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021 偽りの攻略

成田(なりた)空港・第一ターミナル 杉林(すぎばやし)秀治(しゅうじ)


 十月下旬のとある日。

 バタフシャーン公国にいるクランが、密かに日本に戻ってくるという情報が、マスコミ各社にもたらされた。


 情報をリークしたのはもちろん十七人会。

 マスコミは日本の玄関口である成田空港で、彼らを待ち受けた。


 バタフシャーン公国がチャーターした専用機はすでに空港に到着したのを確認している。

 まだかまだかと、マスコミ各社がじれながら待っていると、お目当ての者たちがやってきた。


 第一ターミナルの到着ロビーに顔を出したのは、そうそうたるメンバーだった。

「……すげえ」


 杉林は大勢のマスコミの中に紛れて、その様子を見ていた。

 まず現れたのはクラン『爆走迷信』。塔攻略に参加できる覚醒者を四十人は抱えていると言われる実力派クランだ。


 ほぼ全戦力を連れてきた『爆走迷信』に、杉林は塔攻略の本気を見た。

 少し間を開けて現れたのは、クラン『雲海(うんかい)』。こちらは七十五名を連れてきていた。


 クランの規模から、戦える覚醒者はその半分ほどだろう。

 マスコミが群がるが、クランマスターの海老原(えびはら)総持(そうじ)は邪険にそれらを追い払った。


 気が立っていることが分かったため、記者たちもそれ以上海老原に近寄ることはしなかった。

 その様子を杉原は醒めた目で見ていた。


「まあ、それで正解だよな。ここに派遣される記者連中なんて、本当のことは何も知らされてないんだから。それより次だ、十七人会からリークされた情報によると……」


 マスコミの一部にどよめきが走った。

 圓家(えんけ)ルミカがクラン『南都の会』のメンバーを引き連れてやってきたからだ。


 彼女はクランマスターの他に、グラビアアイドルとしての側面を持っている。

 にこやかに手を振る圓家に、マスコミは殺到した。


「『南都の会』は二十七名か……精鋭を連れてきたな」

 杉林はすばやくメンバーを数えたあと、他のマスコミとともに圓家を囲んだ。


「なぜバタフシャーン公国にいるはずのクランが揃って日本に来たのです?」

「戻ってきた理由? 塔を攻略するのに必要な装備っていろいろあるでしょ? それの試運転をしにきたのよ」


「わざわざ日本にでですか?」

「バタフシャーン公国は、そういう技術は発達していないのよね。けど日本には多くの技術者がいて、日々新しい装備を開発しているわ。それを試せるなんてステキなことでしょ?」


「なるほど。ここで訓練して塔攻略の本番で使用するわけですね」

「いいえ」


 圓家の口から否定する言葉が出て、マスコミは一様に首を傾げた。

「塔攻略に使用しないのですか?」


「今回は使用しないわ。あくまで将来を見据えた訓練よ」

「将来って……?」


「あっ、迎えのバスが到着したみたい。それじゃ、もう行くわね」

 圓家は軽く手を振って、バスに乗り込んだ。


 群がったマスコミはもとより、杉林にしても、いまの中にクラン『青の(すみか)』が日本に来ていないことは、ほとんど気にならなかった。

 ローテーションで、塔の防衛をしていると考えたからだ。


「将来を見据えて、塔攻略の装備を試運転する? そんなわけないだろ」

 杉林の呟きは、多くのマスコミと同じ思いだった。


 あれだけのクランが日本に来たのだ。

 やはり、日本のどこかのゲートから塔を攻略するつもりだ。多くの記者が、そう確信した。




成田(なりた)空港・第一ターミナル 上野拳人


「……行ったか」

「ええ、行きましたわね」


 搭乗ゲートにあれだけいたマスコミは、影も形もなかった。

 俺と法院さんは、頷き合った。


「それじゃ、いまのうちに行きましょう」

「いくでゴザる。ニン」


 俺の後ろから、妹の魔子(まこ)がひょっこり顔を出した。

 ハンカチを頭から被り、鼻のところで結んでいる。それじゃ、忍者じゃなくて泥棒だ。しかも昔懐かしスタイルの。


 俺たちは人目を避けるようにして搭乗口を潜り、バタフシャーン公国がチャーターした専用機に乗り込んだ。


 日本にやってきたチャーター機がこのあとどうなるか、気にする人は皆無だろう。

 もちろんバタフシャーン公国に帰るわけだが、そのとき乗客がいたってかまわないわけだ。


 そう、この飛行機には、俺たち兄妹と法院さん、他にも多くの覚醒者が乗り込んでいる。

 なぜ日本のクランが帰国するために専用機をチャーターしたのか。


 それは、バタフシャーン公国にいるクランを日本に送るためではなく、日本の覚醒者を密かにバタフシャーン公国へ送るためなのだ。


「うまくいきましたわね」

「うまくいった……けど、専用機一台まるまる覚醒者で埋まるなんて、さすがに増えすぎじゃないかな?」


 俺が法院さんに渡したのは、覚醒丸だけではない。

 覚醒者を強化する様々な丸薬も均等に渡している。


 それによって、法院家に忠誠を誓う多くの者を覚醒させ、強化にも成功したと聞いている。

 法院家では、新たに覚醒した者をバタフシャーン公国に送っては覚醒者登録させ、日本に帰国させていた。


 覚醒者の半分は現地に残してあると聞いたので、それほど多くが日本に戻ってきているとは思わなかった。

 だが、蓋を開けてみれば、三百人ほどの覚醒者が日本にいることがわかった。


「もうすでにレギオンの規模ですわね。ほほほほ……」

 上品に笑う法院さんだが、この戦力増強具合を目の当たりにすると、悪の組織の女幹部のように見えてしまう。


「すごいよね~、お兄ちゃん。飛行機が覚醒者だらけだよ」

「そうだな。けど、『だらけ』というのはあまりいい意味で使われないから気を付けような」


「う~ん。じゃあ、飛行機が覚醒者まみれ?」

「素直に覚醒者で満席でいいじゃないか」


「そうだけど、あまり変わんないと思うけどなぁ」

 摩子は首をひねっていた。


「それにしても意外だったのは、誠一たちだな。日本でやることがあるみたいだし」

 誠一と夏美は、国内で工作をするために日本に残った。


 詳細は教えてくれなかったが、法院さんは頷いていたので、重要なことのようだ。

「塔攻略は十一月一日を予定しています。この飛行機でやってきた各クランのみなさまも、その日に照準を合わせて動きます」


「あと一週間後か……いよいよだな」

 十七人会からは「年内に塔を攻略せよと」言われている。


 年内なのだから、十二月末日までは期限がある。

 だが遅くなればなるほど、秘密が漏れやすくなる。


 情報が洩れれば、どうなるか。

 他国の妨害はいうに及ばず、貴族や国内のマスコミすらも敵に回る可能性が出てくる。


 ゆえに「まだ先だろう」と思っているうちに、攻略を完了させることにしたのだ。

「しかし上野様、私が提案したことではありますが、学校をお辞めになって本当によろしかったのですか?」


「えっと……ああ、学校ですか。仕方ないことだと思っています」

「なにもいますぐお辞めになる必要はなかったと思いますが」


「これは必要なことです。退学したことは後悔していません」

「わたしも~」


「おまえは編入だから、バタフシャーン公国でも学校に通うんだぞ」

「え~? ぶ~、ぶ~」


 魔子が抗議するが、俺は取り合わない。

 今回、法院家の周囲で覚醒者が爆増したことは周知の事実となる。


 どれほど秘匿しようと、俺の存在はいずれバレてしまう。

 法院さんは全力で秘密を守ってくれるつもりでいるが、それでも俺が高校を卒業する前にバレることも考えられる。


 ゆえに身を隠すことにした。

 法院さんは俺が学校を辞めたことを気にしているが、辞めない方が危険なのだ。だから後悔はない。


「でもまあ将来のことより、目先の塔攻略ですけどね」

 塔攻略に失敗したら、俺たちは生きて帰れるか分からないのだから。




成田(なりた)空港・第一ターミナル展望デッキ 四堂(しどう)誠一



「……行っちまったか」

 誠一は、飛び立っていく飛行機を眺めた。


 バタフシャーン公国から三つのクランがやってきた。

 その専用機を使って、日本にいた覚醒者をバタフシャーン公国に送った。


 誠一の親友である上野拳人も、他の覚醒者とともに行ってしまった。

「なに黄昏(たそがれ)ているのよ。私たちにもやることがあるでしょ」


「……そうだな」

「あっちには静香が付いているから平気よ。だから元気出しなさい」


 夏美は誠一の肩をポンッと叩いた。

 覚醒者が覚醒者の肩を勢いよく叩いたせいか、存外大きな音がした。


「そうだな……って、それじゃ、ケントの方が頼りないみたいだが」

「社会性だけみたら、静香の方が上だと思うけど」


 言われて誠一は頷いた。

「たしかに……だが、法院さんと比べるのは酷だろ」


 日頃から頼りになる拳人だが、それは狭い交友範囲内でのこと。

 大人を相手にした場合、拳人とて普通の高校生の域を出ない。


 常日頃から、百戦錬磨の大人たちの相手をしている彼女が異常なのだ。

「というわけで、私たちも頑張らないとね」


「ああ……オレたちの方が危険かもしれないしな」

「そうね。けど、それも含めて相手国次第なのよね。まあ、私は覚悟決めたけど」


 晴れ渡った空に、夏のそんな一言が消えていった。



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― 新着の感想 ―
覚醒者増えすぎ〜。 よくバレずに戦力になるまで鍛えられたな……。
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