012 公園にて
〇駆久町・どんぐり公園 上野拳人
放課後、俺は塔攻略のことを確認するため、法院静香さんに連絡を取った。
法院さんは最初「なぜ知っているのですか!?」と、とても驚いていた。
すぐに会って話したいと言われたので、学校近くのどんぐり公園で会うことにした。
そこは小さな公園だが、小さな子供しか使わないから他に話を聞かれることもない。
法院さんはすぐにやってきた。
二人してベンチに座り、ことの経緯を聞いた。
現在、バタフシャーン公国に派遣されている日本のクランは四つ。
すべて中堅どころのクランで、それぞれが三十人から五十人の『戦える覚醒者』を抱えている。
突如、十七人会がその四つのクランに塔攻略を求めたらしい。
国政にすら意見できる十七人会の存在は、ただのクランにとって強制命令にも等しい。
「本当に十七人会はろくでもないな」
「ええ、まったく……」
怒り心頭の法院さんは、両手でハンカチを握りしめ……いや、ねじり切った。
一般の女子では、とてもそこまでできない。本人は気づいて「おほほほ」と笑ってごまかしている。
「しかし、なぜ十七人会からそんな要請があったの?」
「貴族がまったく塔攻略をする意思を見せないからです。彼らが管理連に目をつけられまして、それを私たちに押し付けてきたのです」
「ははぁ……なるほど」
管理連、つまり星間闘争管理連合は公平な組織だ。
なかなか塔を攻略しない日本に対して是正措置を求めた。
いまの日本……というより、貴族の在りようは目に余ると感じたのだろう。
国内の身内同士で争っていないで、塔を攻略しろと言いたいのだ。
至極もっともな意見である。
十七人会はそれを逆手にとって、日ごろから自分たちと仲の悪いクランに塔攻略を押し付けたのが、今回の真相というわけだ。
面の皮が厚いにもほどがある。
「要請を無視することもできますが、すでにマスコミは抱き込まれています。従わなければ心得ぬクラン……つまり私たちが悪者であると報道される可能性が高いです」
そうなればクランの活動にも支障をきたすし、法院さんの会社にも影響が出るかもしれないと。
「不心得クランのレッテルを張られたら、先はないだろうね」
クランの優遇措置だけ受け取って、義務を何一つ果たさないクランだなんて報道されれば、世間はそれを信じてしまう。
マスコミから一度でもやり玉にあげられれば、あとはどうすることもできない。SNSで炎上なんて可愛いものだ。
直接的なバッシングや嫌がらせが本人のみならず、周囲にも及ぶだろう。
「十七人会令だっけ? それが四つのクランに出されたんでしょ? 他の三つのクランはどうなの?」
「他のクランも引き受けざるを得ないのが現状です。問題は年内までと期限を切られていることです。全滅覚悟の特攻くらいしか、やりようはありません」
なにしろ、攻略指定された敵の塔は難攻不落で有名で、攻略難易度はC。
攻略難易度は、塔の落としやすさを総合的に判別したもので、AからCまでの三段階に分けられている。
指定された塔は、五度にわたる攻撃をすべて跳ね返した実績を持っているのだとか。
十七人会はなぜそんな場所を指定したのか。
「準備期間もない中で、なんでそんな難しい塔を攻略しなければならないんだろう」
「どうせできないのならば、華々しく散ってこいというつもりなのでしょう……まったくあの腐れ貴族と政治家どもは(ギリギリ)」
今度法院さんに、丈夫なハンカチをプレゼントしよう。アラミド繊維とかで作ればいけるかな?
問題を整理しよう。
権力闘争ばかりしている日本のレギオンやクラン……つまり貴族のやりように業を煮やした管理連は、日本に対して塔の攻略を要請した。
そう言われるのは当たり前の話だ。とにかく管理連は、いい加減にしろと言いたかったのだろう。
塔攻略を求められた貴族たちは、それをそのままバタフシャーン公国にいるギルドに丸投げした。
たしかにバタフシャーン公国に駐在しているクランの所属先は日本だ。
だからって、丸投げするか?
この話を断れば、クランはもとより、その後ろ盾にも悪影響が及ぶ。
マスコミは抱き込まれており、断ればこちらが悪者に仕立て上げられてしまう。
そして攻略するように言われた塔は難攻不落で有名で、しかも期限があまりに短い。
まるで全滅しろと言わんばかりの命令だ。
そもそもバタフシャーン公国にいる日本のクランはたったの四つで、塔にある白晶石を守るために派遣されているのだ。
防衛のため、幾度も敵と戦ってきたが、攻略は専門外だと法院さんは言っている。
「拳人様のおかげで覚醒者は増えましたが、いくら数を揃えたところで、塔攻略は不可能でしょう」
「そうだね。……別の塔を攻略するってのは駄目なの?」
「駄目ということはないと思います。さすがに最難関の塔以外を認めないとは、だれも言えないでしょう。塔を攻略すれば、それが実績となりますから」
「そうか。だったら……【F02】の塔なんてどう?」
テラノヴァには千の塔がある。人類はすべての塔にアルファベットと番号を振った。
【A05】や【B03】などと表したりする。これは世界共通だ。
「【F02】と言いますと……ここも攻略難易度Cですけども?」
スマートフォンで調べた結果を見て、法院さんが首をかしげた。
【FO2の塔】
・F地区にある2番目の塔。赤晶石がある。
・背後に高い崖があり、攻略は正面からのみ可能。
・塔の前に駐屯している敵の数が多い。
・塔の近くに敵の拠点があり、増援がすぐにやってくる。
・攻略難易度はC(最難関)。
ここは守りやすく攻めにくい天然の要塞で、敵の拠点から援軍がやってきやすい。
たとえ赤晶石を破壊しても脱出は不可能。ゆえに全滅必至。それゆえ攻略難易度はC。
まともな神経をしていたら、選ばない塔だ。
だが俺はここを推したい。
「俺はここが一番、塔攻略しやすいと思うんだ」
「……?」
「うまくすれば、あまり犠牲を出さずに攻略できる」
俺がそう告げると、法院さんは一瞬呆けたあと「以前、仰っていたあの話ですか?」と聞いてきた。
「そう。前にファミレスで話したよね。ここだったら勝算があると思うんだ」
「そうですか、検討してみます。もし上野様以外が言っていたら、怒って席を立ったところです。……それで、どう勝算があるのでしょう?」
法院さんは先を促した。
どうやら、話を聞いてくれるらしい。
〇駆久町・松葉公園 四堂誠一
「あれ? ケントは?」
放課後、誠一が廊下に出ると、夏美が一人で待っていた。
拳人の教室は先にホームルームが終わったはず。なのに姿が見えない。
「拳人くんなら、さっき廊下をすっ飛んでいったのを見たわ。たぶん帰ったのだと思うけど」
「そうか……妹さんと約束でもあったのかな?」
「かもしれないわね」
あそこは、兄妹そろって仲が良い。
そのおかげで、誠一も拳人の妹のことはよく知っている。
「一緒に買い物とかかもな」
「拳人くんの場合、急ぎの用事って考えたら、妹さん以外、思い浮かばないのよね」
夏美はクスッと笑った。
三人で出かけると「妹がうるさいんだ」と、毎回お土産を買って帰る。
口ではいろいろ言うものの、妹離れできていないんだと思う。
「でもいまはその方がいいんじゃない?」
夏美が小声で、しかも真剣な表情で聞いてきた。たしかにそうだ。
「そうだな。昨日もらったあの長い調査結果はすべて読んだ。その上で聞きたい。あれは全部本当なのか?」
「本当よ。まず間違いないわ。そもそも偽装なんてできやしないでしょ」
「だよなぁ……」
昨日、雑誌『大衆パンチ』の記者について詳細なデータが集まったと、夏美が資料を送ってくれた。
調査対象である杉林秀治という記者は、とんだ食わせものだった。
一浪してK大学に受かったものの、在学中に左翼活動に傾倒。
大学二年になってすぐ、一般住宅への不法侵入を含めたいくつかの罪で書類送検されている。
左翼活動をやりすぎたようだ。
大学から半年間の停学処分を受け、留年している。
その後も左翼活動を続けたようで、さらに一年留年したあと二十五歳で大学を卒業している。
「どうやら活動中にレギオン『常勝不敗』と繋がったようね」
「本人は覚醒者らしいが、テラノヴァで活動はしていないんだろ?」
「まったくしていないわね。あと編集者内部で孤立していて、必要時以外は会社にも寄り付かないみたい。同僚から簡単に情報が集まったから、相当嫌われていると思う」
会社で孤立。それでも解雇されないのは、レギオン『常勝不敗』の後ろ盾があるからなのか。
出社していないため、会社も奴の普段の行動は把握していないようだ。
上司や同僚は、左翼活動に勤しんでいる付き合いの悪いやつという認識で近づこうとしない。
よって、普段の行動は調査できていない。
「そして思い出したようにスクープを持ってくるって……これ、あからさまな自演だろ?」
数カ月から半年おきに、奴の周囲で事件がおきている。
最近だと神社の賽銭泥棒に遭遇し、その一部始終をカメラに収めている。
犯人は近所に住む外国人実習生だった。スクープとして雑誌に登場してから捕まっている。
「捕まったその外国人実習生は、防犯カメラのない神社と賽銭泥棒のやり方をだれかに教わったらしいわよ」
「だれかって?」
「記憶があいまいで、たぶん飲み屋で知り合った人だったとか」
「……思考誘導の特殊能力でも、持っているのかもしれないな」
「その前は痴情のもつれによる刺殺事件ね。これもはじめから終わりまで写真を撮っているわ」
男女で口論し、女性が男性を背後から刺している。
「裁判記録では、視界が真っ赤になって気づいたら刺していた……か」
「偶然にしてはでき過ぎだし、編集部内部でも少し疑われているみたい」
なんらかの特殊能力を持っていて、それで事件をおこしていると同僚は疑っている。
「もし特殊能力を持っていても、覚醒者相手には効かないだろ……だからテラノヴァか」
疑いを晴らすには、覚醒者相手にスクープを取ってくればいい。
そう思ったのだろう。
だが、いつも自分だけがスクープの現場にいるのはおかしい。
どうすればいいか。別の人物を配置すればいいのだ。たとえば救助者とかだ。
「ヒュージパイソンは地面を這うように移動するのよね」
「ああ、ヒュージスパイダーなら背の高い藪の中を移動しても目立つが……俺たちのときは、見失ったのか!」
カメラを首から下げて隠れていたのは、いるはずの場所にヒュージパイソンがいなかったから。
誘引剤で原生魔獣を引き寄せたあとは、円形に忌避剤を撒いておけばその範囲から逃げ出すことはない。
その中しか移動しないのなら、あとはカモがやってくるのを待てばいい。
「雑誌の特集を見てあそこに行ったんでしょ?」
「ああ、ケントが『覚醒者通信』にファル遺跡が載ってたから見に行こうって誘われて……」
「普段、だれも行かないような辺鄙な場所を特集した記事を読んで、杉林はこう思ったのかも。ここに物好きな覚醒者がやってくるかもしれないって」
「いくら遺跡を観光したくても、一般人は来ないだろう。強力な覚醒者ほど忙しいから、やってくるのは俺たちみたいな覚醒したばかりの若い連中……」
ところが忌避剤が効いていない箇所があって、そこからヒュージパイソンが逃げ出した。
奴らはそれに気づかなかった。なにしろ、背の高い藪が生い茂っていたから……。
「という感じなのだけど、どう?」
「真っ黒だぜ」
どうやら雑誌のスクープ記事のために、オレたちは餌にされるところだったようだ。




