい勢いで、バタフシャーン公国の発表をディスっている。テレビを見ていてイラっとしてしまった。
『気がふれたとは申しませんが、同じようなものですね』と、のたまっているのだ。
テレビでは、馬鹿だ、駄目だ、何も分かっていないと言いたい放題だ。
そのせいか、ネットでも酷い論調が目についた。
日本中の国民が、バタフシャーン公国のクランを馬鹿にしているのだ。
○都内某所・高級ホテルの一室 高平健司
「やあ、どうも」
レギオン『常勝不敗』のリーダー高平健司は、ホテルのスイートルームにやってきた塚田弘道を笑顔で迎えた。
塚田はレギオン『暴風連合』のリーダーであり、十七人会のメンバーでもある。
「私が呼ばれたのは、バタフシャーン公国の発表の件ですかな」
握手をしつつ、塚田はそう切り出した。
「そうです。【F02】とはまた、意外なところを出して来ましたが」
「苦し紛れの欺瞞情報でしょう。考慮するに値しないと私は考えますが」
塚田の言葉に高平も頷く。
「我々がお膳立てた【G11】では不満らしい。かといって、なぜ攻略難易度の変わらない塔を出してきたのだと思います?」
「せめてもの抵抗ではないのですかな。バタフシャーン公国から遠征可能な塔はいくつかありますが、攻略難易度がCなのはそれほど多くありません。世間の注目を【F02】に向けたい、ただそれだけでしょう」
「だとしたら、浅はか過ぎますな」
高平も【F02】の塔が攻略されるとは微塵も思っていない。
それゆえ放っておいても良かったのだが、杉林という記者からもたらされた情報を共有する必要があると考えた。
「実はですね、とある筋から得た情報がありまして、それをお伝えするために本日はお招きしたのですよ」
「ほう。聞きましょう」
「実は、国内にあるゲートから行ける敵の塔を攻略するつもりのようです」
「【F02】は囮ということですか」
高平は頷いた。
「バタフシャーン公国に派遣した政務総監が一時帰国したのはご存じですか」
「ええ、もちろんですとも」
「そのとき知ったのですが、軍需物資を製造販売している瀬戸井興業と接触を持っています。その瀬戸井興業が密かに筑美町ゲートがある町に物資を集中させておりまして、どうやら【H06】の塔を攻略するようです」
「瀬戸井興業……? それは新興ですかな。わざわざ日本の……ということは、世間の注目を【F02】の塔に集めておいて裏で【H06】の塔とは……まあ、攻略を成功させてしまえば、発表と違った塔でも騒がれないと考えたわけですか」
「そのようです。クククク……あれでマスコミを含め、騙されてくれる考えているのでしょう」
高平から詳しい経緯を聞いて、塚田はしばし考え込んだ。
「……とすると、私どもは騙されたフリをした方がよいでしょうな。マスコミを現地に派遣して……いや、それよりもいい手があります。完全に無視してやりましょう。どうせ連中は、【F02】の塔など攻略しないのですから、だれ一人派遣しなければいい」
いいことを思いついたとばかり、塚田は声を大きくした。
気づかないフリをしつつ、マスコミすらだれひとり派遣しない。完全に無視することによって、相手はより惨めになる。
「それはおもしろそうですね。マスコミは直接、【H06】へ向かわせましょうか」
「それでいいでしょう。そういえば、竜華国はどうします?」
「【H06】の塔を密かに攻略すると教えてあげましょう。どうせ全滅するのですし、隣国に貸しを作った方がいいでしょう」
「そうですな。しかし筑美町ゲートは……なるほど、愛璃市ですか。本当に【H06】を攻略するのでしょうか?」
「あのゲートから行ける塔は他にありません。そしてすでに、筑美町ゲートの拠点に物資を運びこんでいるのを確認しました。拠点を守っている者たちも気づいていないほど密かに動いているので気づいていませんが」
「なるほど、あらかじめ監視してあったのですな」
「動きはすべて把握済みです。【H06】を攻略しに向かうのは間違いないでしょう」
「ならば、せいぜい我々の役に立ってもらいましょうか」
「竜華国にはいつものルートを使うとして、マスコミも招待しましょう」
「全滅する様を世界に向けて発信させてもらいましょう。そうすれば、管理連も馬鹿な提案をしてこないでしょう」
「まったく」
高平と塚田は声を出して笑った。
〇天啓企画・事務所 上野拳人
報道を見ると、攻略する塔についての情報が錯綜している。
マスコミとバタフシャーン公国の発表内容が違うからだろう。
テレビでは、「なぜバタフシャーン公国が発表するのか」「それは正しい情報なのか」と、懐疑的な感じだ。
日本のマスコミからしたら、なぜ自分たちを通さないのだと思っていることだろう。
ちょうど法院さんが、丸薬を受け取りに来たので、ついでに話を聞くことにした。
「あの件ですか……あれはもう、そうせざるを得なかったのです」
法院さんの言葉は簡潔だった。
マスコミが最初に発表した【G11】の塔。攻略難易度はCという嫌がらせのような場所。
当然、そこを攻略するわけにはいかない。
ではなぜあんな場所をマスコミが発表したのか。
「最高難易度の塔を攻略しろというのは、明らかな嫌がらせです。当然、攻略する塔を変更することになります」
「そうだね」
「そうした場合、事前発表と違うと難癖をつけてくるでしょう」
「マスコミが発表したのと違う塔を攻略した場合、世間を騙したことになるわけか」
あのとき、マスコミの発表に法院さんが怒っていたのは、こういうことだったのだ。
「嘘の場所を発表しても同じです。そこを攻撃材料としてくるでしょう」
「そっか……すでにマスコミが発表しちゃったから、別の塔を攻略する場合、事前に発表するしかないのか」
塔を攻略する前に訂正しないと、世界を騙したことになる。
「【G11】の塔をマスコミが発表した時点で、そのことは織り込み済みです。ですから、貴族の目を別のところへ向けさせました」
「そんなことできるの?」
「いまのところ成功しています。どのみち、それしか手はないのですけど」
いまは十月の上旬。攻略の期限は年内までだが、馬鹿正直に年末まで待つ必要もない。
法院さんには策があるようだ。
どんなことを考えているのか聞いたら、「ふふふ、それはお楽しみです」と言われてしまった。
気になったが、「お楽しみ」と言われてしまったので、それ以上は聞かないことにした。




